その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日本M&Aセンター、日経コンストラクション(著)の『 建設M&A 「買収」だけでなく「売却」の成長戦略が当たり前に 』です。
【はじめに】
日本の建築・土木技術は、間違いなく世界トップレベルです。法隆寺や伊勢神宮をはじめとする伝統的な建造物のノウハウをはじめ、瀬戸大橋や黒部ダムに代表される大型土木構造物から、ビルや道路、住宅に至るまでの、地震・災害大国で培われてきた世界最高水準の防災技術。安藤忠雄、黒川紀章、隈研吾といった著名な建築家による美しいデザイン──。こういった施工力や技術力、ノウハウなどは当然、未来へと受け継いでいくべきものですが、そうもいかない事態が生じています。
供給過多構造、事業承継難、人手不足、残業上限規制などの問題が山積し、経営が立ち行かなくなる企業が増えているのです。
バブルの絶頂期である1992年度に84兆円とピークを迎えた建設投資額(名目)は、大きく下がり続け、2010年度に41兆円と底をつきました。その後、東日本大震災による復旧・復興やアベノミクスによる成長戦略、財政緩和、東京オリンピック・パラリンピックや大阪・関西万博の需要などの効果で、2021年度は約67兆円(見通し)へと増加しています。それでも、建設投資額はピークと比べて、おおむね20%の減少です。
一方、建設許可業者数は1992年度に53万者だったのに対して、現在は47万者へと減っています。約11%の減少幅です。建設投資額の1者当たりの分け前から考えると、需要(建設投資額)に対して、供給(許可業者数)が多い「供給過多」の状態にあるといえます。このまま続くと総弱体化、場合によっては共倒れしかねません。
発注される建設工事の内訳は大きな変化を遂げています。1999年には維持・修繕工事の比率が20%弱でしたが、現在は30%へと推移。社会資本である道路や橋などの公共施設はもちろん、民間の建物においても、「今まで造った構造物のメンテナンス」の仕事が大部分を占めるようになりました。仕事があるという意味においては素晴らしいことですが、膨大な社会インフラを年々減少する人口・財政で支えるのは心もとない現状があります。
住宅に関しては、2000年代前半には年間100万~120万戸の新設住宅着工件数を記録していましたが、2010年以降は、超低金利や住宅ローン減税をもってしても年々値上がりし、100万戸を超えず、近年は80万戸台にまで落ち込んでいます。
事業承継も待ったなしです。建設産業の後継者不足は他産業と比べても高い水準で推移しています。地方に行くと70代や80代が経営者を務める企業は珍しくありません。
建設産業全体の就業者数は1997年の685万人から2021年には485万人へと約200万人が減少。技能者や技術者の高齢化も止まりません。災害後に人海戦術で迅速に復旧に当たれる地方の建設会社が確実に減っており、「災害対応空白地」は増すばかりです。
極めつけは2024年問題です。2024年4月には、時間外労働の上限規制が建設業界でも適用され、働き方を抜本的に変えなければ対応できなくなります。
このような各社に共通する問題を解決に導く手法の1つがM&A(合併・買収)です。
実は、日本の建設産業におけるM&Aの件数は増え続けています。レコフデータの調べによると、M&Aの件数は2012年の42件から2022年には125件と約3倍になっています。大手企業だけが用いる戦略だったのは過去のこと。地方の中小企業も積極的に検討する時代となり、それが件数の伸びを後押ししているのです。
M&Aの水準は海外と比べて低い
企業の数が多い建設業と製造業は10年以上前からM&A件数がトップ水準で、業界ごとに見たときの割合は実はあまり変わっていません。この2業種は比較的借り入れが重いので、廃業するにも費用がかさみ簡単ではないのです。
ただ建設業の企業数や業界環境を考えると、今後もっとM&Aが増えていくのは確実でしょう。現在、国内でM&Aが特に盛んに行われ業界再編が進行しているのが、調剤薬局や物流、あるいは多重下請け構造を抱えるITソフトウエアといった業界です。本書の第2章で説明している「M&Aの法則」から見ると、調剤・物流の業界では会社数が6万を超えて飽和状態となり、再編が進みました。建設業にもようやく再編の兆しが出てきたようです。
海外企業やAI(人工知能)をはじめとするテックベンチャーへの出資を拡大してDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を進める大手建設会社。中堅の建設会社をグループ化する住宅メーカー。建設会社などを譲り受け事業領域を広げる建設コンサルタント会社。連携で巨大企業化して、一貫して工事を手掛けるようにしたり仕入れ値を下げたりする工務店や電気・空調・管工事会社──。業界再編の波は、すぐそこまで来ています。そして、経営者の力次第で、その波にうまく乗り、会社を飛躍的な成長に導けるのです。
国内で熱を帯びているM&Aですが、それでも、海外と比べて件数は多くありません。企業の数やGDP(国内総生産)から考えると、日本は今後、M&Aの成約件数が2倍近くに増える余地があると見ています。中堅・中小企業がM&Aで集まり強い企業になり、革新するスピードを上げ、不毛な国内競争をやめて海外進出も視野に入れるべきです。
世界のトップ企業であるGAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta Platforms)、Amazon、Microsoft)は、30年間で800社とのM&Aを実施してきました。いまやこの5社だけで何と、東京証券取引所の時価総額を上回っています。時価総額トップ30の顔触れは、海外では常に目まぐるしく変化しているにもかかわらず、日本では銀行や証券、電力、通信、電鉄などのインフラ系や元国営企業に、総合商社が加わるといった程度でほとんど変化がありませんでした。しかし2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大、米国の利上げ、進む円安で、国内のランキングが大きく変わっています。構造が変化している今、多くの企業がチャンスを手にしているのです。建設産業も例外ではありません。
M&Aは「経営戦略の必勝パターン」であるにもかかわらず、国内においてはリスクが大きく難しい取り組みだとされ、残念ながらかつてはあまり良いイメージで受け取られていませんでした。しかし、今や状況は一変しています。M&AによるEXIT(出口戦略)は海外と同様、IPO(新規株式公開)で利益を得る「成功の象徴」と認識され、会社を売った経営者は「おめでとう」と声をかけられます。
私たちは、M&Aの力で企業が大きく成長し、日本全体が強くなるという想いを強く持っています。日本には、個々の企業の技術や経営の力を生かして、協調することで飛躍的成長を遂げる可能性があると信じているのです。
「激甚化する災害を前に地域の守り手として強い企業になること」「DX投資を加速させて生産性の高い収益型企業になること」「公共事業依存型から新規事業も請け負える強い企業を作ること」──。本書を通じて、自分たちの会社が、そして日本の建設産業が再び輝く道筋を見つけてもらえれば幸いです。
【目次】





