その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はアニタ・イサルスカ(著)、高崎拓哉(訳)、Lonely Planet(編)の『 葬祭ジャーニー 世界の「死」をめぐる、びっくりするような風習と儀式 』です。

【はじめに】

 死は芸術や音楽、文学でおなじみのテーマだが、実際に愛する人を失う痛みは筆舌に尽くしがたい。残された人は生きる意味を考えさせられ、形見や写真、追悼の行事を慰めにしようとする。死はありふれた現象だが、残された者にとっての意味はそれぞれだ。

 わたしの家には、誰も座らない椅子がある。ポーランドでは、特にクリスマスイブによくある風習だ。第二次世界大戦中にイギリスへ移ったわたしの家では、ニシンの酢漬けとカトリックの罪の意識と一緒に、この伝統が残っている。死者も生者のあとに食事を取るという古い考えに由来するものらしい。ポーランドのもてなしの精神を表すという説や、聖書のマリアとヨセフが宿を見つけられなかった話がもとだという説もある。19世紀には、シベリアへ強制移送された人のために、残された家族が彼らの帰国を祈って誰も座らない椅子を置いていた。

 わが家の空き椅子にも、時とともに新しい意味が加わっていった。最初は祖母の死だ。戦争を生き残った強く聡明な女性で、誠実ながらも大げさなユーモアが好きな性格は、家族の手本だった。その祖母は、この世を去ったあとに空いた椅子の主(あるじ)になった。

 次に、おじが急逝した。おじも祖母に並ぶ一家の柱だった。おじの死で家族のあり方は一変したが、同時にみんな、おじを忘れたくなかった。だからおじの口癖をまねして乾杯し、おじのひねくれたジョークを口にして、座る者のない椅子を見つめた。それは今や二重の意味で空(から)っぽな、立て続けに家族をなくした事実を物語る品だった。

 誰かが死ぬと、残された人は「言葉にならない」とこぼす。多くの人が、そこから死ぬまで言葉を探し続け、死という終わりの意味と、それが人生に与える影響を掴もうとする。

 わたし自身にとっても、死は昔から人生のテーマだった。だから、仏パリのペール・ラシェーズ墓地で墓碑を読み、メキシコの死者の日(P34)にはマリーゴールドで飾った祭壇について思いをめぐらせ、チェコのクトナー・ホラにある骨の納骨堂(P76)ではどくろのうつろな眼窩(がんか)を見つめてきた。意識的か無意識的かにかかわらず、世界中の生と死にまつわる情報を集めてきた。恐怖に囚われない人生を送り、悲しい死とうまく付き合う方法が知りたかったからだ。

 ここ10年は、同じことを狙った映画やTV番組が増えている。ドラマ『Flea Bag フリーバッグ』では、へそ曲がりの主人公が親友の突然の死に対する罪悪感に襲われる。『After Life アフター・ライフ』では、小さな町の新聞記者が耐えがたい悲しみを味わう。どちらも死とそのつらさが長く主人公たちにつきまとい、ブラックユーモアのネタや人間的成長のきっかけになっている。

 みんなで積極的に悼(いた)もうという新しい動きもある。「悲しみを癒やすには悼む必要があるが、わたしたちはその方法を知らない」。ポッドキャスト番組『グッドモーニング』の制作者のひとり、イモージェン・カーンはそう言った。「わたしたちは心の痛みを人前で、心置きなく、自由に表現する方法を本気で学ぶ必要がある」

 カーンがサリー・ダグラスと一緒に番組を始めたのは、哀悼という複雑な感情と、その根っこがわからない状態を自ら経験したからだった。「実際に人前で悲しんでみせ、それは当たり前の感情なんだとみんなにわかってもらいたかった」

 ホスピスや病院、自宅でひっそり息を引き取り、裏で悲しむのが当たり前の社会では、周囲の支えが足りず、悲しみに心と体をむしばまれる人もいる。「アフターケアが足りない」とダグラスも言う。「目標は、死と哀悼についてオープンに話し合えるようにすること。そうすればみんなでサポートし合い、意識を高め、啓発できる」

 このテーマに言及したもうひとつのポッドキャストが、エミー賞を受賞したTVキャスター、アンダーソン・クーパーが2022年に始めた『オール・ゼア・イズ』だ。クーパーは父と兄弟の死後に抱いた孤独感を「もうほかの人と同じようにはしゃべれないと感じた」と振り返った。それでも、他者の似た経験を聞くことで前に進めた。「喪失感を語る場に行って、同じつらさをみんなが味わっていることを知った。それでなんとか生きられた」

 そんなふうに、ほかの人が悲しみをどう表現しているかを知りたかったというのも、わたしがこの本を書いたきっかけだ。世界の人々は、どうやって死の悲しみを乗り越えているのか。さまざまな考え方や風習から、生き生きと過ごすために学べることはなんなのか。

 この本で紹介している伝統は多岐にわたるが、共通するテーマもある。愛する人を心から悼む場(P120)を設けることに、生を称(たた)えること(P10)。追悼の仕方や、亡くなった人を思い出す方法は驚くほどさまざまで、この本では創作棺(P86)から宇宙葬(P106)まで、いろいろな風習や習慣を扱う。深く思い、悲しむものだけでなく、終いじたく(P188)や看取りのドゥーラ(P184)といった実践的な指針もある。

 死の悲しみはすさまじいが、謙虚にさせてもくれる。個人の悲哀を人類全体の壮大なドラマの中に置くことは安心につながるし、愛する人をグリーン葬(P196)や天葬(P218)を通じて自然に還すことは慰めになる。仏教の教え(P192)では、死は移行期間であって終幕ではない。

 この本の中に、みなさんの心の琴線に触れる象徴や儀式、考え方があればうれしい。それらが死や死の悲しみ、あの世について考えるだけでなく、充実した人生を送るヒントになれば幸いだ。

2024年 アニタ・イサルスカ

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【目次】

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