その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はコリン・M・フィッシャー(著)、野中香方子(訳)の『 最強チームの設計図 成果の6割は「集まる前」に決まっている 』です。「序章」をお届けします。

【序章】

 ハリー・ポッターシリーズの悪役は誰か、と問われたら、大方の人は「ヴォルデモート卿」と答えるだろう。だが、グループダイナミクス(集団力学)を研究する社会科学者である私は、はるかに有害な悪役を見つけた。組分け帽子だ。

 組分け帽子は、11歳の魔法使いの卵たちの頭にかぶせられると、生徒を四つの「寮」に振り分ける。それぞれの寮には、勇気、知性、忠誠心、狡猾さといった独自の特徴がある。生徒たちはどこへ行こうと、着ている制服によって所属する寮がわかる。彼らは寮を単位として、学校生活のあらゆる面で競いあい、同じ寮の生徒を応援する一方、他の寮の生徒には負けてほしいと願い、しばしば悪者扱いする。分厚い全7巻のシリーズを通して、組分け帽子によって決められた寮を去る者はいない。物語の軸となる戦いにおいて、帽子が敵味方の境界線を引いているのは明らかだが、帽子やそのような組分けを排除しようとする人はいない。

 組分け帽子が隠れた悪役であり続けられるのは、それが私たちの世界でもあまりに身近なものだからだ。もっとも、私たちは人を分類するのに魔法の帽子を必要としない。脳がそれを代行するからだ。どこへ行っても、頭の中には分類用の帽子が存在する。人間社会は、自分と他者をグループ分けすることで成り立っている。国籍、政治的立場、ジェンダーといった大きな特徴によって人を分類し、家族、友人、仕事のチーム、スポーツチーム、バンドといった、小規模でより結束の強い集団にも分類する。

 私たちは集団で生きる生き物だ。所属する集団は絶えず変わり、いくつも重なり合っている。そして、どの集団に属しているかによって、ものの見方や感じ方も変わる。多くの人は、家族やルームメイトとともに朝を過ごすが、職場の同僚の中では、異なる振る舞いをする。そして仕事が終わると、友人と落ち合い、また別の振る舞いや考え方をする。数分間、大道芸の見物人のひとりになるかもしれないし、遅れた地下鉄を待つ不機嫌な通勤客のひとりになるかもしれない。それぞれの状況で、自分がその集団の中でどのような位置にいると考えるかによって、考え方や行動が変わる。

 人間の行動を理解することは、グループダイナミクス、すなわち、集団が私たちの思考、感情、行動を、目に見える形でも見えない形でも形づくる仕組みを理解することだ。人生のあらゆる瞬間に、集団の暗黙のルールに従いなさいというささやきを聞く。例えば、大道芸の見物人のひとりになっているときには、他の人たちが拍手するときに拍手して、高揚感を共有する。自覚のないまま、目立つことを避け、周囲に同調し、実際には感動していなくても、周囲に合わせて拍手する。職場でも家庭でも、仲間から認められようと競い、外部の人間が自分たちの集団を脅かすと、その集団を自分自身の一部であるかのように守ろうとする。極端な場合には、心の中の組分け帽子は、人類最大の偉業を生み出すこともあれば、最悪の悪事を引き起こすこともある。

緊急救援委員会

 1940年、アメリカ人ジャーナリストのヴァリアン・フライは、「3000ドルをテープで脚に貼りつけ、危険にさらされた芸術家と知識人200人のリストと、彼らの避難を支援するための指示書を携えて」フランスのマルセイユに渡った。もっとも、フライはたったひとりで200人を救ったわけではない。彼は仲間を集めた。「緊急救援委員会(ERC)」と呼ばれるその組織は、わずか1年余りの間に、2000人以上の人がナチスから逃れるのを助けた。

 フランスに向かったとき、フライには明確で重要な任務が課されていたが、その方法についての指示は皆無に近かった。彼は外交官でもなければ、諜報員でもなかった。「今まで地下活動などやったことがなかった」とフライは書いている。「それに、リストに載っているのは知らない人ばかりで、……どこから手をつければよいのか、見当もつかなかった」

 フライはまず、リストに載っている200人に手紙を書くことにした。中には、ヴァルター・ベンヤミンのようにナチスに捕まるのを恐れてすでに自殺した人もいたが、多くの人はフライの支援を必要としていた。マルセイユに到着してまもなく、フライの任務についての噂が広まった。彼が滞在するホテルには、フランスから脱出する道を探す数千人からの依頼が殺到した。

