その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は速水悟さんの『 製造業向け人工知能講義 』です。

【はじめに】

─製造業での人工知能活用には大きなチャンスがある!─

 本書は人工知能を製造業で活用するためにどう学べばよいかについて、読み物としてまとめたものです。

 筆者は製造業をはじめとするユーザー企業の人材も技術を理解する必要があると考えてきました。日本は人工知能分野では後れをとってしまいましたが、製造業での活用には大きなチャンスがあります。ものづくりの知見とデータを持っている企業でなければできないことはたくさんあります。既に内製化に取り組んでいる企業も多く、潜在的な可能性を持った人材が豊富です。

 問題は初心者向けの教材は豊富なのですがオンラインビジネス関連が多く、製造業での活用との間にギャップがあることです。加えて、実際の課題に取り組むためには実践的なスキルが必要です。また、課題に対してどのように適用すればよいのかをガイドしてくれる人材が不足しているのですが、どのように育成すればよいかが知られていません。

 人工知能の進歩が速くあふれる情報の中で、変化に対応して自分なりの「見取り図」を描くことができていないのです。この傾向は生成AIの登場によって加速しています。技術の進歩の速さに対して教える側も学ぶ側も対応できていないのです。

 技術の進歩を理解して実践的なスキルを身につけるための見取り図を描き、学びのためのガイドを提供しようというのが本書の狙いです。

 実践的なスキルを学ぶ1つの方法は失敗に学ぶということです。筆者が企業との関わりの中で経験したこと、実世界のデータを用いた社会人と学生の取り組みを見守ってきた経験の中でどのような失敗を見てきたか、そしてそれをどのように乗り越えてきたかをお伝えしたいと考えています。

 深層学習については2020年以降に次々と新しいモデルや技術が登場しています。大きく見ると基本的なモデルや学習法も変化しているのですが、それらを扱っている教材はほとんどありません。社会人を対象として技術の解説を行ってきた経験を生かし、難しい専門用語を避けて新しい技術を普通の言葉で解説します。

 新しい技術は自分のものとして理解する必要があります。新しいモデルや適用事例などを知ったときに、自分なりの基軸を設けて理解を広げ、自分なりの見取り図を描いていくのです。次々に登場する新しい技術の固有名詞を覚えるのでなく、自分の言葉で他の人に伝えられるようになっていただきたいと考えています。

 AI規制についても同様です。信頼できる人工知能という言葉も聞こえてくるようになりました。こうした話題は基盤となるモデルを開発するようなIT企業だけの問題だと考えている人が多いと思いますが、そうではありません。基盤モデルを利用してエンドユーザー向けのシステムを提供する企業にとっても、利用するデータや開発のプロセスに関するマネジメントやガバナンスが必要です。こうした内容を整理して具体的にどんなことをするのかを含めて解説します。

 想定している読者層は、主に製造業の技術者です。最新の人工知能の概要を把握したい、製造業での活用について知りたい、既に取り組みを始めていて自分の理解をアップデートしたいと考えている人たちのための書籍です。経営層や中間管理職の方々にも参考にしていただけると思います。数学やプログラミングなどの予備知識は前提としていません。

 本書の内容は、次の通りです。

 第1講義は、人工知能とは何か、製造業のAI活用の課題、本書の概要を説明します。

 第2講義は、大規模言語モデルを取り上げます。生成AIの技術を一般の人向けに解説します。この章では入力の工夫で可能な活用法を解説します。対話型AIについて解説します。

 第3講義は、データサイエンスの実践的教育として、中核レベルの人材育成に関する取り組みを紹介します。実際の企業のデータを用いた実世界データ演習の運営に当たって、米国の先進的な事例を参考にしました。産学連携や社会課題の解決などの話題を紹介します。

 第4講義は、産業分野におけるAI活用を解説します。技術的な側面としてIoT(Internet of Things)と異常検知を解説します。画像による外観検査と画像と言語モデルによる説明性などの技術動向を解説します。マルチモーダルモデルのロボット制御と自動運転への応用を解説します。

 第5講義は、製造業のAI活用を取り上げます。大規模言語モデルに社内の情報を利用する方法を解説します。労働災害、現場用AIアシスタント、制御プログラムへの適用事例を紹介します。企業におけるAI活用を拡大し、事業領域に展開するための課題を解説します。

 第6講義は、人工知能の規制と管理を解説します。AI活用は技術を理解しているだけでは十分ではありません。AIの品質保証や機械学習モデルのライフサイクル全体の品質マネジメントを行う必要があります。ユーザー企業の立場から規制への対応を解説します。

 第7講義は、継続的な学びに向けて、現状を振り返って重要な概念を整理します。筆者が技術の進歩の速さの中でどのように学んできたかを紹介します。社会人教育に取り組んだ経験から教員側でどんなことに留意してきたかを紹介します。

 最後はまとめです。本書で伝えたいことは、人工知能を学び直すことで見取り図を描き、新たなビジョンを手にすれば1人ひとりの可能性はとても大きいということです。

速水 悟

【目次】

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