その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はアルボムッレ・スマナサーラさんの『 つまずかない 生き方のヒント49(日経ビジネス人文庫) 』です。

【はじめに】◎問題の「受け止め方」をアップデートする

 人は誰でもいろんな悩みを抱えています。

 仕事、人間関係、健康や生死について、自分の生き方に関してなど、じつにさまざまな悩みを抱えています。あなたも例外ではないでしょう。

 では、あなたはなぜ悩みを抱えてしまうのか。

 その根本を考えたことがありますか。

 悩みそのものについて「どうしよう」「どうしたらいいだろう」と考えることはあっても「悩む理由」を本気で追究する人はまずいません。

 なぜなら、多くの人が「降りかかってくる問題」こそが悩みのタネだと思い込んでいるからです。

 嫌な上司がいれば、それが悩みのタネ。健康を害したら、それが悩みのタネ。「降りかかってくる問題」があれば、悩むのは当然だと思っているのです。

 しかし、本当にそうでしょうか。

 周りを見渡してみれば、同じ状況であっても「ものすごく悩む人」と「気にせず、楽に生きている人」がいます。

 この差はいったい何を示しているのでしょうか。

 それは「降りかかってくる問題」そのものが悩みのタネではないということです。

 悩みの本質は「降りかかってくる問題」ではなく、その「受け止め方」にあります。

 もしあなたが悩みを減らし、楽に生きたいと思うなら「降りかかってくる問題」に目を向けるのではなく「受け止め方」を学ぶことです。

仏教は「心の動き」を科学的に説明するもの

 そもそも仏教は「心とはどういうものか」を科学的に説明する教えです。

 宗教というと「祈り」「信仰」などのイメージが先行しますが、仏教があきらかにしているのは「私たちの心の動き」。

 心の動きを理解することは、降りかかってくるさまざまな問題に対して「どう受け止めればいいのか」を学ぶヒントになります。

 たとえば、仏教には「今しか存在しない」という考え方があります。

 つい人間は「過去、現在、未来」を一連のつながりのように捉えますが、私たちが生きられるのは「今だけ」。過去はもう過ぎ去った別のものであり、未来はどうなるかもわからない、これまた別のものです。

 そう考えると、私たちにできるのは「今、できることを一生懸命やる」「今を楽しく過ごす」しかないわけです。

 過去に何があろうと、未来にどんな心配事があろうと、そんなものは本質的に存在しません。

 確実に存在しているのは「今だけ」なので、今を楽しく過ごすだけです。

 現実的な生活に即して言い換えれば、今この一分、この一〇分を楽しく過ごす。それを考えればいいのです。そんなに難しくはありません。

 悩みが大きい人はたいてい時間を長く捉えすぎです。今、ここに存在していない過去や未来をつなげて、長い時間で考えすぎているのです。

 これも一つの「人間の心の動き」であり、降りかかってくる問題に対する「受け止め方のヒント」でもあります。

 こうした一つひとつの「心の動き」「受け止め方」「考え方」を学ぶことで私たちの悩みは確実に減ります。自分に降りかかっている問題は何も変わりませんが、あなたの悩みは減っていきます。

 「受け止め方」を学ぶとはそういうことです。

悩み、落ち込む人は「損をしている」

 心の動きを理解し、少し俯瞰して考えてみると、さまざまなことで悩んでいる人は「自分から悩みにいっているようなもの」だと気づきます。

 環境や状況が人を悩ませているのではなく、その人自身が自ら悩みに飛び込んでいる。そんな状態です。

 私からすれば「どうして、そんな損なことをするのだろう」と不思議に思えます。

 貴重な時間を使って悩んだり、落ち込んだりするのは「損」以外の何ものでもありません。時間がもったいないでしょう。

 もし、あなたが悩んだり、落ち込んだりしているときは「今、自分は損をしている」と思い出してください。「自ら損に向かっている」と表現してもいいでしょう。

 それでもなお「私は悩みたくなくても、悩んでしまうんです」「落ち込みたくて、落ち込んでいるわけではないんです」と言いたい人は、そもそもの「心の動き」の理解が不十分です。

 本書によって得られるものがきっとたくさんあるはずです。

「考え方」をアップデートするヒント

 本書で述べているのは、そんな「心の動き」を理解し「受け止め方」や「考え方」をアップデートするヒントです。

 テーマは「つまずかない生き方」。

 人生には「つまずきそうになる要素」があふれています。

 仕事、人間関係、自分自身、他者との比較、逆境、迷いなど、受け止め方を知らずにそうした要素に出会ったら、当然のようにつまずくでしょう。

 だからこそ「心の動き」を学び「受け止め方」をアップデートするのです。

 そもそも人間は「新しいことを学び、できるようになること」に喜びを感じる生き物です。それも仏教で教える「心の動き」の一つです。

 ぜひ、本書を通して「自分に降りかかってくる問題」の「受け止め方」を学び、「損をしない生き方」を身につけてください。

 悩んだり、落ち込んだりする「損をする生き方」より、ずっと魅力的で、楽しい人生がひらけてきます。

 二〇二五年一一月

アルボムッレ・スマナサーラ


【目次】

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