その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は榎本博明さんの 『勉強できる子は○○がすごい』 です。
【プロローグ】
自分で学んでいく力がある子、それが乏しい子
めまぐるしい技術革新により、ますます先の読めない時代になってきた。子をもつ親にとって気になるのは、わが子が大人になる頃にはどんな社会になっているのかということだろう。だが、人工知能の発達によって私たちの日常生活にも働き方にも大きな変化が生じつつあり、10年先、20年先を予測するのはほとんど不可能だ。
そこで、どんな時代になってもうまく適応していけるように、せめてわが子には学力を身につけさせてあげたい。そんな思いから早期教育を受けさせようとする親も少なくない。
だが、安易に早期教育を受けさせるのは危険だ。早いうちに何を身につけさせるのがよいのか。そこを慎重に判断する必要がある。
学力を身につけさせるのはよいが、その場合の学力とは何かということについて、きちんと整理しておくことが大切だ。
学力というと学校の成績をイメージする人が多いと思うが、成績の背後で働き、それを生涯にわたって大きく左右するのが学ぶ力だ。成績が学んだ成果の指標だとすれば、学ぶ力はもっと潜在的なもので、いわば成果を生み出す元になる力である。
わが子の成績にこだわり、「もっと勉強しなさい」と駆り立てる親をよく見かけるが、学ぶ力が身についていなければ、いくら机に向かって勉強したところで、ほとんど身にならない。一時的に成績が上がることはあっても、長続きしない。
では、どうしたらよいのか。学ぶ力をつけるのだ。学ぶ力を高めることで、成果としての成績も自然に上がっていく。学ぶ力が育っていけば、社会に出てからどんな仕事をすることになっても、必要なことを効果的に学んでいける。
学ぶ力の重要な要素として「メタ認知」がある。
知能は遺伝によって規定されているところが大きいが、メタ認知能力はトレーニングによっていくらでも高められる。それは、心理学の研究により実証されている。
ポイントは振り返る力
では、メタ認知とは何なのか。メタ認知とは、認知についての認知のことである。
ここで定義をもち出しても、ちょっとわかりにくいと思うので、詳しいことは本文の中でじっくり説明するとして、ここではさらっと触れる程度にしたい。
たとえば、教科書や参考書を読むのは認知の働きだが、自分がちゃんと理解しているかどうかを振り返るのがメタ認知である。
文章を読んで読解するのは認知の働きだが、どのような読み方をすれば理解しやすいかと考えるのがメタ認知になる。
大事なことを記憶するのも認知の働きだが、しっかり頭に入っているかどうか振り返ったり、どのようにすれば覚えやすいかを考えたりするのがメタ認知である。
いわば、さまざまな認知活動についての認知がメタ認知ということになる。
メタ認知についての具体的なイメージをつかんでもらうために、子どもの学習活動におけるメタ認知のことはひとまず棚上げして、身の周りの人たちのメタ認知について思いを巡らせていただきたい。
たとえば、つぎのような人はいないだろうか。
人がほめられたり、何かでうまくいったりすると、嫌みなことを平気で口にする。
あるいは、場の雰囲気を壊すようなことを言いながら、気まずさを感じている様子がまったくない。
いずれの場合も、自分の言動に対する周囲の反応をモニターする心の習慣があれば、けっして取れない態度だが、モニターすることがないため、見苦しい態度を見せたり、無神経な言動を繰り返したりする。
仕事でミスをしたとき、「もう嫌だ!」と嘆くだけで、原因を考えようとしない。
あるいは、上司や先輩からミスを指摘され、再発防止のためのアドバイスをされると、ムッとした感じになり、「それって説教ですか?」などと捨て台詞を吐く。
自分の現状を振り返る力があれば、そんな姿勢は取らずに、自分の至らなさに気づき、そこの改善を目指すはずだが、振り返ることがないためただ不快に思うだけで、いつまでも改善されず、似たようなミスを繰り返す。
正当な注意や叱責さえもパワハラと感じるようで、「パワハラを受けた」と周囲に触れ回り、ときにハラスメントを扱う部署に相談に駆け込む。
客の正当な要求やクレームに対して、いちゃもんをつけられたと感じ、敵対的な態度を取るため、しょっちゅうトラブルになる。
この場合も、自分の置かれた状況を冷静に振り返ることがないため、自分の感受性が歪んでいることに気づけない。そのため何かにつけて被害者意識をもつばかりで、一向に改善されない。
このようにメタ認知ができないために残念な姿をさらしている人物が周囲にいるのではないだろうか。この他にも、さまざまなタイプのメタ認知の欠如がみられるはずだ。よくありがちな事例をあげてみよう。
明らかにモチベーションが低くだらだらした感じなため、周りの人たちはもっとちゃんと仕事をしてほしいと思っているのに、ちゃんと仕事をしているつもりでいる。
商品知識について明らかに勉強不足なせいで、仕事で成果を出せずにいるのに、まったくそのことに気づかない。
日によって担当者が変わるため、引き継ぎ事項を連絡メモに残すのは必須なのに、しょっちゅう忘れ、注意すると「そうですね、忘れてました」とサラッとした受け答えをするだけで、相変わらず忘れてばかりなので、周囲の人たちを苛立たせる。
電卓を打ち間違えて、あり得ない数字が出ても、それをおかしいと思わずに、平然とその数字を報告する。
仕事が雑で、そのままにするわけにはいかないので、みんながこっそり直しているのに、そんな周囲の苦労に気づかず、ケロッとしている。
人に対して無神経で、すぐに攻撃的な言い方をするため、周囲から煙たがられているのに、そのことに気づかない。
他の人と意見が違うと、「なぜわからないんだ!」と苛つくばかりで、相手の側も「なぜわからないんだろう」と思っていることに想像力が働かない。そのため、自分の思うことを主張するばかりで、相手の言い分を理解しようという姿勢が見られない。
お客に対して感じの悪い態度を取っているため客がムッとした感じになることに気づかず、「なぜ私だけいつも感じの悪い客に当たるんだ。運が悪い」と嘆く。
口を開けば人に対する批判や愚痴などネガティブなことばかり言うため、周囲の人たちはみんなうんざりしているのに、そんなことにはお構いなしにネガティブなことばかり口にする。
上司がいるときといないときで態度がまるで違い、周囲からは見苦しいと呆れられているのに、本人は平気で上司におべっかを使い、調子の良いことばかり言っている。
周囲にこんなふうにメタ認知が働かない人がいるはずだ。メタ認知の欠如は、仕事への取り組み姿勢の問題につながっていき、なかなか思うような成果が出せないということになりがちだ。
子どもの勉強も同じで、メタ認知が欠けていると、勉強への取り組み姿勢に問題が生じ、いくら勉強してもなかなか成績が上がらないといったことになりがちである。
その場合、自分自身や自分の置かれた状況を振り返りつつ取り組み姿勢を調整するという心の習慣の欠如が問題であり、それがまさしく学ぶ力の欠如につながっている。
そこで、以下の各章を通して、メタ認知とはどのような心の働きを指すのか、メタ認知がどのように学習を促進するのか、さらにはメタ認知能力を高めるためにはどうしたらよいのか、といったことについて、具体的な事例に則して考えていくことにしたい。
【目次】