その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は藤野英人さんの『 投資家みたいに生きろ[増補版](日経ビジネス人文庫) 』です。「文庫化にあたって」とともにお届けします。
この本は、
“投資家という職業に就くための本”
ではありません。
“投資家みたいに生きるための本”
です。
「投資家みたいに生きる」とは何か。
それは、投資家が当たり前に実践している
「思考」を手に入れ、
日々の「習慣」を変えることです。
投資と聞いて「お金でお金を増やすスキル」としか
考えられない人は、これからの新時代を
生き抜いていくことが難しいでしょう。
なぜなら、お金の話というのは
投資家の頭の中の、ごく狭い範囲の話だからです。
投資という概念はもっと広く、深く、
とてつもない力を持っています。
- 世の中のどこにチャンスが転がっているのか
- 自分の市場価値をどう上げればいいのか
- ノーリスク・ハイリターンな習慣とは何か
そう、あなたに授けるのは、
スキルではなく“スタイル”です。
投資の本質を知り、
その力を使いこなせば、
あなたは一生、成長し続けることができます。
そんな投資の不思議な世界を
のぞいてみましょう。
【文庫化にあたって】
単行本『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)を上梓したのは、2019年のことでした。
この文庫版の改稿作業を進めている2025年現在と当時との違いは、大きく2つあります。1つは、日本がデフレからインフレに転換したこと。そしてもう1つは、生成AI(人工知能)の急速な進化と普及です。
そしてこの2つの違いは、否応なく私たちに行動の変容を迫ります。
デフレ時代とインフレ時代は、何が異なるのでしょうか。
私が皆さんに知っていただきたいのは、「デフレ時代は行動しない人にとって都合がよかったが、インフレ時代は行動し挑戦する人のリターンが大きくなる」ということです。
デフレでは、何もせずじっとしていても、物価が下がり持っているお金の価値が上がっていきます。ですから、投資をしなくても大きな問題にはなりませんでした。
ところがインフレになると、物価の上昇によりお金の価値は目減りしていきます。そのような環境下では、お金を握りしめているだけの人はどんどん不利になっていきます。逆に、投資をしたり、お金を使って価値のあるものを手に入れたりする人にとっては、そのリターンはデフレ時代よりぐんと大きくなるでしょう。
つまりインフレ時代とは、「挑戦し、行動する」ことの価値がより高まる時代なのです。
デフレからインフレへの転換に重なったのが、生成AIの進化・普及です。
AI時代について理解しておきたいもっとも重要な点は、「考えることの価値が低くなったわけではなく、むしろ高まっている」ということです。
私は日々、何十件、何百件という問いを立ててAIと対話をしています。そのようにAIを使っていると、「学ぶことの重要性はこれまで以上に高まっている」と感じます。というのも、AIがアウトプットした内容の意味や価値が理解できなければ、AIを使いこなすことはできないからです。逆にいえば、科学的背景や社会的背景、文化、芸術などのさまざまな知識があればあるほど、AIを使いこなせるということになります。
また、AIのアウトプットが適切かどうかを判断したり、複数のアウトプットを比較してどれが適切なのかを選択したりするためにも、さまざまな知識や思考力、判断力が求められます。私の実感としては、AIの普及により、必要とされる勉強や教養の量は爆増しているのです。
つまりAI時代に対応するためには、勉強したり教養の幅を広げたりすることが不可欠であり、そのために自らの行動を変えて新たな挑戦をすることが重要になってくるのです。
具体的には、関心のなかった分野について本を読んだり勉強したり、あるいは年齢、性別、居住地など立場の異なる多様な人たちとコミュニケーションをとったり、新たな習い事に挑戦したり、旅に出てさまざまな場所で体験を重ねたりといったことの価値がより高くなるだろうと思います。
