その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は野村総合研究所(編)の 『カーボンニュートラル』 です。
【はじめに】
カーボンニュートラルというキーワードは近年急速に知られるようになりましたが、関連する内容は多岐にわたり、かつ日々新しい情報に更新されていますので、その全容を把握することは簡単ではありません。本書は、カーボンニュートラルを体系的に理解することを目的とした入門書です。
カーボンニュートラルには、多くのステークホルダーが関係しており、その立場によって見方は様々ありますが、本書は、主に企業の視点からカーボンニュートラルを捉え、解説しています。
企業としてカーボンニュートラルへの対応を検討する上で理解しておくべき内容を、出版時点での最新の情報も交えながら網羅的に整理していますので、既にある程度の知識がある方にとっても理解を深める一助になると期待しています。
これまでに野村総合研究所では、カーボンニュートラルをテーマとして企業向けに勉強会や講演会を実施してきました。しかし、カーボンニュートラルという言葉の高い認知に反して、その定義や背景については曖昧で、正確な理解は必ずしも浸透していないと感じています。そこで本書では、そもそもカーボンニュートラルの定義とは何なのか、ここまで注目されてきているのはどのような背景があるのかといった点から解説を始めています。また、特に関心が高い水素・アンモニア、炭素回収・利用、カーボンクレジットなどのテーマに焦点を当てながら、企業のカーボンニュートラルの実現に必要な排出量の「管理」「削減」「除去」「相殺(オフセット)」の技術やソリューションの全体像を理解できるようにしています。
カーボンニュートラルが企業に与える影響や機会は、業界によって異なりますので、カーボンニュートラルの影響との関わりが特にある業界を取り上げ、先行企業の対応事例も交えながら各業界の動向をまとめました。そして、最後には企業のカーボンニュートラルに対する検討テーマについて、経営レベル、事業レベル、オペレーションレベルといった階層に分けて論点を整理しています。当社のコンサルティングサービスを通じて蓄積してきた知見をもとにしていますので、企業において実際にカーボンニュートラルを検討する際の実用的な内容となっています。
当社は、カーボンニュートラルというテーマについて、多くの経営者との対話を重ねてきました。カーボンニュートラルへの転換の流れが進むということは共通の見解ですが、企業としてカーボンニュートラルにどこまで踏み込んで対応すべきか判断する悩ましさを実感しています。本書としては、企業がこの悩ましいテーマに継続的に対峙していく上で、俯瞰的な視点に立ち戻るきっかけを提供できれば幸いです。
2022年5月 野村総合研究所 稲垣 彰徳
【目次】