その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は飯田史也さんの『 あなたの一生を支える 世界最高峰の学び 』です。

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 この本では私がケンブリッジ大学で知った、世界にインパクトを与える人たちが何をどのように学んでいるのかということを紹介します。

 ケンブリッジに行く前の私は、この大学の名前こそ知っていましたが、どのような場所で、なぜこのように有名で、なぜ大学世界ランキングで常にトップクラスにいるのかということをまったく知りませんでした。少し調べると、ニュートンやダーウィンなどの天才がここで学び、ここで研究をしていたことはすぐにわかります。

 また、この大学は120人以上のノーベル賞受賞者を輩出し、それ以外にも自然科学、社会科学、政治経済界や文芸界などでも多くの世界的なスーパースターを輩出しています。

 それでも、多分これらの有名人たちは、もともと才能のある人たちが、たまたまこの有名大学に入ってきて、その才能を潰さずに世界に送り出されて行ったのだろう、くらいに考えていました。

ケンブリッジ大学には、800年育まれた「天才」を生み出すしくみがある

 私にとってはもう少し真面目に考えなければならない理由もありました。
 これからこの大学の先生になるにあたり、どのように彼らの才能を潰さずに、あわよくば伸ばすことに貢献できるのか?
 ひとりの研究者として、専門分野について自信はありましたが、教育に関してはまったくのアマチュアです。せいぜいこの有名大学の足を引っ張ることはない程度にがんばらなければならない、という思いでした。
 これが私のケンブリッジで仕事をするようになる前の心境でしたが、結果的にこれらの心配事がまったくの杞憂で、完全な的外れだったのです。
 そこから10年間にわたり、想像をはるかに超えるケンブリッジの「学び」のシステムを教えられ、そのシステムの中で、自然とケンブリッジの優秀な学生や天才たちを育て上げることに貢献することになるのです。

 大学には私のような、教えることにアマチュアな先生がたくさんいます。そのような環境の中でも、学生たちがスーパースターになっていくのはなぜなのでしょうか?
 学生たちはここで、一体何を見て、何を考え、どう学んでいるのでしょうか? しかも、このような伝統を800年にわたり続けていけるのはなぜなのでしょうか?

 これらのすべての疑問に答えるトリックは、ケンブリッジの学生たちは「学び」というものが、特別な「人づきあい」、つまりコミュニケーションの中から生まれるということを体得するからです。そして、その人づきあいを最大限まで高めることで、最高峰の学びができるということを知っています。
 もう少し、噛み砕いて説明しましょう。
 ケンブリッジ大学に入る学生たちは、小中高校で基本的な知識や社会のルールを学んできた子どもたちですが、ケンブリッジ大学に入る前に「フルイ」にかけられます。ただいろいろなことを知っていたり、できるだけではケンブリッジには入れません。
 ケンブリッジに入るためには、このケンブリッジの学びのシステムを十分に享受し、最大限に利用できる人だけが入学できます。

最大の学びを生むのは「コミュニケーション」

 この学びのシステムは何か、ということをこの本で話していくのですが、一言でいうと、「人づきあい」ができるかどうか、ということを入試で試されます。
 ただお人好しであればいいというわけではありません。人と人との関係を最大限に掘り下げ、深い関係を構築できるような素養を持っていなければなりません。
 そして大学に入ると、この人づきあいが、人間社会の歴史や文化を形成するための最も重要な根本原理であるということを教えられます。
 社会や経済がキラキラした新しい文化やイノベーションによって前進していく、という現実がある一方で、歴史や文化などの古い伝統の上に、これらの社会の前進がつくり出されている、という基本原理を人づきあいの中から体得させられます。

