その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は藤本秀文さんの『 決断 パナソニックとソニー、勝負の分かれ目 』です。
【はじめに】
輝ける「昭和時代」の象徴
昭和になってからもうすぐ「100年」を迎えようとしている。第2次世界大戦と戦後復興、途中、オイルショックなども経ながら日本が経済的に成長を遂げていった「昭和」の時代。
この昭和の日本経済の成長を牽引したのは電機産業であり、自動車産業であった。その電機産業での象徴的な存在は松下電器産業(現・パナソニックホールディングス〈HD〉)であり、ソニーだった。
戦後の経済復興に伴う電化製品の普及とともに、大正生まれの松下電器はいち早く対応。日本の経営の神様と呼ばれ、立志伝中の人だった松下幸之助のリーダーシップによって、一代で世界を股にかける巨大企業を築き上げた。
幸之助は単に経営者としてだけでなく、当時、米国への配慮から業界が尻込みをしていた中国への経済協力なども積極的に展開、鄧小平副首相(当時)との会談を通じて、名だたる日本の大企業のなかで、中国に最も早く出た日本企業でもある。そんな幸之助を慕って経営者や政治家の卵たちは「松下政経塾」に集い、彼の経営哲学を学んだ。
終戦直後の1946年(昭和21年)に東京通信工業として出発したソニーは、後発ゆえに「まだ世の中に出ていない」商品の開発に血道を上げた。発明家としての側面もあったエンジニア・井深大と、経営者ながらにして「一流のマーケッター」でもあった盛田昭夫のペアで「ウォークマン」をはじめとする画期的な商品を世に送り出し、その名を世界に広めていった。
衰退から再生へ
しかし、右肩上がりの成長を遂げた昭和が終わりを告げ、平成の世の中に入って電化製品の需要が一巡すると、松下電器もソニーも一時期の輝きを失う。世界で圧倒的な強さを見せていたテレビやビデオなどの家電製品、半導体や液晶などの電子デバイスは中韓勢の台頭によって価格競争に巻き込まれ、衰退の一途をたどった。
最大の失策はインターネットへの対応だろう。1990年代に入り、インターネットが普及し始めると、これに乗り遅れた日本の電機業界は急速に失速する。代わりに台頭してきたのが米グーグルであり、マイクロソフト、アマゾンなどのいわゆる「GAFAM」だ。
なかでもアップル創業者のスティーブ・ジョブズは長くソニーに憧れを抱き、盛田氏との親交はよく知られている。そのソニーにしてもトップがインターネットのもつ既存ビジネスへの破壊力を察知しながらなかなか対応できなかった。
ソニーはつい最近まで赤字が続き、ソニー本体ではなく子会社出身の平井一夫氏が就任してようやく再建を果たし、今や「エンターテインメント」を軸に、新たな道を進みつつある。
一方、家電の大部隊をもつパナソニックは、社運を賭けたプラズマテレビ事業の失敗で多額の赤字を計上、こちらも厳しい経営状況に直面した。今は車載用電池やサプライチェーン(供給網)ソフト事業の展開などを進めながら、BtoB(企業向け取引)の拡大やハード主体の製品の売り切り型ビジネスからの転換を進めている。
どこで間違えたのか、これからの「決断」のゆくえは
かつては「VHS vs β(ベータ)」戦争に象徴されるVTRの規格争いや、テレビや半導体などの分野で激しく角を突き合わせてきた両社だが、今や進むべき道は大きく変わった。しかし、昭和からの時代を通じて、「ハードとソフトの融合」「インターネットをはじめとするIT(情報通信)への対応」など、時代時代によって、直面した経営課題は共通だった。
こうした共通する課題に両社はどのように対応していったのか。対応した結果がどうだったのか。そもそもうまく対応できたのか。
結論から言うと、うまく対応できなかったがゆえにGAFAMの台頭を許したわけだが、どうしてうまく対応できなかったのか。その原因を探ろうというのが本書執筆の動機である。
そして、インターネットに次いで、最近では人工知能(AI)への対応が議論を呼んでいるが、両社はどう対応していくのか。過去の教訓から何を学び、これからの経営課題にどう対応すべきなのかを見渡せないだろうか、というのが本書の狙いである。
時価総額で比較すると、ソニーに軍配が上がるが、その大きな要素としてインターネットなどITへの対応の巧拙が大きな原因となっているのは間違いないだろう。ネット社会の到来に対しての洞察力、新しい技術に対するアンテナの高さ、新しい経営課題に対して即応できる柔軟性、顧客が欲する製品やサービスへのマーケティング力など、復活を遂げたソニーでも会社変革には時間がかかった。
パナソニックは「ハードとソフトの融合」という課題を40年以上前から意識していた。昭和の後半には家電製品が行き渡り、今の「売り切り型」のハード主体の経営構造は、中韓勢の台頭でいずれ終わりになるという認識もあった。グループにはITネット社会に対応できる技術要素や人材はいたが、新しい技術とそれがもたらす社会の変革にトップ陣がうまくついて行けなかった。
両社が薄型テレビなどで失速する間に台頭したGAFAMははるか先にいる。しかし、最近ではiPhoneで躍進したアップルも次の一手に苦しみ、成長には陰りが見え始めているようだ。日本の電機業界から学んだ韓国勢もサムスングループは半導体事業の落ち込みなどで創業以来、初のストライキが起こるなど、頭打ちの状態が続く。
苦難からようやく抜けだし、追い抜かれたGAFAMや韓国勢などに対し、パナソニックやソニーはどういう戦略でかつての輝きを取り戻すのか。
過去の決断から何を学んで、それをトップが次の「決断」にどう生かすのか。本書を通じて少しでも読者の方々に味わっていただければ幸いである。
なお、本文中の敬称は略した。
【目次】







