その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は宋健さんの『 持ち家が正解! 賃貸vs.購入論争 データを見れば答えは出ている 』です。
【はじめに】
はじめに断っておくが、この本の主題は賃貸住宅を否定することではない。
人生100年時代を迎え、多くの普通に暮らす人々にとっては、持ち家のほうが安心して高齢期を暮らせる可能性が高いと思う。しかし、家を買うか、賃貸住宅に住むかの判断は個々人の選択に委ねられるし、様々な事情で賃貸住宅を選ばざるを得ない場合もある。
一方、賃貸住宅のオーナーの多くが持ち家に住んでいるのは、誰も否定しないだろう。
賃貸住宅オーナーは、賃貸住宅派というわけではない。賃貸住宅を必要とする人がいて、その需要に応えることに経済合理性と社会性があると判断して、賃貸住宅のオーナーになることを選択したにすぎない。
こうした邪心のない賃貸住宅オーナーがいるかたわらで、「持ち家はリスクだ」「賃貸住宅で自由に暮らそう」と主張する人々がいる。そんな主張をする人たちを実際に知っているが、その多くは実は持ち家に住んでいる。ごく少数の賃貸住宅に住んでいる人たちも家賃を経費で落としていることが多いようで、とても普通に賃貸暮らしをしているとはいえない。
こうした極端な原理主義ともいえるような、あおることで収益を上げるような偽善的な住まいに関する言説に対して、データに基づいた事実と解釈を伝えることが本書の目的である。
誰にとっても身近な話題なこともあって、不動産に関する言説にはキャッチーで関心を引くようなものが多い。
例えば、「日本では新築信仰が強く、中古住宅の流通が欧米に比べて極端に少ない」「日本の住宅寿命は30年程度で、スクラップ&ビルドをいまだに繰り返している」「東京都内にすら大量の空き家があり、空き家問題は喫緊の社会問題である」「すでに大量の空き家があるのだから、賃貸住宅経営は危ない」「終身雇用が崩壊した現代では、住宅ローンはリスクでしかない」「地域のコミュニティーは大切であり、イオンのようなショッピングセンターよりも商店街を再生すべきである」「子どもは豊かな自然に囲まれてゆったり育てるべきだ」「人が多くゴミゴミした東京よりも、自然豊かで人との触れあいがある地方で豊かに暮らそう」といった言説である。
こうした言説の多くは、データに基づく根拠がないか、曖昧であることが多い。データがあったとしても、都合のよいデータだけを取り入れている場合もある。
取材と称した個別事例を積み上げ、その個別事例を全体の法則であるかのように論理を飛躍させることも多い。こうした表現方法を「極端な事例による構成」(Extreme Case Formulation,ECF)と言い、筆者は「個別事例の安易な一般化」と言っている。
もっともなように聞こえる、当たり前だとも思える言説に疑いを持ち、データを基に検証する、というのは研究者に必要な基本的なスタンスの一つだと考えている。
そうしたスタンスでこの10年近くの間に研究や検証してきたものを、日経ビジネス電子版に2020年12月から2023年4月まで52回にわたって連載してきた。本書は、その連載の原稿を再編集して構成している。
本書で取り扱われる一つひとつの話題を論じるにあたって、できる限り客観的なデータを示すようにしているが、もちろん本書で書かれたことが絶対的な正解というわけではない。
科学研究の歴史は、常に真理を追究してきたことによって進歩してきた。新しいデータが得られるようになり、それによって過去、正解とされたことが覆されてきた歴史でもある。
本書で取り扱う話題にも、時間が経てば結論が変わるものがあるかもしれない。それでも、自分自身の思い込みを見直し、豊かな人生を送るためのヒントになれば素直にうれしいと思う。
本書では都会に住むことの良さを解説しているが、様々な事情によって住む場所を自由に選択できない場合や、地方の生まれ育った土地をこよなく愛する人たちを否定しているわけではないことも念のため申し添えておく。
住まいは幸せの2割を占めるほど人生に大きな影響がある。みなさんの住まい選びの役に立てば、本書の役割は達成されたと言えるだろう。
【目次】
