その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は片岡裕司さん、阿由葉隆さん、北村祐三さんの 『「目標が持てない時代」のキャリアデザイン 限界を突破する4つのステップ』 です。
【はじめに】
新しい目標を次々に生み出すキャリア新世紀
「自分のキャリアはこのままでいいのか?」
本書を手に取られた多くの方がこんな気持ちを持たれているのではないでしょうか。
「何かを変えたいが、何から始めればよいかわからない」
「今の会社にずっといたいとは思わないが、生活の保障を考えるとリスクを取れない」
「資格取得を考えているが、それが本当に役に立つのか自信がない」
漠然とした不安を抱え、何かを頑張りたいが、何を頑張っていいかわからない。先のことには目をつぶり、とりあえず目の前の仕事を頑張るしかない。
皆さんがそう思うのは当然のことです。なぜなら、働き方が激変する時代の特性と、これまでのキャリアを考える方法論がフィットしていないからです。
働き方の大きな節目がやってきた
激変した今の時代を本書では、目標が消える・持てない「目標喪失時代」と呼んでいます。
ちょっと話が飛びますが、戦国時代から江戸時代、そして明治維新へと変わっていった時代のことを考えてみてください。戦国時代の武士は目標が明確でした。戦で武功を上げ、立身出世していく。そのためには剣術をはじめ武芸を磨くなど、すべき努力もはっきりしています。時代が進み江戸時代。長く戦のない時代となり、武士にとって何を目指すか、何を努力するかが曖昧、多様になっていきます。さらに時代が進み、明治維新。遂には武士そのものが消滅します。
目標喪失はこのように、目標そのものがなくなったり、目標が無意味になるほどの想定外の変化が起こったりする時代の大きな節目の現象です。そして今、働く私たちを襲っているのが戦国時代から明治維新に至るような時代の激変なのです。
1つの会社、1つの専門性を追い、管理職という目標へとステップアップする。これがかつての会社員の姿でした。しかし、これからの20年、猛スピードで時代は変化していきます。戦国時代の武士が、現代の会社員だとすれば、そうした身分(職業)自体がいつしか少数派になるかもしれません。
これらの変化を推し進めるのが、「AI化」「人生100年時代」「人口減少」「コロナショック」等といった時代背景です。
目標を失った先に待つ「想像以上の新たな自分」
目標喪失時代という言葉に、ネガティブな印象を持つ方もいるでしょう。しかしその本質は、社会が規定し、私たちが「当たり前」と考えていた目標がどんどん失われる代わりに、新しい目標を自分自身で生み出せる時代に変わるということです。武士の例でいえば、刀を失った、しかし実業家でも教師でも新たな産業の担い手でも何にでもなれる機会を得たということです。
大切な目標を失うことは確かにショックな出来事ですが、見方を変えれば、目標を失った先にいる、想像すらしなかった新しい自分と出会えるチャンスでもあります。
そのチャンスを活かすには、新たな目標を生み出す方法論が必要です。本書は、時代を切り拓く新しいキャリアデザインの方法論をお伝えしていきます。
キャリアを考えるにはこれまでは、「WILL×CAN×MUST」という3つの視点から目標を見出そうとするフレームがよく使われてきました。目標を定め、より効率的なプロセスを描き、その達成を目指していくものです。一方、目標喪失時代のキャリアデザインでは、プロセスの中で次々と目標を生み出していきます。目標を生み出す土壌としてもっとも重要になるのが、キャリアの目的(パーパス)を育むことです。
「4つのステップ」を循環させる
【目標喪失時代のキャリアデザインの4ステップ】
[ステップ1]キャリアの目的(パーパス)を育てる
[ステップ2]体質改善に取り組む
[ステップ3]目標をたくさんつくる
[ステップ4]キャリアを楽しく実験する
これら4つを循環させることで、目標を次々生み出し、現時点では思いもつかないような、想像以上の自分になることができます。
いつの時代も変化というのは、それに抗った人には向かい風となり、取り込んだ人には追い風になります。今、皆さんが人生を歩む上で向かい風を感じているのであれば、ぜひそれを追い風に変えてください。
「目標主導→目的主導」「自分ひとりで考える→他人に聞く」「絞り込む→たくさんつくる」「綿密な行動計画→楽しく実験」などなど、本書で説明する方法論はシンプルで一つひとつは難しいことではありません。ただ、今までの常識とは異なるので、まじめな人ほど違和感があるでしょう。しかし、「できること」で「やっていないこと」を積み上げていくことが私たちの人生を大きく変えていきます。楽しんで本書を読み進めながら、勇気を持っていろいろとチャレンジしていただければ幸いです。
ワークショップ形式で楽しく実践
本書は8章構成となっています。序章ではキャリアデザインの方法論を刷新すべき背景について、第1章では目標喪失時代のキャリアデザインの全体像(「4つのステップ」)について解説。第2章から第5章はステップそれぞれに関して、解説とワーク、ケーススタディをセットにしています。キャリアデザインについては、組織の人事部門の役割も大切になってきます。第6章は人事の仕事をされている方にも役立つように企業事例を紹介、終章はまとめとなります。序章から順番に読んでいただくことを想定していますが、ワークを体験しながら早く実際のキャリアについて考えたい人は第2章からスタートして一気に第5章まで進んでいただいても構いません。
なお、本書は主に30代、40代の就職氷河期世代を意識していますが、50代半ばで今後のキャリアに不安を抱く方や、就職活動中の方にも参考になるものと自負しています。
最後になりましたが、著者陣の自己紹介をさせていただきます。私は株式会社ジェイフィールのコンサルタント、片岡裕司です。組織開発コンサルタントとして人と組織を元気にするのが仕事です。同業の人事、人材系のコンサルティング会社のほとんどが、業績や生産性向上のための組織の強化を目標に掲げる中、私たちはイキイキ、ワクワク働ける社員を生み出した上で、結果として成果が出てくるという組織開発に取り組んでいます。
本書は私たちがさまざまな企業研修を通じて積み上げてきた知見をベースに、社会人向け大学院で教鞭をとる片岡、プロのコーチでもある北村祐三、キャリアカウンセラーでもある阿由葉隆の3名の異なる専門性をぶつけながらつくり上げました。実際の執筆に際しては、主に片岡が理論部分、阿由葉が各章のケーススタディ、北村がワーク部分を担当しています。3名の講師が分担しながら進む構成となっており、楽しみながらワークショップに参加する気持ちで読み進めていただければと思います。
社会が用意したレールではなく、自ら新しいレールをつくり出し、走っていける力を身につける。これは、激変の時代を味方につける方法です。私たちと一緒にその力を身につけていきましょう。
2021年8月 片岡裕司
【目次】