その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小林弘幸さんの『 はじめる習慣 』です。

【はじめに】

◎今日が一番若い。今日が新しい人生のはじまり

 私がよくいう言葉に「今日が一番若い」というものがあります。
 ひょっとしたら、あなたは「けっこう歳をとってしまったなあ」「自分も○歳になったから」と感じているかもしれませんが、5年後のあなたは確実に今のあなたを羨ましいと思っています
 考えてみれば、当然です。5年前の自分を思い返してみてください。当時に戻れるとしたら「あんなことをしたい」「こんなこともやってみたい」と思うことがたくさんあるでしょう。そんな「5年前の自分」が今です。
 何かをはじめるなら、今以上のベストタイミングはありません。
 本書のタイトル『はじめる習慣』には「今日が新しい人生のはじまり」、そんな思いを込めています。

 今日が一番若い。
 今日が新しい人生のはじまり。

 本書における「キーフレーズ」といってもいいでしょう。

 とかく私たちは「ゴール」や「終わり」をイメージしがちです。
 「あと何年で定年だ」「このプロジェクトは数カ月後に完了する」「○年後に子育てから卒業する」。終わりやゴールはイメージしやすいものです。自分の年齢を踏まえて「あと何年、生きられるか」を考える人もいるかもしれません。
 しかし、ゴールや終わりをイメージすると、どうしても寂しさや暗さが伴います
 ゴールを想定することもときに必要かもしれませんが、人生の終わりをイメージするなんて、どう考えても明るい未来が開ける感じがしません。
 私は長く自律神経の研究を行ってきましたが、意識やイメージと自律神経は密接につながっています。寂しさや暗さをイメージすると、それに伴って自律神経の状態も悪くなるのです。
 反対に、希望やワクワク感を持っていると、それだけで自律神経が整い、実際に体の調子がよくなったり、感情のコントロールがしやすくなり、気持ちが前向きになったりします。自律神経の研究結果からも明らかです。
 自律神経を整え、コンディションよく暮らす意味でもワクワクした気持ちでいることはとても大事なのです。
 今日が新しい人生のはじまり。
 そんな明るくて、前向きな意識を持つことで、あなたのコンディションは整っていきます。

◎はじめるといっても「新しいこと」ばかりではない

 「はじめる」と聞くと、何か新しいことをはじめなければいけないと感じる人がいるかもしれません。「新しい分野の勉強をはじめる」「今までやってこなかったSNSをやってみる」「まったく新しいコミュニティに参加する」などです。
 もちろん、そうした新たな挑戦も素晴らしいことです。やってみたいことがあるなら、どんどんチャレンジしてください。
 しかし、本書で想定する「はじめる」とは必ずしも新しいことではありません。たとえば、昨日までとまったく同じ仕事を、まったく同じメンバーで、まったく同じ場所でやるとします。
 そうした状況では、どうしても昨日と同じ感覚で新鮮味がなく、“なんとなく”仕事をしてしまうでしょう。
 ここでキーフレーズを思い出してほしいのです。

 今日が一番若い。
 今日が新しい人生のはじまり。

 今日が一番若く、新しい人生のはじまりだとしたら、あなたはどんな気持ちで仕事に取り組むでしょうか。どんな顔で職場のメンバーに会い、あいさつするでしょうか。
 少なくとも昨日と同じ顔、同じトーンであいさつはしないでしょう。
 そこが大事なポイントです。
 「今日が新しい人生のはじまり」と意識する習慣。
 それが本書のメインテーマです。
 そんな意識を毎日持つことができれば、こんなに素晴らしいことはありません。
 とはいえ、毎日は難しいかもしれません。
 ただし、週に1回でも2回でもそんな思いで一日をはじめることができれば、あなたの気持ちはまったく違ってくるはずです。
 気持ちが変わると、それだけで自律神経にもいい影響を及ぼします。血流がよくなりますし、気分は前向きになり、集中力は増し、何事にもより意欲的に取り組むことができるようになります。まさにいいことずくめです。

◎何度挫折してもいい

 「今日が新しい人生のはじまり」には、もうひとつとても勇気づけられる意味があります。
 きっとどんな人にも「やってみたけれど、続けられなかった」「三日坊主で終わってしまった」という苦い経験があるはずです。ダイエットをはじめたけれど続かなかった。英会話の勉強をはじめたのに、身につかないまま放り出してしまったなどです。
 しかし、そんなことを気に病む必要はまったくありません。
 なぜなら「今日が新しい人生のはじまり」だからです。
 ダイエットしたいなら、今日からはじめればいいだけ。英会話でも、その他あらゆることでも同様です。
 はじめてみて続かなかったら、それはそれで構いません。
 私はここで「続ける習慣」を皆さんにすすめているのではありません。皆さんが手に取ったのは『はじめる習慣』です。
 人生で一番若い今日、何かをはじめたいと思ったなら、それをはじめればいいのです。
 「また挫折するんじゃないか」「続けられないんじゃないか」。そんな不安を感じるとしても、なんら心配はいりません。続けられなかったとしても、またはじめればいいだけだからです。
 たったひとつ「はじめる習慣」さえをやめなければ、人生はいつでも「新しい一日」を迎えることができます。

