その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は宮沢洋さんの『 はじめてのヘリテージ建築 絵で読む「生きた名建築」の魅力 』です。

【ご挨拶】

 本書のタイトルを見て、「ヘリテージ建築って何?」と思われた方も多いだろう。辞書を調べると、「heritage(ヘリテージ)=遺産。継承物。または伝統。伝承」と書かれている。「ヘリテージ建築」という言葉は、辞書で引いても、ずばりの解説は見当たらない。そこで今回、本書ではこう位置付けた。

ヘリテージ建築とは?
完成から長きにわたって人々に愛され、
今も心地よく使われている建築物。
築年数にかかわらず、利用者の記憶を継承し、
つくり手の思いや業績を伝えるもの。

 本書は、 日建設計note にて、2021年5月から2年間にわたって連載した「イラスト名建築ぶらり旅 with 宮沢洋&ヘリテージビジネスラボ」の記事のうち20本を再構成し、座談会を加えたものである。
 日建設計は1900年に創業した日本で一番古く、かつ規模の大きい建築設計事務所である。連載名にある「ヘリテージビジネスラボ」というのは、そんな老舗設計事務所で2016年に生まれた「古い建築の再生ビジネスを専門とする」比較的新しい部署だ。
 日建設計から連載の話があった時、「それは社会的な意味が大きい!」と即OKした。

「古い建築を楽しむ」ことの大切さ

 筆者はかつて『日経アークテクチュア』という建築専門雑誌の記者だったが、2020年に独立してからは「画文家」を名乗り、建築の面白さをイラスト(画)と文章で一般に向けて伝える仕事をしている。なぜ元専門雑誌記者が一般に向けて発信しているかというと、「一般の人が建築を面白がる」あるいは「建築を好きになる」ことが、「建築物の長寿命化」につながると考えているからだ。
 民間のビルや公共施設が取り壊されるとき、その理由はほとんどの場合、「物理的な理由」ではなく、「運営上の理由」である。所有者や運営者が、現在よりも経済効率を上げるために建て替える、あるいは更地にする。日本は「もったいない精神」の国といわれるが、こと建築に関しては、「古いものに手を入れて使う」という意識に欠けている。
 存続の判断をするときに「この建築は面白い」「この建築が好きだ」というファクターがあれば、「改修して使い続ける」という選択肢が生まれる。日建設計からの依頼を即決したのは、まさにそういう流れを後押しするものと思えたからだ。

3つの「楽しみ方」でナビゲート

 各記事の取材には案内役として日建設計の西澤崇雄さんが同行してくれた。西澤さんの専門は構造設計で、博士号も持つバリバリのエンジニアだ。仕事を通じて歴史的建築物の活用の面白さに目覚め、「ヘリテージビジネスラボ」を社内提案。今はその部署を引っ張っている。
 本書で取り上げた20 件は、何らかの形で日建設計が関わっている。ただし、西澤さんも日建設計も、そのことを伝えたいわけではなく、「古い建築を楽しむ人を増やしたい」というリクエストだ。なので、本書の記事は、年代別やエリア別ではなく、「3つの楽しみ方」で分けた。「変化を楽しむ」、「物語に出会う」、「グルメを楽しむ」だ。
 凸凹コンビの2人と共に、「はじめてのヘリテージ建築」をお楽しみください。

宮沢 洋

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示