 その一方で、人づきあいは、多くの時間とお金がかかり、膨大なむだが必要であるという現実にも向き合わされます。
 これはただ学費や交際費が高くつくというだけではありません。社会システムを機能させるためには、経済的な最適化や安いものを大量生産するというプロセスだけでは社会が前進することができないという、もうひとつの社会の原理を教えてくれます。
 もちろん一人ひとりの学生たちは、他の大学生と同じように、大学の専門教育を受けるので、それだけでも学ぶことはたくさんあります。それでも、同じ4年間という限られた大学生生活の中で、このような特別な人づきあいを通じて、学びの本質を体得させられることになります。
 ケンブリッジ大学が卓越した大学である理由は、このような独特な「学び」の環境を800年にわたって、普遍的なシステムとしてつくりあげたことによります。
 学校という組織は、教員が次々と入れ替わります。人間社会も、世代を跨いで大きな変遷を繰り返します。そのような大きな変化を繰り返す世界でも、変わりなくインパクトを与える人材を輩出し続けるのは、実現不可能のようにも思えます。
 それでも、そのような最高峰の学びを、時代の変化を超えて実現してきたのが、ケンブリッジ大学という教育システムです。

800年にわたって成果を出し続けている「巧妙な学びのしくみ」とは

 そしてこのような最高峰の「学び」は、何も大学の中にいなければできないというわけではありません。

 ケンブリッジの学生たちは、ケンブリッジ流の「学び」を特別な「人づきあい」という型として体得し、卒業後も生涯この「学び」を続けます。大学生という、人生で大きなインパクトを与える期間に体得したその型は生涯にわたって影響を与え続けます。

 私はこのような環境の中に身を置き、この教育を施す同僚たちと交流し、学生たちに向き合ううちに、この人づきあいの上につくり出される最高峰の学びというものが、ケンブリッジ大学の学生だけの特権ではないと考えるようになりました。

 ここで築き上げられた考え方やしくみなどは、その根本原理さえ理解できれば、世界中の多くの人が、日々の生活の中で再現することができ、世界最高峰の「学び」が実現できるのではないか、と考えています。

 本書では、ケンブリッジ大学の学びのシステムを、私が実際に経験したエピソードや考えを交えて紹介します。
 ケンブリッジのしくみを説明するのは容易ではありません。一人ひとりが異なる経験や思い出を持ち、それぞれの視点で捉えているからです。
 時にこの大学は、多くの伝統やしくみを持つ「忍者屋敷」のように感じられる一方で、幻想的な「おとぎ話」の舞台のようにも映ることがあります。

 私は教育の専門家ではありませんが、10年間にわたりケンブリッジで学び、考えたことを一人称の視点でまとめました。
 本書は私の体験記でも、学びの研究成果でもありません。私自身の経験から、なぜケンブリッジが世界に影響を与える人材を輩出しているのか、その鍵となる「コミュニケーションを中心に据えた学び」を軸に学びの法則と方法論を考えました。
 コミュニケーションがなぜ重要なのか、それが学びの方法をどのように変え、学び手を社会で成果を上げられる人材へと成長させるのかを解説します。

 本書は、学びのシステム、学びの4本柱、最高峰の学びの実践と上級編、という枠組みで話を進めます。
 それぞれの章では私の経験とそこから導き出される学びの法則を考察し、関連する基礎知識を紹介します。各章は独立して読めますが、全体を通して、繰り返し読むことで、知恵やしくみが巧妙につながっているケンブリッジの全体像が浮かび上がるでしょう。

 ただし、ひとつ大切なことがあります。
 ケンブリッジの学びのシステムは800年の歴史の中で築かれた、とても巧妙なものです。この学び方は、魔法のように一夜にして手に入るものではありません。
 時間をかけて、思考のあり方や生活スタイルを少しずつ変え、学びの姿勢そのものを変革していく必要があります。

 読者は、ここで紹介する考え方や学び方を少しずつ自分のものにすることで、学校での成績や、日々の学びの小さな改善だけでなく、人生の方向性や生き方そのものに大きな影響を与える成果もあげることができます。

 本書を通じて、少しでも多くの読者がこの学びのシステムを理解し、その恩恵を受けるきっかけとなれば幸いです。


【目次】

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