 フライはひとりではそれをこなせなかった。チームが必要だった。

 まもなく仲間が見つかった。労働組合系の活動家フランク・ボーンは、仲間の組合員をフランスから脱出させる活動に従事しており、その活動で得た情報をフライと共有した。遺産相続人メアリ・ジェイン・ゴールドは、ERCの活動の多くを資金面で支え、持ち前の社交術と人脈も生かした。後には、英国の諜報機関と協力してナチスに対抗した。若き政治活動家で、経済学者を志す亡命者でもあったアルバート・ハーシュマンは、他の亡命者たちがフランスとドイツの当局をかわし、高く険しいピレネー山脈を越えるのを支援し続けた。元警察官のダニエル・ベネディートは、活動の運営を助け、必要に応じて警察の追及をかわす手助けをした。風刺漫画家のウィリ・スピラは入国手続きの書類を偽造した。ERCの事務運営を担ったレナ・フィッシュマンはロシア語、ポーランド語、スペイン語に堪能で、難民に手紙を書き、聞き取り調査をした。自由と生命が脅かされても、メンバーの一人ひとりが役割を果たした。なぜなら、彼らは、自分自身の利益よりも仲間との絆を優先したからだ。

 人間は純粋に自己中心的で個人主義的だと考えていては、ERCの存在を説明できない。ナチスの台頭のような圧倒的な問題について考えをめぐらせると、当然ながら無力感を覚える。また、現実の脅威に直面すると、自分の身を守ることを優先し、人とのつながりを築くよりも、むしろ断とうとしがちになる。

 それでもERCの物語には、グループダイナミクスの良い面と悪い面の両方が表れている。良い面としては、集団の一員であることで得られる社会的結束をERCは活用した。その結束があればこそ、きわめて過酷な状況下でもメンバーは協力できた。極端なケースでは、仲間を助けるために苦境に陥り、命を落とした人もいる。

 もっとも、ERCが必要とされたのは、ナチスが集団を基準に物事を考える人間の性質の暗い面を武器にしたからだった。ナチスは私たちの内なる組分け帽子の邪悪な渇望をあおり、「我々」を称賛し、「彼らを」非難した。その結果、非常に多くの人々が、言葉にできないほど残虐な行為を犯し、あるいは容認し、何百万人もの罪なき人々が虐殺された。ナチス・ドイツは、人間が持つ集団を基準にした考え方を武器にした最も強力な例の一つだが、今日でも、ある集団を優遇し別の集団を貶めるという、人間の傾向を利用する例はよく目にする。それは校庭で、職場で、政治権力の頂点で起こっている。

 人間らしさを象徴する物語には、自分の集団への忠誠と、他の集団への敵意が繰り返し描かれてきた。そうした人間の行動の素晴らしい面と恐ろしい面を解き明かし、さらには制御することさえ可能にするのが、これまであまり注目されてこなかったグループダイナミクスという学問である。本書で紹介する研究は、なぜ人間が協力し、同調し、あるいは競争するのかを理解するための鍵を握っている。そして、その力に、私たちがどう対処すればよいかも教えてくれる。

なぜグループダイナミクスに関する本を読むべきなのか

 集団生活から逃れることはできないため、私たちは日々、その独特の性質や可能性、危険と向き合っている。マクロレベルからミクロレベルまで、国家から仕事のミーティングまで、信仰する宗教から家族でのバーベキューまで、私たちの生活はグループダイナミクスによって形づくられている。協力する能力は人類がさまざまな成果を成し遂げる基盤であり、ほぼすべての科学的発見、世界を変えるビジネス、無人島に持っていきたい音楽アルバム、伝説的なスポーツチームには、その核心に素晴らしい集団が存在する。しかし、集団とは何であるか、それはどのように機能するのか、どうすればその力を最大限に引き出せるのかを、私たちは普段ほとんど考えることがない。

 グループダイナミクスというと、多くの人が思い浮かべるのは、良いことではない。集団に関して私たちの興味をそそるのは、同調、極性化、偏見、対立、衆愚といった暗い特徴ばかりだ。政治家は私たちの心の中にある組分け帽子の暗い面につけ込み、自分のグループに属さない人を非難し、人間性を否定し、不当に扱うよう、私たちを仕向ける。ソーシャルメディアは、人々をコミュニティから切り離す一方で、集団間の嫌悪と不寛容を強化する。政治的対立、戦争、残虐行為の背後にあるのは、自分と他者をグループ分けしようとする傾向だ。

 私たちはより良い集団、すなわち、問題ではなく解決策になる集団を必要としている。集団を必要悪と見なす個人主義的な考え方から脱却しなければならない。これまで見過ごされがちだったが、条件さえ整えば偉業を成し遂げられる集団の驚くべき力について、今こそ、これまでとは違う物語を語るべき時だ。あなたが自分自身、職場のグループ、あるいは世界を変えたいのであれば、グループダイナミクスの目に見えない力に振り回されるのではなく、その力をうまく生かす必要がある。