「投資家みたいに生きる」とは、ひと言でいえば「挑戦し、未来志向で生きる」ことです。
その重要性は時代を問わず不変であると私は信じていますが、2019年当時と比べると、「インフレ×AI」時代を迎えた現在、その重要性がますます増しており、行動変容の価値が高まっているといえます。
今回の文庫化にあたっては、私が伝えたい不変のメッセージはそのままに、いま改めて「投資家みたいに生きる」ことをお伝えする意義を考えながら、全面的に内容を見直しました。
この『投資家みたいに生きろ[増補版]』が、変化の激しい時代を生き抜くためのヒントとなることを願っています。
2025年11月
藤野英人
【はじめに】
将来の不安を打ち破る人生戦略
皆さんは将来のことを考えますか。
もしかしたら「なんとなくお金のことが不安だ」と感じているのではありませんか。
その不安は、一体どこから来るのでしょう。
2019年6月、金融庁の報告書「高齢社会における資産形成・管理」の公表をきっかけに、いわゆる「老後2000万円問題」が話題になりました。
この報告書では、「現在60歳の人の約4分の1が95歳まで生きる」という試算が紹介されています。そして、夫婦2人が95歳まで生きた場合、65歳からの30年で約2000万円の取り崩しが必要になるという試算結果が、日本中を駆け巡りました。
なぜ、このことが取りざたされたのでしょうか。
多くの人は、20歳くらいから働きはじめます。そして、60歳で定年を迎えます。つまり、40年間働くことになります。
その後、仮に100歳近い年齢まで生きるとすると、約40年間分の蓄えを用意しておかなければなりません。ということは、
“20歳から40年働きながら、老後の40年の貯蓄をつくっておかないといけない”
という計算になります。
これだけを見ると、かなり難しいことに思えるのではないでしょうか。
いまから50年以上前の1970年、日本人の平均寿命は男性約69歳、女性約75歳だったそうです。当時は55歳が定年で、50代になると多くの人は、「これ以上は働けないな」と思えるほどに、ヨボヨボになっていたのです。
年金制度は、そういった人々の面倒をみるものとして設計されました。つまり、老後の「年金暮らし」は、約15~20年間と見積もられていたわけです。
しかし、平均寿命はどんどんと延び、国に老後の面倒をすべてみてもらうのは無理だ、という現実がやってきたのです。
これが、おそらく皆さんが抱える「お金の不安」の正体です。
じゃあ、どうすればいいのか。
いまからやるべきことは、実は明確です。
解決策は、とてもシンプル
将来に向けたお金の不安をなくす方法とは何か。
1つ目は、「若いうちにたくさん稼ぐこと」です。老後の心配をすることなく暮らせるくらい、たくさんのお金を稼げるなら、それに越したことはありません。
2つ目は、細く長く暮らしていくよう「支出を抑えること」です。節約を徹底的におこない、コツコツと老後資金を蓄えておくのです。おそらく多くの日本人が大好きな方法でしょう。
これら2つの方法は、それぞれ「成功術」「節約術」として、多くの本の中で語られてきたことです。
私が投資家の立場として伝えたい解決法は、この2つとは別の方法です。
投資家的な解決法。その1つ目は「元気で働ける限り、長く働き続けること」です。
寿命が延びるのであれば、「健康寿命(介護を受けたり寝たきりになったりせず、日常生活に制限がない期間)」も同時に延びているということです。そうすると、かつて60歳だった定年が、70歳、75歳と延びていくのは自然なことでしょう。
2つ目の方法は、将来に備えて「収入の一部を投資に回すこと」です。長くコツコツと投資をおこない、資産形成をしていくのです。
将来の不安をなくすための戦略は、先ほどの2つの方法と投資家的な2つの方法、合計4つしかありません。そして、そのどれか1つが正解というわけではなく、ひとりひとりが収入や生活に応じて4つを組み合わせていくのです。
以上が模範的な答えです。
ただ、それなら全員がこのとおりに実行できるかというと、そうではありません。
なぜなら、「長く働き続ける」「収入の一部を投資に回す」という投資家的な解決策に対して、大きな誤解があるからです。
