その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は友村晋さんの『 人型ロボット最前線 用途から市場まですべてわかる 』です。

【はじめに】

 上海の郊外にロボット関連の企業ばかりが集まった施設があります。2025年の夏、僕はそこを訪ねてきました。

 通訳を兼ねた中国人のガイドさんに案内されて建物に入っていくと、奥の方で、「何か」が僕を出迎えてくれました。人ではありません。そう、本書のテーマになっている人型ロボットです。そのロボットは堂々と歩いてきて、僕の前で立ち止まりすっと手を差し出してきました。握手です。その手を握り返した瞬間、背中にビビッと来ました。

 ──おお! また時代が変わった。

 自己紹介が遅れました。僕はフューチャリスト(未来予測士)という日本ではまだ耳慣れない仕事をしている友村晋と申します。広島県呉市を拠点に活動しています。

 仕事の内容は、

・アメリカ・中国を中心とした現地の最新テクノロジーに触れ、見聞きしたことを、ユーチューブや有料メルマガを通じて情報発信
・企業や学校の顧問
・法人向けAIエージェントの導入支援
・全国で講演活動
・作家

 このように、多岐にわたって活動しています。

 著書は、

・AIに仕事を奪われないための新時代のビジネススキルを挙げた『2030 未来のビジネススキル19』
・2045年まで日本でこれから起こることを48項目にわたって未来予測した『2045 不都合な未来予測48』
・学校では教わらないから親御さんが子どもに教えてほしい能力を挙げた『わが子に教える AI時代に必要な7つの能力』

 などがあります。おかげさまで発売前重版となったり、好評のため中国、台湾、韓国で翻訳出版したりする機会を頂いています。

 さて、自己紹介はこれぐらいにして、話を戻します。

 僕は、フューチャリストとして国内外を飛び回っていると、ときどき「おお! また時代が変わった」という瞬間に出くわします。何年も前にシリコンバレーのアップルストアで「現金は使えません」ときっぱり言われたときも、深圳(シンセン)の無人コンビニで買い物をしたときも、ロサンゼルスで無人タクシーに乗ったときも、テキサスで3Dプリンター製の住宅に入ったときもそうでした。今回、上海で人型ロボットに手を握られた瞬間、僕はときどき味わうこの感覚を味わったんです。

 ちなみに僕と握手したこのロボットは、中国のユニツリー(宇樹科技)製でした。この会社は2026年8月、中国のA株市場に初めての人型ロボット専業銘柄として上場しました。詳しくは2章でお話しします。

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 今をときめくエヌビディアのジェンスン・フアンCEOも、2025年の講演で言い切っています。

 ──フィジカルAIは、世界最大の市場になる。

 フィジカルAIとは、人型ロボットのように、物理的な体を持ったAIのことです。1章で詳しく話します。ChatGPTが登場したとき、僕たちは生成AIの賢さに驚きました。その後もAIエージェントと注目されるキーワードは移り変わってきましたが、次に来るのは間違いなくフィジカルAI、その中でも特に「人型ロボット」だと僕は確信しています。

人型ロボットと共生する世界が到来

 人型ロボットは、もう未来の話ではありません。あまり知られていないだけで、今進行している話なのです。

 少し前に生成AIが登場したときには、「まずい、仕事を奪われるぞ」とホワイトカラー業界では危機感を感じました。そして今、現実となって、ホワイトカラー業界では多くのビジネスパーソンがAIによる淘汰の波にさらされています。一方でブルーカラー業界の方々は、「AIなんてパソコンの中の話でしょ! 体を張って現場で働いている自分たちには関係ない」と、他人事のように眺めているのではないでしょうか。しかしそれは、かなり危うい考えです。

 人型ロボットメーカーが公開している様々な動画をご覧になればわかりますが、人型ロボットはこれまで映画でしか見られなかったような滑らかさで既に動いています。「中に人が入っているんじゃないか」と目を疑うレベルです。ですが本物ですし、産業用どころか、軍事の分野でさえ、既にロシア・ウクライナ戦争で人型ロボットが投入されました(4部で詳しくお話しします)。

 テスラのイーロン・マスクCEOは電気自動車だけでなく、Optimus(オプティマス)という人型ロボットを開発していて、2040年までに、おそらく人間より人型ロボットの方が多くなるだろうと言いました。

 世界には既に、アメリカと中国を中心にたくさんの人型ロボットメーカーが存在しています。例えば米フィギュアAI社のブレット・アドコックCEOは、「人と同じくらいの数の人型ロボットを目にする社会が来て、それはまるでSF映画のように感じるだろう」と語っていますが、これは妄想の話ではありません。同社のロボットは、既に北米BMWの工場で働いているからです。

