その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は山田英夫さんの『 競争しない競争戦略 改訂版 環境激変下で生き残る3つの選択 』です。

【はじめに】

 『競争しない競争戦略』の初版を出版してから6年がたった。この6年の間に、経営環境はガラリと変わった。DX、IoT、フィンテックなどの技術変化、シェアリング・エコノミー、リカーリング・モデル(サブスクリプション)などの新しいビジネスモデルの台頭、そしてSDGs、環境問題、ガバナンスなどの企業統治上の課題に加え、新型コロナウイルスの蔓延が、世界中の企業に大きな影響を及ぼした。
 しかし一方で、変わらなかったものもある。その代表例が、日本企業の横並び志向である。「同業他社が始めたから自社もやる」「他社がやめたので自社もやめる」という思考パターンは、いまだ根深いものがある。
 それに加えて、成長分野に皆が飛び込む“満員バス”現象も根強い。DX、IoT、ヘルスケアなど、表立っては反対しにくく、役員会を通りやすいため、満員のバスに皆が乗り込もうとしている。
 その行く末が同質的な価格競争であり、新規市場のレッド・オーシャン化である。その結果、日本企業はますます利益率を下げていく。せっかく新分野の開拓、新しいビジネスモデルを考えたにもかかわらず、そこでもかつての同業他社との価格競争を繰り返している。
 競争相手が明確であり、頑張れば逆転できる競争を、日本企業は得意としてきた。しかし反対に、知恵を絞って競争を回避し、自社独自のポジションを築く競争は、経験量が少ないため不得意としてきた。

 本書で強調したいのは、いかにして競争せず、自社の独自性を貫くかという戦略である。同業に見本・手本がないことから、自ら頭をひねって戦略を考えていかなくてはならない。
 そのためには、「競争しない競争戦略」を考えるフレームワークと、現実にそうした戦略をとって成功してきた企業事例を学ぶ必要があろう。
 本書は、「競争しないこと」が企業の利益率を高めるために必要であることを、3つの戦略(ニッチ戦略、不協和〈ジレンマ〉戦略、協調戦略)に分けて示していく。
 まずニッチ戦略に関しては、体系的にニッチを探し出すためのマトリックスを示し、10のニッチ戦略について説明した。
 次の不協和(ジレンマ)戦略とは、リーダー企業の組織内にジレンマを引き起こすことによって、リーダー企業が同質化をしかけられない状況を作り出すことである。その戦略として4つのパターンがあることを示した。
 最後の協調戦略とは、他社のバリューチェーンの中に入り込んだり、自社のバリューチェーンの中に競合企業を引き込んだりすることにより、より強い企業と共生して、攻撃されない状況を作り出すことを指す。これにも4つのパターンがあることを示した。
 本書は競争しない戦略を提言することを目的としているが、競争しない戦略は、相手があって初めて成り立つものである。その意味では、業界のリーダー企業が追随できない状況が必要であり、競争しない戦略をしかける側だけでなく、業界リーダー側の戦略の分析もセットで行っている。

 本書の構成は、まず第1章で「競争しない競争戦略」の理論的背景と、環境が激しく変化する中での「競争しない競争戦略」について述べる。VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:あいまい性)と呼ばれる先が読めない環境変化の中で、「競争しない競争戦略」がどう変わっていくのかについても解説している。
 そして第2章以降、①ニッチ戦略、②不協和戦略、③協調戦略の順に説明する。章の前半で各戦略の考え方を述べ、後半は主に日本企業の事例を使いながら、その戦略の理解を深める。そして、章の最後に、各戦略の課題や学べる点を整理する。
 初版に掲載した事例を半分以上差し替え、アップデートし、よりわかりやすく説明しようと試みた。また、ケースの分量に関しては、すべて同じような文字数で紹介するのではなく、重要なケースには多くのページを割いて解説を行った。
 「競争しない競争戦略」を実践する過程で、日本企業が得意としてきた「分母(労働時間)を増やして分子(成果)を増やす」という、競合を意識した同質的な働き方にも変化が起きることを期待したい。
 なお、各事例の内容は調査時点のもので、登場人物の敬称は略させていただいた。

2021年9月

著 者

【目次】

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