 本書を読めば、グループダイナミクスの科学を活用して、集団の中でよりよく暮らし、働くための方法が見えてくるはずだ。グループの潜在力と自分自身の力を最大限引き出す秘訣は、効果的な協力を生み出す次の六つの条件にある。それは、メンバー構成、目標、タスク、規範、心理的安全性、そしてコーチングである。これらの条件を整えることで、これまで見過ごされてきたグループダイナミクスの科学的知見を最大限に生かすことができる。この六つの条件を理解することは、成果を上げ、メンバーに大きな充実感をもたらす集団をつくる鍵なのだ。

 本書はチームリーダーだけに向けたものではない。人間の行動と世界を理解したいすべての人に向けたものだ。集団という観点から考えることで、家庭でも職場でも学校でも、人間関係を改善できる。そして、あなたがより良い決断を下し、より創造的になり、より強い帰属感を持てるよう、手助けしてくれる。

 グループダイナミクスのパズルのピースは、社会心理学、社会学、経済学、人類学、政治学、神経科学、経営学など、社会科学のさまざまな分野に散らばっている。本書では、億万長者がヨットを集める習性から、DNAの秘密の発見、『スタートレック』の悪役まで、さまざまな事象を説明する最新の研究を紹介する。目指すのは、集団について科学が教えてくれたこと(および、教えてくれないこと)を、深く、しかもわかりやすく概観し、グループダイナミクスに関する科学的研究をどう活用すれば、自分自身を変え、より深く理解できるかを探ることだ。

 私の最初のキャリアはプロのジャズ・トランペット奏者で、その仕事を通じて数十か、もしかしたら数百ものグループに属してきた。数十年の歴史を持つグループ(イーザー・オーケストラなど)で演奏したこともあれば、他のグループと(例えばジャムセッションなどで)ほんの数分演奏したこともあった。私は常に、見知らぬ人同士が瞬時に個々の総和を超える存在になることに興味をそそられてきた。その答えを探しているうちに、どういうわけかハーバード大学から博士号を授与された。現在はユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで組織科学の教授として、学生、企業幹部、政府の指導者たちに、チームや組織を率い、支援し、コーチングして、その潜在能力を発揮させる方法を教えている。

 本書では、私自身や他の人たちの経験に基づくさまざまなエピソードを紹介していく。それらを通じて、厳密な社会科学の研究から得られた知見が実際にどのようなものなのかを具体的にイメージし、自分の生活にも生かしてもらえればと思う。これらの物語は、何十万人もの人々の経験を集約した科学研究を理解するための手掛かりになるだろう。グループダイナミクスやリーダーシップについては、私やあなた、有名なアスリート、セレブ、企業幹部といった一個人の体験談から教訓を得ようとしがちだ。しかし、何十万人もの人々の経験を集約した科学研究のほうが、たった一人の体験談よりも信頼できるはずだ。

 本書は四つのセクションからなり、それぞれ3章から4章で構成されている。セクションⅠの「協力」では、集団とは何か、そして、共通の目標に向かって力を合わせ、一人では成し遂げられないことを達成するという、集団で生きることの最大のメリットについて解き明かしていく。続いて、セクションⅡの「同調」とセクションⅢの「競争」では、人が集団になったときに現れる二つの重要な現象に焦点を当てる。どちらにもよく知られた危険性がある一方で、意外な利点も隠されている。こうした集団生活のパラドックスに科学的に対処する方法を解説し、あなたがグループやチームの中で大きな成果をあげられるように手助けしたい。最後のセクションⅣ「集団を導く」では、リーダーシップを一人の英雄や悪役だけが担うものではなく、全員が役割を果たしてグループの基礎となる構造を維持・改善していくチームスポーツのようなものとして再定義する。各セクションの合間には、「実践的ヒント」と題したコラムを設けている。そのセクションで扱った理論を実践に移すための具体的なアプローチを紹介しているので、本書の知見をより手軽に活用してもらえるはずだ。

 本書は数十年にわたって行われた数百の研究をまとめたものであり、探究する領域は広範に及ぶ。本書では、グループダイナミクスを大きな視点から捉え、社会を見る新たな視点を提示する。こうした視点は、通常は見えないパターンを見せてくれる赤外線ゴーグルのようなものだと私は考えている。

 「集団的な視点」から世界を見ると、見え方が一変する。集団のレンズを通して人間の行動を見ると、日常の平凡な瞬間にも特別な瞬間にも、これまで見えなかった側面が見えてくる。そして、日常を形づくっている目に見えない力にも気づくようになる。仕事でも生活でも、社会を個人単位ではなく集団という単位で見るようになれば、すべてを考え直すことになるだろう。それによって、集団だからこそ得られる強みを手にできる。

 その方法を探っていこう。

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【目次】

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