その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は牛窪恵さんの 『若者たちのニューノーマル』 です。
【はじめに】
ある朝起きたら、〝21歳〞の若者になっていた。
そんな、カフカの『変身』のようなことが突然、わが身に起こったら……あなたならどうしますか?
本書の主人公は、ごく普通の会社員・渡辺正太(49)。新型コロナウイルスの感染拡大が叫ばれる「コロナ禍(2020年夏)」において、見た目だけが息子(21)に〝変身する〞という、ありえない事態に襲われました。
本書は、なんとか20代前半の日常に適応しよう、息子を「悪い道(誘惑)」から救おう、と悪戦苦闘する中年男・正太の姿を通して、コロナ禍の若者の消費やトレンド、SNS、働き方、そして恋愛・結婚観や家族のリアルを読み解いていく、【若者生活・体感型】の物語であり、マーケティング本です。
前半が物語部分、後半のマーケティング解説には、各章に登場したZ世代にまつわるキーワードや消費・価値観の時代背景、関連図表等を、たっぷり盛り込みました。
ここで「若者」として取り上げるのは、現16〜27歳までの男女。
小説、コラム、注釈部分ともに私・牛窪が、コロナ禍の2020年3〜7月、オンラインを通じて個別に取材(おもにZoomとSkype)、または細かなアンケート協力をお願いした、16〜27歳約130人の声をふんだんに散りばめ、書き上げました。
彼らはこれまで、ゆとり世代やミレニアル世代の一部、あるいは「Z世代」などと呼ばれてきた人たちです。本書では主に「Z世代」と表現しますが、章ごとに「コミュ力」世代、「ノー密」世代、「二刀流」世代、「先祖返り」世代と、それぞれ別名を付記しました。命名の理由についても、各章の後半で詳しく説明しています。
私は、マーケティングライターであり、世代・トレンド評論家です。テレビの情報・報道番組のコメンテーター出演や全国各地での講演・研修はいわば副業で、本業は約20年続けてきたマーケティング会社の経営と、近年「消費者行動論(マーケティング)」を担当させていただいている、立教大学大学院(MBA)での授業、そして経営研究。
従来は、主に現40代半ば〜50代半ばにあたる真性バブル世代〜団塊ジュニアの「おひとりさま」「独身王子」をはじめ、「草食系男子」(おもに現30代後半)、「ゆとり(別名・世の中を悟りきった〝さとり〞)世代」(主に現20代半ば〜アラサー)など計3000人以上に取材し、いわゆるマーケティング本を書いてきました。
そのベースは、世代に応じた人取材のほか、私や弊社スタッフが大手企業と日々行なう、数多くの定性・定量調査や取材など。そこで得た知識をもとに、正統派の世代論やマーケティングの書籍を20冊以上書き続け、その作業を「当たり前」と思ってきました。
ですが、本書のテーマである「withコロナ、afterコロナ」時代のいまは、Z世代を中心に社会全体が、従来とは違ったドラスティックなイノベーション、ニューノーマルを求めています。私自身も「今回はぜひ、今までと違ったスタイルで、Z世代のリアルを読者の皆さまに体感していただきたい!」……そんな思いで、この物語と解説部分から成る【若者生活・体感型】の執筆スタイルに挑戦しました。
ちなみに私、最終学歴(大学院修了)は立教大学の大学院(経営管理学)ですが、大学は日本大学芸術学部(いわゆる「日芸」)の映画学科・脚本コースの出身。黒澤明監督作品で、数々の名作(『野良犬』『赤ひげ』『天国と地獄』ほか多数)のシナリオを手掛けた、菊島隆三先生のゼミにおりました。
さて、本書の主人公・正太には、21歳になる一人息子・翔一がいます。仲間内のあだ名は、「ナベショー」。大阪のK大学に通いながら一人暮らしを続け、コロナ禍の20年春からは就職活動に臨む若者です。成績は「中の上」程度、サークルは、いま流行りの「フラッシュモブ」、すなわち公共の場で突如としてパフォーマンス(ダンスや演奏など)を披露する、ゲリラパフォーマンスの団体に属しています。詳しくは後述しますが、翔一の第一印象は、私が世に広めた「草食系男子」のイメージです。
一方、父親の正太は「突然の変身」の前々日まで、東京で当たり前のように満員電車に揺られ、食品メーカーに通っていました。新卒入社以来、一度も転職はせず、あと3年で勤続30周年になります。ところがコロナ禍の20年春、人事部に異動になり、新卒者の採用担当としてまさにZ世代の価値観や仕事観に注目し始めた矢先、先の悲劇に見舞われました。
ただでさえ、春からまったく違う環境下で仕事に携わることになった、正太。そのうえ、コロナによる働き方改革を強いられ、さらにこれまで「理解不能の世代だな」と一定の距離をとってきた息子・翔一の体に、まさか突然、自分が入ってしまうなんて……!
〝変身〞は、映画やテレビドラマでよくある、古典的な設定で、書き始めには迷いもありました。ですが今回、主人公(正太)を私とほぼ同世代、そして変身相手を「Z世代」としたことで、私自身が若者に感情移入しながら書くことができ、コロナ禍でZ世代に聞かせてもらった胸の内や心の叫びを、要所要所で吐露できたと自負しています。同時に、この【若者生活・体感型】の執筆スタイルを通じ、改めて「今後withコロナ、afterコロナ時代のニューノーマルを先導するのは、Z世代に違いない!」と確信しました。彼らは物心ついたころから、ほぼずっと不況で、たくましい「不況免疫」も感じました。
そして最後の最後まで、物語とマーケティングの両輪にこだわり、各章の巻末には、Z世代の理解に使えるフレームワーク、すなわち「STP分析」、「イノベーション曲線」、「カスタマージャーニーマップ」、「PEST分析」を、図解形式で入れ込みました。日経BP・日本経済新聞出版本部の桜井保幸さんには、ギリギリまで無理を聞いていただきました。本当に感謝しています。
皆さまには、映画やドラマを観るような気分で、あるいは視覚的にマーケティング理解を深めていくような感覚で、ワクワク楽しみながら読み進めていただけることでしょう。
マーケティング業務に関わる方はもちろん、主人公・正太と同じく若者の採用や人材活用に携わる企業担当者や、経営者の皆さま、「10、20代の後輩、部下や娘・息子が、何を考えているのか分からない」と頭を抱える方々、そしてZ世代の皆さま自身にも、ときに驚き、ときに共感しながらお読みいただけると確信しています。
この本を読み終えるころには、間違いなくあなたも正太のように、「Z世代」になり切れるはず! ニューノーマルをリードする彼らの価値観が分かれば、withコロナ、afterコロナの時代に向けて、前向きな希望とビジネスヒントが湧いてくることでしょう。
2020年10月 牛窪 恵
【目次】