その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は『 アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図 』。「まえがき」をお届けします。

【まえがき】

 本書は、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)の使い方を解説するハウツー本ではありません。生成AIのビジネス実装を手助けするための「未来地図」を示したビジネス書です。

生成AIに私自身も懐疑的だった過去

 私は2009年から2年間、スタンフォード大学のコンピューターサイエンス系研究室に客員研究員として在籍し研究を行っていたこともあり、機械学習や人工知能には多少の自信がありました。生成AIが登場した当初、LLMのベースになっているのはニューラルネットワークであり、ニューラルネットワークは「所詮は確率的な予測変換器であり、いくら高次元にしたところで、人間の仕事を置き換えるには程遠い」と結論づけていました。

 ところが2022年末、ChatGPTが登場します。記録的なスピードでユーザーを獲得し、雑談だけでなくコード生成や企画立案までこなす様子は衝撃的でした。2024年末には、「リーズニング」ができるようになり、「理系的な推論は苦手」という私の思い込みを、再度打ち砕いたのです。

 こうしたLLMの進化のスピードを目の当たりにし、私は価値観を180度転換し、2023年から本格的に生成AIを追いかけ始めました。私の仕事はベンチャーキャピタルのパートナーとして、シリコンバレーの将来有望なファンドやスタートアップを初期に発掘し、投資をすることです。ベンチャーキャピタルに参画する前から行ってきたエンジェル投資でも数百社の生成AIスタートアップを見てきました。さらに、500社超の生成AIの成功事例を集めた「生成AI事例集」を日本企業向けに有償で提供しています。

 過去2年間弱の間に、シリコンバレーを中心に生成AIスタートアップ1000社以上を見てきました。当初、懐疑的だった私も今となっては生成AIをビジネスに実装しないことこそ最大のリスクだと確信するに至りました。

生成AIのビジネス実装は米国では既に当たり前

 シリコンバレーでは、生成AIは既に多くのビジネスに実装されています。「生成AIのビジネス実装」という話を日本の大企業の経営陣の方にすると「ChatGPTを仕事でどう使うのか?」という話になりがちですが、チャット形式でのやりとり以外にも非常に多くの生成AIアプリケーションが存在します。

 先日、私自身が病院で診察を受けた際、医師との会話をAIがリアルタイムで文字起こしし、診療記録まで自動生成する場面に遭遇しました。医療従事者は内容を確認して「送信」ボタンを押すだけ。生成AIはチャットの枠を越え、業務プロセスそのものを刷新するフェーズに入っています。

 シリコンバレーでは、数千〜数万社の生成AIスタートアップが誕生しています。医療、法律、建設、製造など伝統産業の中で、特定の職種に特化したニッチな「業界特化型」のバーティカルAIスタートアップが誕生しているのが特徴的です。

 初期は人間の仕事の支援をするコパイロット型が主流でしたが、今や人間を介在せず自ら意思決定から実行まで完結させるAIエージェントが台頭してきました。

なぜ日本では生成AIが盛り上がらないのか

 2023年ごろから、日本の大企業の経営層のアドバイザー(顧問)をしていたこともあり「生成AIはこれからどうなるのか」という相談を数多く受けるようになりました。

 現時点では、米国の熱狂と比べると日本の温度感は明らかに低いままです。最も大きな違いはトップマネジメントの姿勢にあります。

 米国の経営者は報酬が株価に連動しているケースが多く、競合より早く最新技術を取り入れて優位性を築くことが使命です。そのため、生成AI導入を強力にトップダウンで推進するケースが圧倒的に多いです。一方、日本では「一応検討している」とは言うものの、実際には「様子見」の経営者がなお多数派で、導入段階になるとセキュリティやリスクの議論が先行し、結果として行動が遅れがちです。

 生成AIの業界特化型アプリケーションは大企業を主要顧客とします。大企業が積極的に動かなければ、スタートアップ側もビジネスにならず、エコシステム全体が盛り上がりません。この構造的な要因が、日本の生成AIスタートアップの成長を鈍らせているのが現状です。

 とはいえ、インターネットやクラウドが登場した当初も同様の懐疑がありました。それでも現在では不可欠なインフラとなったように、生成AIも「いずれ必要になるかもしれない」段階をすでに通過しています。2025年中盤のいま、この波に乗り遅れれば企業として確実に大きな損失を被る──私はそう確信しています。