 しかもその中身が具体的なのです。サウスカロライナ州にあるBMWのスパルタンバーグ工場では、フィギュア02(2026年8月現在、最新機種は03)が11カ月にわたって1日10時間のシフトをこなし、3万台以上のBMW X3の生産に関わりました。しかもこれは誰かが遠隔で操作しているわけではありません。自分で状況を把握して、いま何をすべきかを判断して動く自律型です。

 またアメリカのテキサス州には、アップトロニックというメーカーがあります。このメーカーのアポロという人型ロボットも既にメルセデス・ベンツの工場で働いています。僕も実際にこの会社を訪ねてきました。入り口での撮影以外は、撮影禁止だったので写真はお見せできませんが、社内では大勢のエンジニアがロボットを開発していて、その光景はこれまでSF映画で見てきたものそのものでした。

スマートフォンのように普及する

 10年ほど前に、元祖人型ロボットメーカーと称されるボストン・ダイナミクスの人型ロボットのアトラスが動く映像を見て驚いた方も多いでしょう。ただ、初期の映像を見た人の多くは「まだ動きがぎこちないなぁ、しょせんロボットだなぁ」と、がっかりしたり、その反面ほっとしたりしたのではないでしょうか。

 ところが、いま同社の最新アトラスを見ると驚きます。油圧式からモーター式に変わり動きがまるで別物になっているのです。

 人型ロボットの進化は、多くの人が思っているよりもずっと速いのです。イーロン・マスク氏も「人型ロボット、オプティマスの開発はサイバートラックより難しいが、スターシップよりは簡単だ」と言っています。スターシップは彼が経営するスペースXのロケットで、サイバートラックはテスラの無骨で頑丈な電動ピックアップトラックのことです。

 BMWやメルセデス・ベンツの工場で働く人型ロボットの話をしましたが、なかには一家に一台家庭用という市場を狙って開発しているメーカーもあります。ノルウェーの1Xテクノロジーズという会社です。同社がつくるNEO(ネオ)という人型ロボットは、親しみやすくかわいらしい見た目で、洗濯物を畳んだり掃除機をかけたり、窓を拭いたりすることができます。

 同社のベルント・ボルニッチCEOは「ハードテイクオフまで10年を切っていると極めて確信している。今の私の賭けは“3年”だ」と語っているんです。ここで言うハードテイクオフとは、人型ロボットの社会実装を指しています。

 家政婦を雇う文化があまり浸透していない日本では、突拍子もない話に聞こえるかもしれませんが、自律型の人型ロボットが家政婦として一家に一台という時代は、十分にあり得ると思います。

 そんなばかな? それは映画の見すぎだ! と思いましたか。では思い出してみてください。クーラーボックスみたいに大きな肩掛け式の携帯電話が登場したとき、僕たちは想像できたでしょうか。インターネットにつながる手のひらサイズの端末を、世界中の人が1台ずつ持ち歩く時代が来るなどと。

収穫加速の法則が暗示する人型ロボットの未来

 2025年8月、中国の北京で、世界で初めて「世界人型ロボット運動会」が開かれました。会場は、冬季五輪でも使われた場所です。

 運動会といっても、その規模は侮れません。アメリカ、ドイツ、イタリアなど16の国と地域から280チームが参加して、500体を超える人型ロボットが26種目で競い合いました。人型ロボットのオリンピックと呼んでもいいくらいです。

 そして2026年8月には、同じ会場で2回目が開かれました。種目は第1回の26から約2倍の51に増えました。

 この大会の映像を見て「なんだ、まだまだポンコツだな」と笑った方も多かったでしょう。よく転ぶし、ぶつかるし、失敗の連続でしたから。

 ただし、この2大会の映像を見比べると、驚異的な進化を遂げています。例えば100メートル走では、第1回大会の優勝記録は21秒50でしたが、第2回大会では8秒64で、なんとウサイン・ボルト氏の世界記録9秒58を大きく超えました。

 僕は最新テクノロジーの進歩について講演会をするとき、いつも収穫加速の法則の話をしています。シンギュラリティーという言葉をはやらせたアメリカの発明家レイ・カーツワイルが提唱した法則です。一つの重要な発明が別の発明と結びついて次の発明までの期間を縮めていくため、進歩は加速度的に速くなるという法則です。これまで10年かかった進歩が、これからは1年で起きる可能性だってあるということです。

 同時に、前著『2045 不都合な未来予測』でも紹介したアマラの法則も忘れてはいけません。アマラの法則とは、アメリカの未来学者ロイ・アマラ氏が提唱している法則で、人類は、大きなテクノロジーの波が来たときに短期的に過大評価して、長期的に過小評価する傾向があるという法則です。

