その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は内藤裕二さんの『 健康の土台をつくる 腸内細菌の科学 』です。
【はじめに 腸内細菌の研究は、複雑なミステリーを解くようなもの】
──まさか、こんな菌が関わっているとは!
日々、世界の腸内細菌にまつわる論文を読んでいると、気にも留めていなかった菌がフューチャーされたり、もしくはある菌とある菌との密接な関係がクローズアップされたり、腸内細菌の世界は驚きに満ちています。
私たちの腸には、40兆個とも100兆個ともいわれる菌がすみついていて、さらにその種類は1000種類ともされていますから、当然かもしれません。
これらの働きがヒトに与える影響がどういったものなのかと考えることは、まさに難解で複雑なミステリーに向き合っているようなものです。小さな手がかりが発表されるたびに、「…ということは?」と、自分の推理で頭がいっぱいになります。
たとえば、今春、食事でとったコレステロールを別の物質へと分解する腸内細菌が見つかったという海外の研究報告がありました。さらに、この菌を腸内に多く持っている人はそうでない人に比べてコレステロール値が低い傾向にあったとのこと。そんな話を聞くと、「この菌があれば、脂質異常症の人は薬が不要になるのでは?」などと、夢を抱く人も多いのではないでしょうか。私もそうです。
そこで、私たち京都府立医科大学の研究チームが持つ腸内細菌のデータを引っ張り出し、その菌をどういった人が持っているのかと、照らし合わせることもあります。しかし、菌の画期的な働きが明らかになっても、日本人ではほとんど保有していない菌だったり、因果関係がはっきりしないものもあったりします。
そう、腸内細菌は、まず母親から譲り受け、その後食習慣や環境から影響を受けるので、分析するには、変数がとにかく多いのです。
ですが、目には見えない多数の腸内細菌たちが私たちになにをしているのか、その一端が少しずつ明らかになるたびに、彼らの重要性が以前考えられていたよりも大きいことがわかってきています。
もし腸内細菌がいなかったらどうなるでしょうか。腸内細菌がいない無菌マウスは、落ち着きがなく精神的に不安定だったり、また脂肪が吸収できなかったりと、さまざまな不具合が生じることがわかっています。
実際、私たち、ヒトの腸でも、腸内細菌が私たちだけではつくれない物質をつくっています。私たちにとって、腸内細菌はなくてはならない共生関係にあるものなのです。
さらに最近では、老化とも密接だとわかってきました。老齢マウスに、若いマウスの腸内細菌を移植したら、若返ったという報告もあります。そして、2022年、世界的な学会で、老化の要因に腸内細菌が加えられました。
では、そんな私たちと腸内細菌の共生関係をよりよいものにするには──?
私たち京都府立医科大学をはじめとする研究チームでは、2017年から京丹後地域(京丹後市、宮津市、与謝野町、伊根町)の長寿コホート研究を行っています。京丹後は、全国平均のおよそ3倍も100歳以上の百寿者の方が元気に暮らす有数の長寿地域です。2013年に116歳54日で亡くなった木村次郎右衛門さんも京丹後市にお住まいでした。
この地域の方々にご協力いただき、数々のデータをとらせてもらっています。その中には腸内細菌叢の検査項目もあります。
そこで見えてきたのは、京丹後地域の腸内細菌叢の特性です。京都市の方と比べると、京丹後地域の方は、酪酸という代謝物をつくる菌が多いという特徴がありました。また、食生活としては野菜や果物、豆やイモ、全粒穀類や海藻を食べる頻度が多いことがわかりました。そういった食材の共通点は食物繊維が豊富なことです。研究は途上ですが、腸内細菌を介した長寿の秘密に迫り、多くの方々の健康長寿に役立ててもらいたいと思っています。
そもそも、私は、潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患に腸内細菌が関わっているという研究を知り、消化器内科医として腸内細菌の研究に携わるようになりました。これらの疾患は生活に支障が生じ、本当につらいのです。そういった方々の治療に役立つ腸内細菌にまつわる研究成果も少しずつ出ています。
本書は、そんな私が追いかけている腸内細菌と抗加齢医学研究の最前線を一般の方にもわかりやすく伝えるためのものです。自分自身が関わっている研究だけでなく、国内外で進む研究についてご紹介します。そして、現在の腸内細菌研究からわかっている、健康を維持するため、そして健康長寿を目指すための生活習慣についても触れました。
「腸活」に関心がある方々の、よりよいヒントにつながればと思っています。
著者・内藤裕二
【目次】