日本の大企業にこそチャンスあり

 日本の生成AIのビジネス実装が遅れている状況であっても、私はあまり悲観的に考えていません。

 日本は少子高齢化や人手不足といった課題を世界に先駆けて抱える「課題先進国」であり、生産性向上への切迫感はどの国よりも高いのです。つまり、生成AIで解決すべき課題がどの国よりも多いのが日本だと言えるでしょう。

 また、生成AIはインターネットやクラウドのようにIT部門の枠内で完結しません。製造ライン、物流網、コールセンター、バックオフィス──あらゆる現場に直接入り込み、仕事のやり方そのものを作り替えます。大企業は長年の事業で蓄積した営業、設計、顧客対応、品質管理など膨大な業務データを保有します。生成AIのビジネス実装に不可欠な大量の「質の高い学習データ」を保有する伝統的な既存産業の大企業に決定的に有利だと考えています。

 「課題先進国」である日本において、大量の業務データを保有している伝統的な既存産業の大企業にこそ、生成AIを正しくビジネス実装できれば大きな成長が実現できます。いま求められているのは「様子見」ではなく「試行と学習の速度」です。生成AIの波は、勇気ある企業の帆を確実に押し広げてくれるでしょう。

本書の構成

 生成AIのビジネス応用を考える上では、複数の角度から俯瞰的に捉える必要があります。そこで、本書では大きく分けて以下の3つの視点から、生成AIビジネスの「未来地図」を整理しました。

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 第一に、生成AIによってこれまで不可能だったことがどのように可能になるのかという基礎原理を理解することが重要です。第1章(生成AIの全体像)と第2章(AIエージェント)では、生成AIの基礎を詳しく解説しました。生成AIとはそもそもどのような技術なのかを理解したい方に最適です。

 第二に、生成AIによってもたらされる変革を広く理解するために、業界を問わず生成AIに大きく影響を受ける職種をそれぞれ取り上げました。第3章(顧客対応・カスタマーサポート)、第4章(マーケティング・クリエイティブ)、第5章(営業・セールス)、第6章(組織・HRテック)、第7章(モビリティ・ロボット)、第8章(ガバナンス・セキュリティ)、いずれも生成AIがいち早く侵食している職種です。「職種」という軸で生成AIの影響を理解することで、これから日々の業務がどのように変わっていくのかがイメージしやすくなるはずです。

 最後に、特定の業界に特化したバーティカルAIがどのようにビジネス実装されていくのかをイメージしやすくなるように、第9章(ヘルスケア)、第10章(フィンテック)という生成AIが最も早く導入されている2つの業界のトレンド・事例を解説しました。生成AIが、それぞれの「業界」に特有な課題をどのように解決していくのかを事例を通じて理解することで、第1章から第8章までの内容が更に深く理解できるようになるでしょう。

 本書では、各章ごとに大きく3つの要素が含まれています。テクノロジートレンド、シリコンバレーの最先端事例だけではなく、日本のビジネス現場の最前線で生成AIのビジネス実装を進めているトップランナー(各章ごとのゲスト講師)の生の声の3本柱で、リアリティあふれる生成AIの「未来地図」を解説しています。


 読者の皆様が、本書を通じて少しでも生成AIがビジネス実装された後の「アフターAI」の未来地図を具体的にイメージでき、明日から踏み出せる小さな一歩につながれば幸いです。

 2025年7月 シリコンバレーの自宅にて

シバタ ナオキ

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【目次】

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『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』(日経BP)の刊行を記念したイベントが開催されます。2025年9月5日19時~ 六本木 蔦屋書店にて著者のシバタナオキさんが登壇、「アフターAI」時代に日本のビジネスパーソンの勝ち筋はどこにあるのかを語ります。オンライン参加も可能です。

■日時:2025年9月5日(金)19時(18時30分開場)~20時
■会場:六本木 蔦屋書店 2階SHARE LOUNGE内イベントスペース
※参加チケットの種類と料金などイベントの詳細とお申し込みはこちらから>>六本木 蔦屋書店『アフターAI』刊行記念イベント特設ページ