その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は神農将史さんの『 後継ぎ経営者のための70点経営 地味な積み重ねが、人と利益を引き寄せる 』です。
【はじめに】
本書の「70点経営」という言葉は造語です。「100点満点ではなく、70点くらいの経営ができれば、十分にいい経営者であるはず」という考えに基づいています。そして70点は、「基本的なコツをつかめば、経営者のほとんど全員が手の届く点数」だと考えています。
松下幸之助や稲盛和夫のような、世代を超えて語り継がれる伝説の経営者を100点とした場合、「経営者を志す以上、彼らを目指すべし」と言われれば、多くの人が気後れしてしまうでしょう。
一般的な「優れた人」「熱意のある人」といったレベルを大きく超えた、圧倒的な能力や熱意を持つ人が確かにいます。そのような人が、小さな会社を世界的な大企業に成長させたり、倒産必至だった会社を立て直したりしています。
その一方で、337万社(「令和3年経済センサス」による)あるとされる会社の経営者全員が、そういった熱意を持ってやり続けることは現実的ではありません。強い熱意に突き動かされて急拡大や組織変革をする会社は、経営者はもちろん、働く人たちにとってもハードな職場になりがちです。
「ゴルフを真剣に練習しよう」と思ったとして、世界で活躍するトップ選手と同じ練習量をこなそうとはしないはずです。後輩や友人がこのように相談してきても勧めないでしょう。プロと同等の練習をしたら、体力自慢の人でも体が持ちません。
同時に、「全英オープンでの優勝を目指さないなら、ゴルフをやる資格はない」などと考えることもないでしょう。日々の練習やラウンドが苦痛になり、ゴルフを楽しめない人が続出するはずです。
これを読んで、「そんなの当たり前だろう」と思っている方がほとんどかと思います。しかし、会社経営になると上のような話を当たり前にする人が多くいます。私自身、たくさん聞く機会がありました。ご本人の覚悟はすばらしいものです。ただこのような姿勢は、良い経営者になろうという志を持つ人たちの数を減らしてしまうと、勝手に心配しています。
私は、日経トップリーダーというオーナー経営者向けの雑誌で記者をしています。生産性改善などの分野で、中小企業に(偉そうですが)お教えする機会もあります。
そんな私が日々接している中小企業経営者の多くは誠実です。そして、自身の経営戦略や人事・評価などが本当に正しいかと、悩んでいるように感じます。
後継ぎ経営者のほうがこの傾向が強い。ご自身で立ち上げた会社ではないからこそ、「自分が傾けるわけにはいかない」「自分のエゴで経営してはいけない」と強く考えているように思います。
そういう思いを持って日々経営している方、もしくは事業承継に備えて経験を積んでいる方の助けになるようなことができないか──。これが、本書の目的です。
「会社のつぶれにくさ」は「型」で追求できる
私は、中小企業経営者をたった1つの物差しで評価をするとしたら、「会社のつぶれにくさ」だと考えています。ご自身が創業した会社であれば、「どの程度つぶれにくい会社にしたか」、誰かから受け継いだ会社であれば、「引き継いだときと比べて、どの程度つぶれにくくしたか」です。もちろん、従業員の給料を削ったり、取引先に無理を強いたりといった手段に頼ってはいけません。
ベンチャー企業は、経営者・出資者・従業員が「社会を変える一大事業を興せるか、それとも倒産か」を覚悟して取り組む、文字通り「冒険的なもの」であり、一般的な会社経営とは別のものです。どちらが上か下かという話でもありません。
話を「会社のつぶれにくさ」に戻します。この視点に立つと、規模拡大も、事業の多角化も、生産性改善の徹底も、安定した採用や育成の仕組みづくりも、次世代への承継も、「会社のつぶれにくさ」を保ち、高めていくための手段です。
そして、この「会社のつぶれにくさ」を高める手法は、多くの優れた中小企業が当たり前のように実践している「型」として、いくつかを説明できます。驚くほど多くの共通点を持っています。ただし、地味なものばかり。
世の中に発信されている、経営に関する話はたくさんあります。それらの多くは再現性が低い。冒頭に書いたように、卓越した人の話はとても魅力的で、心を動かすものですが、多くの人にとって、自身の経営の参考にはなりにくいからです。
本書で紹介する内容のほとんどは、一般的なメディアに載せるコンテンツとしては「読まれない」ものばかり。地味で、シンプルで、誰にでもできそうだからです。しかしだからこそ、多くの経営者にとって参考になると信じています。
そんな、地味だけれど役に立つ記事をここ数年、日経トップリーダーで書いてきました。それらを再構成して、加筆・修正して完成したのが本書です。もし本書が役に立つと感じていただけたら、日経トップリーダーも手に取ってみてください。
本書によって、1人でも多くの経営者が、今までより少しでも良い経営を、楽しみながらできるお手伝いができれば幸いです。
【目次】



