その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はボストン コンサルティング グループ(編)の『 BCGが読む経営の論点2025 』。「序章 世界の潮流を理解し、持続的な成長を実現する」をお届けします。本原稿の筆者はボストン コンサルティング グループ(BCG)日本支社長の佐々木靖さんです。

【序章】世界の潮流を理解し、持続的な成長を実現する

 コロナ危機、ウクライナ・中東での紛争、米中対立の激化。グローバルレベルでさまざまな事象が複雑に絡み合うなか、企業経営を取り巻く不確実性はより一層高まっている。もはや、1年後のことであろうとも、未来を正確に予測することの難しさ(と虚しさ)は、世界のビジネスパーソンが等しく感じているところである。

 しかしながら、世界の潮流と自社のビジネスの進む方向が合致していることは、企業を舵取りしていくうえでの大きな前提である。いかに素晴らしい技術や資産を保有していたとしても、世の中に受け入れられなければビジネス上の価値(バリュー)はない。不確実な時代であるからこそ、グローバルな視点で時代の潮目を読み取ることが、企業の戦略的な方向性を定める出発点となる。

 残念なことに、日本の経営者の世界の潮流への「感度」が、相対的に劣化してきているのではないかと懸念を感じることがある。欧米に限らずアジアの経営者も、世界で実際に何が起こっているかを理解しようとする貪欲さはすさまじい。実際にビジネスで結果を残している経営者であればあるほど、この傾向は強い。国際会議などで、この潮流への感度に対する貪欲さの差異を見せつけられると、大きな不安に苛(さいな)まれる。

 これは日本語という言語の問題なのか、数百年も前の鎖国の影響なのか、元来の島国根性と呼ばれるものなのか。今日的には、情報ネットワークの整備拡大によって、やる気さえあれば、地球の裏側の情報でも瞬時に獲得できる。グローバル企業であれば、組織として感度を上げる取り組みを強くしていくことになるが、より重要なのは、企業経営者、それをサポートする経営チーム一人ひとりが、常にグローバルと一人称でつながっていることである。

 世界で勝つことを目標にするのであれば、地球上で起こっていることすべてに関して独自の見識を構築できるだけのインテリジェンスを持つべきである。他のマーケットで活動する企業経営者と個人ベースでつながり、一次情報に自らがアクセスする術を構築する。メディアなどを通じたインテリジェンスを取捨選択する意味でも、経営者自身が重要な変化の波を感じられる立場に身を置くことが、その企業全体の感度を高めることにつながる。

 約60年前の1966年、ボストン コンサルティング グループの創設者であるブルース・ヘンダーソンは、戦後の復興途上でまだよちよち歩きの日本企業の行動原理が、当時は隆盛を極めていた米国企業と大きく異なることに興味を持ち、ボストンに次いで2番目のオフィスを東京に開設した。日本で起こっていることをいち早く感知し、そこから学ぼうとしたのである。その後の紆余曲折はあったものの、米国企業は、日本企業からの学びを貪欲に取り入れて今日の競争優位のポジションを築いているのは紛れもない事実である。

 日本の企業経営者が、世界から貪欲に学ぶ姿勢をどれだけ持てるかが、次の10年における成長に向けた大きな前提となる。

日本企業が世界で勝つための10の経営論点

 本書は、日本企業が今後10年超にわたって持続的な成長を実現していくうえで、2025年時点において、日本の企業経営者が優先的に考えるべき10のマネジメント上の重要論点を提示するものである。

 いずれの論点も、ボストン コンサルティング グループの第一線のコンサルタントが、多様な業界のクライアント企業との実際のプロジェクトのなかで獲得した実践知にもとづいて書き上げた内容である。

 草稿段階では数十もあったテーマのロングリストから、日本企業にとってのインパクトと、2025年というタイミングで考えなければならない緊急性を軸に、10の最重要論点に絞り込んだ。どの業界に属していても、外すことのできない選りすぐりの論点を設定することができたと自信を持っていえる。以下、その概要を示す。

