その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は矢萩邦彦さんの『 正解のない教室 これから、何を学ぶべきか?(日経ビジネス人文庫) 』です。「introduction」をお届けします。

【introduction】

毎日を自由に、楽しんで生きている人の共通点は?

 あなたはいま、毎日を楽しんでいますか?
 いまは、予測不可能な時代だといわれています。
 先が見えず予測できないことは不安です。分からないなかで新しい環境・価値観や視点を受け入れることは時にストレスになります。
 しかし、よくよく考えてみると、ぼくたち人間は昔から完全に未来を予測できたことなんてありません。いつ何が起こってもおかしくないと思ったり、言ったりしながらも、直近では様々な自然災害に見舞われたり、コロナ禍も体験しています。

 一方で、様々な難しい状況にあっても、やりたいことを貫いて、笑顔で過ごしている人たちはたくさんいます。
 ぼくもそのひとりかもしれません。過去を振り返れば家族とうまくいかなかったり、不登校になったり、就活しなかったり、夢を叶かなえられなかったり、まあそれなりにいろんなことがありました。
 にもかかわらず、いまこの瞬間のぼくは、毎日ワクワクしながら好きなことをやって生活できるようになりました。
 それはなぜか。これからこの本に綴っていくことでお伝えしたいと思っています。

 そもそも、自分と似たように上機嫌に過ごしている人たちと出会い、接するなかで気づいた共通点があります。
 それは、上機嫌にしている人ほど、「自由に生きるための技術」を身につけているということ。
 「自由に生きる」とは、やることを「自分で自由自在に選択できる」ことです。

 そういうと、「学生だから、親や先生の言うことに従うしかない」「会社勤めのビジネスパーソンなので、自由に仕事を選択するなんて無理」と思う人もいるかもしれません。
 「自由に生きる」といっても、別に「親や先生の言うことを聞くな」とか「フリーランスや経営者になれ」ということとは違います。
 ぼくからあなたに伝えたいのは、どんな立場に身を置いていても、自分で決める、つまり“自己決定”する自由を持つことはできるんだということです。
 たとえば、いまはまだ人生経験が浅いので、親や年長者の言うことを聞いておくという選択も“自己決定”です。会社員で仕事の面で自由はあんまりないのだけれど、いまは生活の安定を優先して家族を守るために頑張ろう、という選択も自己決定です。他に選択肢があるなかで、その人があえて選んでいるのであれば、そこには選択の「自由」があります。
 ぼくが大事だと考える自己決定には二つの段階があります。

  • 「選択肢を複数持つ」こと
  • 「最適な選択をする」こと

 ぼくはそれらを実行する能力を含めて「自己決定力」と呼んでいます。
 どちらの段階も同じくらい大事です。ところが、世の中で聞かれるのは目の前に用意されている選択肢からいかに「正解」を選ぶのかという話が大半です。ぼくは普段は教育に関わっているのですが、様々なペーパーテストはその一例でしょう。
 実際には、与えられた選択肢から選ぶだけでは完全に「自由」とはいえないかもしれません。それは、誰かがシナリオをつくり、プログラムされたゲームを進めていくのと同じです。もちろんゲームは「遊び」ですから楽しめばいいのですが、すこし見方を変えてみると、誰かがつくった枠の内側で遊ばされているだけともいえます。

 選択肢が制限されているのだとすれば、ある意味でそれは受け身で完全に自由とはいえない、不自由な生き方なのかもしれません。
 ちなみに、選択肢を複数持つためには、三つの視点が必要になってきます。
 一つめは、すでに分かっている〈既知の選択肢〉を整理すること。
 二つめは、まだ自分が気づいていない〈未知の選択肢〉を見つけること。
 三つめは、前提や理論的枠組み(パラダイム)を覆すような〈新たな選択肢〉をつくりだすこと。
 そして選択肢が複数あることが見えてきたら、ようやくそのなかから自分や社会にとって最適なものを選ぶ判断力がものをいいます。

 では、こうした自己決定力を身につけるにはどうしたらいいでしょうか?

 それがまさにこの本のテーマですが、ぼくは「リベラルアーツ(Liberal arts)」を学び、使いこなすことだと考えています。リベラルアーツという言葉、はじめて聞くという人もいれば、聞いたことはあるけれど意味はよく分からないという人もいるでしょう。日本語に訳すのが難しい言葉ですが、あえていうならば、それは「自由に生きるための技術」そのものです。
 ぼくは、これまで中学受験を控えた小学生からビジネスパーソンまで幅広い年代の人々に色々なかたちでこの知識と技術を伝えてきました。

 ぼく自身がリベラルアーツを身につけるためにまず取り組んだのは〈世界の基本構造〉ともいえる論理的・数学的・客観的・科学的な視点、そしてすべての思考の基盤となる言語、とりわけ母語について体系的に学ぶために、本を読みあさることでした。
 しかし、それだけでは実践的な自己決定力を身につけるのには足りません。ぼくたちはひとりひとりが個性的で唯一無二の存在です。得意も不得意もあると思いますが、それぞれできることが違いますし、やり方も色々です。
 その個性をうまく活かして、うまくやっていくためには、自分自身の経験や価値観からつくられる〈自分軸〉を客観的に見ることが必要です。このように自分自身を俯瞰(ふかん)することを〈メタ認知〉といいます。それができるようになれば、自分で判断するうえでのスタート地点に立てるようになります。
 そのうえで、いまぼくたちが暮らしている世界、つまり日常生活に取り入れられている科学技術や社会インフラ、そして流行を含めた〈最新の世界観〉を把握することも欠かせません。

 ぼくは〈世界の基本構造〉〈自分軸〉〈最新の世界観〉の三つを併せて活用することを「実践リベラルアーツ」と呼んでいます。そして、この本では、ぼくが担当している中学・高校や大学院での「リベラルアーツ」の授業をもとに、この三つを客観的に見て、考える力を身につけるうえで基本となる視点と知識の体系化を目指したいと思っています。
 世界の仕組みと自分自身を知り、現状に合わせることではじめて、ぼくたちの選択が織りなす物語は動きはじめます。
 あなたが選んだあなただけの物語。それはあなたの人生を豊かにし、周りの人々を巻き込み、壮大に展開していきます。
 想像してみてください。なかなか楽しくなりそうじゃありませんか?

 ぼくたちが不安になるとき、ネガティブになるとき、必ずといっていいほど「何か」にとらわれています。それは“普通は”とか“常識では”という基準のない呪縛かもしれないし、“成績”だったり“立場”だったり、するかもしれません。だいたいはあたりまえだと思って無自覚に思考の前提にしてしまっている「何か」です。
 でも、その「何か」は本当にあたりまえのことでしょうか?
 変えられないことなのでしょうか?
 本当の自分を押し殺して周囲に合わせることが正しい、あるいはそうやって生きていくしかないのだと思い込んでいる人があまりにも多いような気がします。
 その狭苦しい世界観から抜け出すために「リベラルアーツ」は一役買ってくれます。

 これからはじまる本編では、自分がとらわれていた「何か」にぼく自身がすこしずつ気づいて、楽になったり、ワクワクしたり、行動を起こすきっかけになったりした見方や考え方を順序立てて紹介していきます。それらを追体験しながら探究するためのキーワードをできる限り散りばめ、思考の幅を広げるための“地図”や“矢印”も仕込みました。

 いったい「リベラルアーツ」とはなんなのか?
 あなたが自由に生きるための技術に触れて、それを身につけて、真に自由自在に生きることを楽しむきっかけがそこから生まれることを願っています。
 では、はじまりです!

【目次】

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