◎今日からまた新しいゲームがはじまる

 「はじめる」というテーマにおいて前向きな話ばかりしていますが、人生はそんなに明るく、楽しいことばかりではありません。
 とてつもなく辛いことがあったり、まさに今、苦しくてたまらない状況にいる人もいるでしょう。実際、私は病に苦しむ患者さんたちと日々向き合っています。
 仕事でうまくいかないことがあったり、対人関係に悩んでいたり、家族とのシビアな問題を抱えている人もいるでしょう。
 本書を読みながら「そんな前向きに“はじめる”なんて気持ちになれないよ」と感じる人もいるかもしれません。それでもなお私は、今日という日を「新しい人生のはじまり」にしてもらいたいと願っています。
 2023年、全国高等学校野球選手権記念大会の決勝で慶應義塾高等学校に敗れ、惜しくも優勝を逃した仙台育英学園高等学校硬式野球部の須江航監督は試合後にこんな言葉を残しています。

 人生は敗者復活戦。

 本当にその通りだと思います。
 私たちの人生はままならないことばかりです。辛い境遇に打ちのめされ、下を向きたくなることもしばしばです。
 でも、やっぱり顔を上げてほしい。そう私は願っています。そのほうが自律神経が整って、心身ともに健康でコンディションがよくなるからです。
 今日が新しい人生のはじまり。
 この言葉がどうにも受け止めにくいときは、たとえば「人生は毎日が敗者復活戦」と考えてみるのはどうでしょうか。
 昨日は「負け」かもしれませんが、今日から新しいゲームがはじまります。
 それがどんなゲームであっても構いません。
 新しいゲームをはじめようとするあなたを、私は勇気づけたいと心から思っています。それは私が医師として、皆さんのためにできる大切な役割だと感じるからです。

◎コロナ期の不調を体の中に抱えている

 私たちは新型コロナウイルス感染拡大によるストレスフルな時期を3年以上過ごしてきました。会いたい人に会えなかったり、旅行へ行けなかったり、仕事や生活で不便や不都合を感じるなど、さまざまな負担を抱えながら暮らしてきました。大切な人を失った方もいるかもしれません。
 一見、世の中はコロナ前の日常に戻っているように感じますが、3年以上とは決して短い期間ではありません。ストレスを抱え続けてきた私たちの体は、まだまだ不調を抱え込んでいる。そんな状態です。
 実際「なんとなくだるい日が増えた」「うつ気味だ」「やる気が出ない」「集中力が続かない」「体力が低下している」「頭痛がひどくなった」などの症状を訴える人はコロナ禍以降も増えています
 そこまではっきり症状が出ていなくても、自律神経を乱し、全体にコンディションを落としている人はたくさんいます。
 じつは2023年の夏頃から「自律神経に関わる体調の整え方」「不調との向き合い方」に関する問い合わせが一気に増えました。テレビやラジオ、その他のメディアからも多くの問い合わせ、出演依頼が相次いだのです。
 実情を聞いてみると、生活はコロナ前に戻っているけれど、不調を訴える人がすごく多い。番組にもそうした問い合わせが増えて、「なんとなく調子が悪く、自分が自分でないような違和感が続いている」と語る人が大勢いるというのです。
 これは決して単なる感覚の話ではなく、医学的な研究でも明らかになっています。
 スペインのある医療機関が研究したところ、感染時の症状が軽度から中程度だった人のうち「迷走神経の損傷」に関わる症状を訴える人が3分の2以上いることがわかったそうです(「Forbes JAPAN」2023年7月23日/ William A. Haseltine[新型コロナ後遺症、主因は「迷走神経」の損傷か 研究結果])。
 迷走神経とは、まさに副交感神経の一部。体のさまざまな器官とつながっていて、迷走神経にダメージを受けると、各器官そのものに問題がなくても、正しく機能しなくなります。体のいろんなところに不調を来す可能性があるということです。
 それが全体的なだるさにもつながりますし、「自分が自分でないような違和感」とは「具体的にどこが悪い」というより、全体を司っている自律神経の不調をよく表した表現です。
 今の時代は気持ち的には「アフターコロナ」と呼べるのかもしれませんが、感染者がいないわけでもありませんし、アフターコロナ特有の不調をみんなが感じ、認識しはじめた時期でもあります。
 そんな人たちにぜひとも伝えたいのは「以前の状態に戻そう」ではなく、自分なりの「新しい健康状態」「新しいコンディションづくり」をはじめてほしいということです。健康・コンディションづくりにおいても、今日が新しい人生のはじまりなのです。

 今日が一番若い。
 今日が新しい人生のはじまり。

 本書がその一助になるとしたら、こんなに嬉しいことはありません。

 2023年11月

小林弘幸

【目次】

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