 第1章では、生成AI(人工知能)がビジネスに与える影響について論じる。生成AIはすべてのビジネスとビジネスパーソンにとって必須のテクノロジーとなっている。企業も個人も、生成AIに精通できるか否かが競争優位獲得の成否を大きく左右する。DX(デジタルトランスフォーメーション)での後れを引きずる日本企業は、この生成AIの持つポテンシャルを見極め、ビジネス上の具体的なバリューにつなげることができるか。その実現のために何が必要か。

 第2章では、EV(電気自動車)の台頭を扱う。浮き沈みはあるにせよ、中長期でEVの普及に向けた大きな流れが変わることはない。一方、EV化以外にも、自動車業界の将来像を検討するうえで重要な変化が、ここ数年でより明確に見えてきた。川下まで含めた自動車産業が、日本経済全体にもたらす影響は甚大である。EVと世界市場の動向を中心に、将来シナリオを踏まえながら自動車およびその関連産業に起きる変化と必要な戦略を考える。

 第3章は、半導体を起点に日本経済全体の活性化の可能性を考察する。半導体が産業のコメといわれて久しいが、自動車のEV化や自動運転、AIの普及などを考えると、半導体の動向は、多くの産業にとって注視が必要となる。コロナ禍で経験した世界的な半導体不足の経験からも、日本企業にとって半導体を国内で安定的に調達できることは極めて重要だ。半導体産業のこれまでの栄枯盛衰と今後の展開から何を学べるか。

 第4章では、次世代エネルギー分野に関して考察を深める。世界中で脱炭素に向けたエネルギーインフラの構築が急ピッチで進んでいる。太陽光発電やリチウムイオン電池などの脱炭素関連技術で日本はトップを走っていたはずが、中国をはじめとした海外勢に逆転され、コスト競争で敗れ去った。水素や洋上風力といった次世代エネルギー競争における次の10年を見据えて、日本企業はどのような戦略性を備えておくべきか。

 第5章は、世界的に不可逆な動きとなっている生物多様性を取り上げる。先行する欧州などでは生物多様性を顧みない気候変動対策はもはや通用しないとの見解が広まり、むしろ生物多様性の回復が気候変動問題の有力な解決手段として注目されている。しかし、生物多様性に関わる農業や林業などの一次産業は零細企業が多く、取り組みは簡単ではない。欧米のリードで世界のルール形成が進んでいくなか、日本企業はどう対応すべきか。

 第6章は、物流改革である。国内における物流問題は数年前から議論され、官民で危機感が高まっている。その一方で、いまだ物流業界は労働集約型の業務運営から脱出できていない。どうすれば労働集約型のビジネスから脱却し、テクノロジーと自動化を実装できるのか。日本の物流業界の特殊性を明らかにしながら、日本企業が現在の苦境を乗り越えて目指すべき新たな物流戦略を見いだす。

 第7章では、プライシングを取り上げる。『BCGが読む経営の論点2024』でも取り上げた論点で、多くの読者から好評価を頂戴したが、世の中の進展は速い。グローバル競争に勝つうえで絶対的に必要な組織能力であるにもかかわらず、いまだ多くの日本企業がキャッチアップ段階にある。コスト上昇に対応する一過性の値上げにとどまらず、適切な値付けにより収益を高めていくことが求められている。戦略性と継続性を持ったプライシングのあり方と、その実現のための組織能力構築について考察する。

 第8章では、研究開発(R&D)を、ビジネス上の価値に結びつけていくためにはどうすべきかについて考える。多くの日本企業において、今後の事業成長の根幹となるべき研究開発力が低下している。新技術を開発しても事業化でつまずく状況がいくつもの業界で見られ、日本全体の共通課題といえそうだ。研究開発体制、研究開発プロセス、資本・資源の配分やガバナンス、根強い自前主義などを見直すことが急務だ。どのような突破口を見いだせるのだろうか。

 第9章は、産業としてのスタートアップの有効活用を考える。従来、日本では、大企業とスタートアップは対極にあり、両者の組み合わせは成功しないとする見方が強かった。この帰結として、スタートアップの出口戦略はIPO(株式上場)に偏り、大企業による買収が少ないという日本特有の歪(いびつ)な構造を生み出してきた。大企業は自らの成長を実現する触媒として、スタートアップをより積極的に活用できるはずだ。その促進策を探る。

