その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は梶原しげるさんの『 イラッとさせない話し方 』です。
【はじめに】
渡る世間をより快適に過ごすための処方箋
人はちょっとした言葉遣いに「イラッとする」ものだ。
某放送局に勤める知人の話だが、番組の企画会議で最近頑張っているスタッフA君を励まそうと声をかけたのだそうだ。
知人「いいねえ、この企画! 君のアイデア?」
A君「そうですが(何か?)」
さぞや喜んでくれると思ったら、返ってきたのはいぶかしげなひと言。知人はかなりイラッとしたという。「はい、そうです! ありがとうございます!」と笑顔で応じてくれるのを期待していたというのに……。
また別の知人は、部下B君とのこんな会話にイラッとしたと教えてくれた。
B君「この書類、確認してもらってもいいですか?」
知人「……」
この「~してもらってもいいですか」は、いわゆる「敬語もどき」と称される表現で、若い世代には違和感がないのだろうが、組織の中堅以上の世代にとってはまわりくどい表現として「イラッと」くる人が少なくない。
「いわゆる」と言えば、昼の情報系テレビ番組の司会者の宮根誠司さんは番組中「いわゆる」を連発することで知られる。
「これって春川さん、いわゆるウォーキングやジョギングは、いわゆる、自粛対象に含まれないとの発言でしたが、一方で、いわゆる、犬の散歩程度なら、ま、いわゆる、大丈夫ということですかね、五郎さん?」
ご本人は「いわゆる」を繰り返すことで話のリズムやテンポを整える意図かもしれないが、残念ながら同じ言葉の繰り返しにイラッとする人も少なくないと聞く。
イラッとするポイントは人それぞれだが、あなたにも思い当たることがたくさんあるはずだ。そして、もしかしたら自分の話し方で相手をイラッとさせてしまっているのでは、とドキッとした人もいるかもしれない。
ちなみに「イラッと」は、多くの辞書がその語義を記している。
『広辞苑』:瞬間的に苛立ちを覚える様。例「失礼な態度にイラッとした」
『大辞泉』:軽く、または瞬間的にいらだつさま。例「上役の質問にイラッとする」
『三省堂国語辞典』:いらだつようす。むかっと。例「無神経な男にイラッとする」
「イライラ」が長期的な苛立ちだとすれば、「イラッと」は瞬間的な苛立ちと言えるだろう。
私流の解釈で言えば、「イライラ」は心理的な健康を損なう元凶だが、「イラッと」は人間関係をしくじる元凶。「良好なコミュニケーション」を願うなら、まずは「イラッとさせない話し方」を目指すことをお勧めしたい。
そこで、本書は、自分が気づかぬまま周囲をイラッとさせてしまうリスクを最大限減じるための話し方のノウハウを、数多くの具体例とともに提案している。
上手な伝え方、ほめ方、謝り方、頼み方、場をなごませる雑談術、敬意表現、話の聞き方などの言葉を使ったコミュニケーションから、表情、間のとり方といった非言語のコミュニケーションまで網羅。人間関係を良好に保つための、話し方・伝え方の処方箋を目指した。
私自身、アナウンサーとして、日本語検定審議委員として、カウンセラーとして、話し方・伝え方についてさまざまな現場を体験してきた。
そこでの知見をもとに、ウェブサイト「NIKKEI STYLE」で「梶原しげるの『しゃべりテク』」を長きにわたり、連載している。本書は連載に加筆、修正を施し、スキルやノウハウに焦点を当てて再構成した。
さらに、コラムには、アメブロの連載「会見観察人! 梶原しげる参上!」を一部収録した。スポーツ選手や政治家の発言の裏にある本音をあぶり出すとともに、話す相手を「イラッと」させないためのヒントを提示した。
2020年春以降、私たちの生活は激変した。
新型コロナウイルス感染拡大を機に、厳しい外出自粛が求められ、不慣れなリモートワークが急増。従来主流だったフェイス・トゥ・フェイス、対面型の直接のコミュニケーション機会がどんどん減ったり、外出自粛で世の中がギスギスしたりする空気も「イラッと」を急増させる大きな要因となっている。
こんな時代だからこそ、相手も自分も傷つけない、ちょっとした言い方や伝え方、表情など、コミュニケーションの一つひとつが大切になってくる。
ビジネスパーソンや就職活動中の学生さんはもとより、友達付き合い、ご近所コミュニケーション、そして家庭内など、渡る世間をより快適に過ごしていただくため、本書が皆さまのお役に立てる情報となれば、これに勝る喜びはない。
2020年7月
梶原しげる
【目次】