 まさに僕たちは、人型ロボットの映像を初めて見たときはSF映画だ! と過大評価したけど、詳しく情報を追ってみると、

・コミカルなダンスをしているばかりで、ダンスのさなかに時々転げる映像
・洗濯物を畳ませたら超スローモーションで、Tシャツ1枚畳むのに数分かかっている映像

 などをみて、ほっと胸をなでおろしながら「こんな程度か……人間の仕事を奪うどころか、エンタメ要素としてもすぐ飽きられるな……」と、最初は衝撃を受けたけど、未来に対してはそんなに自分の生活には影響がないと過小評価していませんか。

 実際に、日本は本田技研工業(ホンダ)のアシモという人型ロボットが登場した頃から、人型ロボット開発に関しては時が止まったような感覚ですが、アメリカと中国は未来を予測し、しっかり未来を見据えて動いています。特に中国のスピード感と長期計画は驚くべきものです。中国には「中国製造2025」という国家戦略があります。2015年に中国政府が発表した、製造業の高度化と技術の自立を目指す10年計画で、最終的には2049年に製造業で世界のトップに立つことを目指しています。2049年とは半端な年に見えますが、これは建国100年に当たる年なのです。どこの国にも見られないような長さの戦略を持って、淡々と実行しているのです。習近平氏はこれからも中国がAIを中心とした科学技術で世界トップを目指すため、国家主席が2期10年しかできない憲法を自ら変え、上限を無くしたのはご承知の通りです。

 これからさらにテクノロジーが進化し、ロボットがロボットを製造するという、ねずみ算のような増え方も始まるでしょう。ロボット同士がネットワークで状態を共有し、1台のバッテリーが切れそうになれば別のロボットが充電済みのバッテリーを持ってきて背中のバッテリーを交換する。そういう社会が到来するのです。

 といっても、映画のようにロボットが人間に反乱を起こすと言っているわけではありません。ロボットと人間が共に生き、地球や人間にとってより良い社会が来る、というシナリオを僕は願っています。

 あなたは、そんな社会が来る心構えができていますか。もしもまだできていないなら、ぜひ本書を読み進めてください。本書を読み終わるころにはきっとあなたも心構えができて、この先どんな未来が待っていようと、どっしり構えることができるはずです。

 さて本書を読み進める前に3点だけ、読者の皆さんにお断りしておくことがあります。

1点目:情報の鮮度について

 本書に書いた人型ロボットの情報、特に細かい数字は日々ものすごい速度で更新されています。アメリカ、中国を中心として多くのスタートアップ企業が、シェア獲得に向けて爆速で開発しているからです。そのため本書で紹介した各メーカーの情報は、数年、いや数カ月で更新されている可能性が高いことをあらかじめご了承ください。そのため本書では最新情報を書くことよりも、人型ロボット社会とはどんな社会なのか、もしもそんな社会が到来したら、僕たちの生活はどう変わるのかというところに重きをおいて執筆しています。

2点目:誰向けに執筆したか

 僕はフューチャリストとして、ユーチューブ、講演会、書籍で情報発信する際に、大事にしていることがあります。それは「初心者向けにわかりやすく」です。実際に僕のユーチューブでは、「宇宙いち分かりやすいChatGPTの使い方」「宇宙いちわかりやすいDX」「宇宙いち分かりやすいメタバース」などの枕詞が並び、「友村さんの解説は本当に初心者の私にはわかりやすい」などのコメント・高評価を頂いています。

 本書の内容も同様で、人型ロボットに関して知識がないビジネスパーソンに向けて書きました。そのため、常日頃から新聞や書籍を読み、情報感度の高い人が見るユーチューブチャンネルに登録し、セミナーなどに足を運ぶ人にとっては、「そんなの知ってるよ」という物足りない本に仕上がっているかもしれないので、この点もあらかじめご了承ください。

 特に、ロボティクスを専門としている方にとっては、まるで英検1級の人に「外国人と英語であいさつする方法」を説く内容になっていることをあらかじめわかったうえで読み進めてください。

 僕のユーチューブで、「友村さんの解説は本当に初心者の私にはわかりやすい」という類のコメントが多いなか、ときどきですが十分な知識をお持ちなのであろう方から「なんでこんな誰でも知っていることをこのユーチューバーは大げさに解説しているの?」という挑発的なコメントが届くこともあるし、アマゾンのレビューに同様のことを書かれるので、読者の皆さんにも「はじめに」でお伝えしておきます。

3点目:あとがきの特典動画

 僕の書籍では恒例になっていますが、本書購入者特典として、今回もあとがきにシークレット動画を用意しました。QRコードからご覧ください。動画の内容は「ポストヒューマン~人類はどこに向かうのか~」です。

 このシークレット動画だけでも本書の書籍代の元がとれる自負があります。それくらい自信がある内容なので、動画も忘れずにご覧ください。


【目次】

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