 最終章では、アクティビストへの対応を通じた持続的な企業価値向上について論じる。2025年にはアクティビストの活動がさらに活発化すると予想される。社外の圧力にさらされることが少なかった伝統的日本企業だが、今後の市場環境を生き抜くには、ただ防衛に回るだけでは足りない。アクティビスト、ひいては資本市場の視点を取り入れた、一歩先を行く取り組みを提示する。

自社固有のユニークな戦略構築につなげる

 『BCGが読む経営の論点2018』の出版以降、多少のフォーマット変更はあるが、来たるべき年に重要となる経営上の論点を抽出した書籍を毎年上梓してきた。幸いにして多くのクライアント企業の経営層から、BCGの「論点本」は年末年始に頭を整理するのに好材料で、次年度の計画の議論を深めるうえで有効だと、好意的な声をいただいている。

 序章の締めくくりとして、戦略構築のプロセスに過去の「論点本」を積極的に活用してくれたクライアント企業の取り組み事例を紹介したい。この本を手に取ったタイミングで、自社の戦略方針を見直す必要がある企業の関係者にとって、内容はシンプルであるが、十分に参考になると考える。

①「経営の論点」ごとに自社の論点を掘り下げる

 冒頭で言及したように、潮流を理解することが出発点となる。本書であれば、提示した10の論点(自社の状況に応じて論点を足してもらっても構わない)を映し鏡にした際に、自社にとっての経営課題が何であるのか、客観的なデータも参考にしながら徹底して掘り下げる作業を進める。

②限られた人数の経営チームで集中的に検討する

 ①の検討作業を限定された人数の経営チームで集中的に実施する。CEO(最高経営責任者)単独でこの作業を遂行するのは限界がある一方、広くミドルレイヤーを集めて大衆討議を展開するのは非効率である。複数の経営リーダーが、大きな潮目を意識しつつ、客観的なデータにもとづいて自社の何が課題かを洗い出すプロセスをじっくり進める。

③市場動向や自社の立ち位置から課題を洗い出す

 課題は、自社の立ち位置、競合との競争関係、市場の変容などのレンズで洗い出したものとなる。既存事業の脅威になるものもあれば、新規で取り組む機会として導出されるものも出てくる。短期で取り組むべきものもあれば、中長期の視点でさまざまなシナリオを想定してじっくり取り組むべき事項も入ってくる。

④競争優位を築ける重要課題を抽出する

 ここで大事なことは、自社固有のユニークな競争優位性を見いだしうる本当に重要な課題を抽出することである。限られたリソースのなかですべての課題の検討に着手することは無謀である。また、歴史的背景や事業の細部を理解し、実現可能性を考慮しながら、行動プランに取り込める事項を選択的に決めることが大事なポイントである。

⑤重要課題に対する打ち手を導出する

 企業はその優位性を模倣されにくいものにするための戦略を持ち、継続的な改善を行い、組織内に圧倒的な組織能力を蓄積していけるように、重要課題に対する打ち手を導出する。いうまでもなく、打ち手に伴う競争優位が一時的なものであれば、他社にすぐに追随され、競争力を失ってしまう。

⑥具体的な行動プランを立てる

 ①~⑤の視点を踏まえて、具体的な行動プランに落とし込む。検討の後、速やかに具体的なアクションがとれるようにする。世の中の潮流を踏まえた、自社固有の強みに立脚した行動プランであれば、仮に後々修正が必要になったとしても、仮説検証のループが回るだけで自社にとって新しい組織能力の獲得につながる。


 筆者らは、激動するグローバルなビジネス環境においても、今後10年超の期間で、日本企業が持続的な成長を遂げることは十分に可能と考える。

 そのためには、企業経営者と経営チームが貪欲に世界の潮流にアンテナを張り、自社の競争優位性に着目して、ユニークで真似のできない戦略を構築する。それを具体的なアクションにつなげ、仮説検証のループを回す。最後は、これらの取り組みをしつこく、規律をもって、大胆に進める強靭なリーダーシップが肝要となる。

 社会の要請の半歩先に大胆に投資する勇気と、自らのアイデアによって世の中に大きな変革を引き起こす気概が、日本の企業経営者には求められている。本書がその道しるべとなれば筆者らにとって本望である。


【目次】

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