3つの誤解
誤解は、大きく分けて3つあります。
まず、「長く働き続けろだなんて、ひどい話だ。定年後くらいゆっくりさせてほしいと思うのは当然ではないのか」という誤解です。
社会全体が成立するには、「自助・共助・公助」、つまり自分が自分を助けること(自助)、家族や友人関係、地域社会などでお互いに助け合うこと(共助)、そして行政による支援(公助)を組み合わせることが必要です。健康で元気に働ける人は自助をベースとし、健康を失うなど事情があって働けない人を共助や公助でサポートしていくのがあるべき姿でしょう。お金は天から降ってきたりはしませんから、自分たちで稼ぎ、自分たちで生活し、自分たちで将来に備えるというのが原則なのです。
「自己責任」という言葉は厳しく聞こえることもありますが、社会全体の基本は「自己責任と自立」であり、自分の人生は自分で支えるのが本来のあり方です。
歳を重ねたからといって、健康で働くことができるのにもかかわらず共助や公助に期待するなら、それは自立心が足りないといわざるを得ません。
2つ目は、「嫌なことを我慢したり、意に反することをするのが仕事というものだ」という誤解です。
このようなネガティブな労働観は、グローバルで見れば当たり前のものではありません。「長く働き続ける」ことをネガティブに捉える人が多いのは、苦痛が多くてストレスが溜まる仕事や、体力で乗り切るような働き方を続けようとするからでしょう。
長く働き続けるには、「いまの仕事は、70歳になっても楽しく続けられるだろうか」と、長期的な視点で考える必要があるのです。
そして最後の誤解は、「投資」というものに対するネガティブなイメージです。
長らくまともな金融教育がおこなわれておらず、国民全体の金融リテラシーが低いまま放置されてきた中、多くの日本人には「投資をしたり、投資について勉強するのは悪いことだ」という強い思い込みがあります。
2024年に新NISAがスタートして少しずつ状況は変わりつつありますが、「収入の一部を投資に回す」ということの意義は、まだ十分には広まっていません。
いまこそ「生き方」を変えるとき
最初に紹介した金融庁の報告書は、高齢社会を取り巻く環境変化について整理し、考えられる対応についてまとめたものでした。
「夫婦2人が95歳まで生きると2000万円不足する」というのはあくまで試算であり、全体を通してみれば、非常にまっとうな提言だったといえます。
ところが、メディアは報告書をきちんと読み込んだとは考えにくいほどに、内容を捻(ね)じ曲げてセンセーショナルに報道しました。
それに対する世間の反応も、非常に残念なものでした。
「これは、根底から考え方を変えないと、不安に取り憑(つ)かれて、ますます萎縮(いしゅく)した日本になってしまう」
そんな危機感を、投資家である私は抱きました。
たとえば、70歳、75歳と長く働けるようにするには、「自己投資」という概念が不可欠です。また、金融庁が報告書で触れていた「長期・積立・分散投資」という、リスクを抑えられる王道の投資法もあります。
皆さんが抱く不安は、投資家みたいに考え、投資家みたいに生きることで、ちゃんと解決ができる問題なのです。
「投資」という概念を正しく理解し、自分の人生に組み込んでいけば、きっとあなたの未来は明るいものになるでしょう。
「老後2000万円問題」は、日本にとって1つのターニングポイントだったと思います。この問題に対して私たちがどう行動するかが、今後の歴史を決定づけます。私は、この歴史的な問題の解決に貢献するために、「投資」について語ろうと思います。
本書には、私が投資家として生きてきて培ったノウハウをすべて詰め込みました。将来に対する不安を打ち破り、戦略的に生きる人が1人でも多く増えることを願ってやみません。
藤野英人
【目次】
』 『投資家みたいに生きろ[増補版](日経ビジネス人文庫)』](https://cdn-bookplus.nikkei.com/atcl/column/032900009/111701112/top_s.jpg?__scale=w:600,h:450&_sh=02c03a0650)






