その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は電通デザイアデザイン FUKAYOMIチームの『 未来の消費者は何を欲望するのか ヒット作品を読み解いて分かった6つの価値観変化 』です。

【はじめに】
FUKAYOMIの出発点は、大学時代にあった

 私は大学時代、いわゆる“リア充”的なものをとても毛嫌いしていました。今から約20年前のことです。当時の私は、お金もなく、恋人もおらず、イケメンでもなく、お酒もあまり飲めない、いわゆる“陰キャ”な人間でした。芸術や哲学、議論をこよなく愛する、頭でっかちな人間だったのです。

 テニスサークルで男女が楽しそうに戯れ、飲み会で大はしゃぎしている姿を目にすると、「なんて時間の無駄遣いなんだろう」と軽蔑のまなざしを向けていました。

 そんな私は、“人間とは何か”という問いを表現するため、映画サークルに所属しました。ジャン=リュック・ゴダール監督をはじめとするヌーヴェル・ヴァーグやウォン・カーウァイ監督に憧れ、自由なカメラワークやカット割りを駆使し、芸術性の高い作品を志向していました。

 ところが完成した第1作は、意外にも大衆に受け入れられ、映画祭では新人賞を受賞。テニスサークルの同級生からは「ザ・青春映画って感じで良かった」と言われる始末でした。

 おかしい──。私は独自の表現を模索し、自主映画界に新風を吹き込もうとしていたはず。みんなをポカンとさせたかったのに……。

 自作を見返しながら私は気付きました。私は、あれほど毛嫌いしていた“リア充”を、まさに映画の中で描いていたのです。出演者は演劇サークルで勧誘した美男美女。劇中では、彼らが偶然出会い、生き生きと日常を楽しんでいる。

 この映画は、自分の深層心理が表れたものでした。表面的にはリア充を嫌っていた私ですが、心の奥では意識を失うほどお酒を飲み、浴衣姿の彼女と花火デートをするような青春を、強く“欲望”していたのではないか──。

広告会社に就職して得た不思議な違和感

 大学卒業後、広告会社に就職すると、今度は自己表現からビジネス目的の表現へとシフトしました。コミュニケーションのプロとして、最適なメディアと表現を探ることが仕事となったのです。

 そこではプロとしてのスキルが求められ、時には“自分らしさ”がノイズとなる場面もあります。特に、クライアントから費用を頂いて制作するテレビCMなどでは、その目的に沿った純粋なアウトプットが求められます。

 そう思っていたのですが、実際には少し様相が異なっていました。様々なクリエイターの制作物には、明らかに“らしさ”が漂っていたのです。キャッチコピー、グラフィックデザイン、動画……どれも制作者の個性が感じられました。

 つまり、その人がこの世界をどう見ているか、人間をどう捉えているか、どのような社会を理想とするか、そうした視点やニュアンスが、制作物に薄らとにじみ出ているのです。だからこそ、著名なクリエイターは人をハッとさせる広告を生み出せるのだと納得しました。

シナリオライターの養成所で学んだ“構成”と“テーマ”

 入社から数年がたち、私はシナリオライティングを学び始めました。大学時代に映画を制作していたものの、シナリオの技術を体系的に学んだことはありませんでした。

 ちょうど広告業界でもブランデッドコンテンツやWeb動画が注目され始めた頃。私も大学時代の経験を生かしながら、スキルを拡張したいと考えたのです。

 授業は目からうろこの連続でした。広告とは異なり、映画やドラマ、アニメなどの映像作品には自由があると思い込んでいましたが、実は“人を楽しませるための鉄則”がしっかりと存在していたのです。

 その代表が「三幕構成」と呼ばれる物語構造です。映像作品には時間の制約があります。映画なら2時間、連ドラなら1時間、アニメなら30分。この限られた時間の中で観客を引き付けるには、展開や情報配置の精緻な設計が求められます。

 例えば、全体を1:2:1の比率に分け(これを三幕構成といいます)、主人公の性格・物語の舞台・ルール・目的の設定、対立と葛藤、成長、転機、結末といった要素を適切に配置していく。ぜひ皆さんも、好きな作品をこの視点で見返してみてください。

 さらに重要なのが「テーマ」の設定です。物語は面白ければ良い、というわけではありません。観客は一見、展開やキャラクターを楽しんでいるようで、実は“自分が共感できるテーマ”がなければ心が動かないのです。

 しかし、このテーマの設定が一筋縄ではいきません。私を含め、多くの受講生は「面白いシナリオを書きたい」という一心で、明確に“訴えたいテーマ”を持っていたわけではなかったのです。講師の先生はこう語りました。


 「プロの脚本家も最初からテーマを明確に意識して書くことは少ない。テーマは、書いていく中で自然と輪郭を持ち始めるものです」


 私はハッとしました。大学時代に“かっこいい芸術作品”をつくろうとしたつもりが、実際は自分の満たされない何かが表れた作品になっていたことに。広告業界のトップクリエイターたちも、クライアントの目的を十分に果たしつつ、自分の個性をにじませていたことに。

 表現とは、その人自身が自覚していなくても、必ず「欲望」をまとっているものなのです。

そして、FUKAYOMIの誕生

 シナリオライティングからの学びは、コンテンツマーケティングに限らず、インサイト分析、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、プロダクト開発など、マーケティングの様々な場面で役立ちました。そして、コロナ禍の最中、電通社内に「欲望」を研究するプロジェクト「電通デザイアデザイン」が立ち上がると知り、「これだ!」と思い、すぐに参加を志願しました。

 「未来の欲望予測」分科会に配属された私は、“映像コンテンツから未来の欲望を読み取る”というアイデアを提案しました。

 コンテンツには「制作者のテーマ=欲望」が必ず内在しています。それを三幕構成で分解すれば、可視化できる。そして、それに心を動かされた人の規模感は、動員数や話題量で測れる。今は小さくても、やがて社会全体に広がる可能性のある“未来の欲望”の芽が、そこに見つかるのではないかと考えたのです。

 試行錯誤の末、完成したのが「価値観変化の四象限」による構造分析と、ソーシャルリスニングによる感動ポイントの抽出。さらに、分析担当者たちが自身の世界の見方を持ち寄って、多角的に作品を深読みするというフレームでした。私たちはこの分析手法を、「FUKAYOMI(深読み)」と名付けました。

 さあ、ここ5年間の研究成果をいよいよ世に放つ時がやって来ました。私の長年の「表現」と「欲望」への関心がここに詰まっています。そして、FUKAYOMIの可能性を信じて共に分析と研究を進めてくれた最高の仲間がいます。その仲間たちとFUKAYOMIの集大成を本書で披露できることを心からうれしく思っています。

電通デザイアデザイン FUKAYOMIチーム 佐藤尚史


【目次】

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