その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は猪原敬介さんの『 科学的根拠(エビデンス)が教える子どもの「すごい読書」 』です。

はじめに

それでも、読書には「やる価値」がある

 読書が無条件に「よいもの」とされる時代は終わりました。
 子どもの教育に悩む保護者の中にも、読書の価値に疑問を持つ方は少なくないと思います。
 もちろん、「読書に少しもプラスの効果がない」と考えているわけではないでしょう。しかし、

 「スポーツ、学習塾、英会話、音楽……子どもに身につけてほしいことはたくさんある。ゆっくり読書というのは、もう時代遅れなのではないか」
 「文字よりも、映画やYouTubeを視聴するほうが理解しやすいし、時間も短くて『タイパがいい』のではないか?」
 「AI時代、本で学べることはすべてAIに聞くことができるのでは?」

 というのは、誰もが抱く本音でしょう。

 要するに、「今の時代、もう読書でなくともよさそうだが、それでもやる価値が読書にあるのか?」が厳しく問われているのです。

読書には科学的に「すごい効果」がある

 科学的研究は、読書に「それでもやる価値がある」ことを教えてくれます。

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 今では、語彙(ごい)力・読解力の向上といった効果はもちろん、学力・知能・思考力・思いやり・知的好奇心・コミュニケーション力といった、極めて広範囲におよぶ読書の「すごい効果」が、科学的根拠(エビデンス)にもとづいて示されています。

 さらには、「読めば読むほどよい」という従来の考えを覆し、「1日30分ほどの読書を無理なく続ける」ほうがかえって効果が大きい、といった驚きのエビデンスも出てきています。

 私は教育心理学と認知科学を専門とする研究者です。
 研究テーマは「読書の効果」。
 本書では読書が持つさまざまなプラス効果と「どうすればプラス効果をより大きくできるか」を、具体的な研究内容とともに、わかりやすく説明していきます。

家庭で「何を・どう読むか」がますます重要に

 冒頭でも述べたように、「もっと読書をしよう!」と呼びかけるだけで子どもが読書をするような時代ではありません。
 実際、2つの大規模調査が、2015年以降の約10年間で、

● 平日、学校の授業外での読書を「まったくしない」児童・生徒が「激増」※1・2
● 一方で、平均読書時間は「激減」※2
●「読書は好きですか」という質問に「当てはまる」と回答した児童・生徒の割合が、小学6年生と中学3年生の両方で「激減」※1

したことを示しています。

 つまり、この10年で「子どもの読書離れ」は加速しているのです。

 ちなみに、2つの調査とは、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の「子どもの生活と学びに関する親子調査」※3と、文部科学省の「全国学力テスト」※1のことです。本文ではこれらの調査についても詳しく説明しています。

 これまでは学校が「読書の習慣化」の役割を部分的に果たしてきました。特に大きかったのは、毎朝10分程度、ホームルームや授業のはじまる前に自分の好きな本を読む「朝の読書」です。
 しかし近年では、読書の習慣づけを学校に任せるのは難しいようです。
 以前は「朝の読書」を含めた「校内読書タイム」に熱心に取り組んでいたけれど、今はその時間が英語学習やプログラミング学習に取って代わられて、教員の熱意も弱まってしまったという話をよく聞きます。また、一応、学校としては「朝の読書」をやっていることになっているが、実際は毎朝ではなく週に1〜2回になっているというケース、本当は先生も一緒になって読書を楽しむ姿を見せるのが原則のところ、先生は忙しそうに書類仕事をしてしまうケースが多いのだそうです。これでは、読書が社会から尊重されていて、大人になってからも続けるべき習慣なのだ、という暗黙のメッセージは子どもには届きにくいでしょう。

 「朝の読書」が形骸化(けいがいか)の危機にある現在、子どもが読書を習慣化できるかどうかについては、「家庭での読書教育」の影響が大きくなってきています。

子どもの読書習慣は「二極化」している

 子どもの読書離れが加速している、と述べましたが、その一方で、平日、学校の授業外での読書を「30分以上」する児童・生徒は、2024年時点でも、

● 小学生(4〜6年):約25%(このうち、「1時間以上」は約9%)
● 中学生(1〜3年):約22%(このうち、「1時間以上」は約9%)
● 高校生(1〜3年):約16%(このうち、「1時間以上」は約6%)

はいます。※2

 これは、「まったく読まない子ども」と「読書習慣のしっかり身についた子ども」に読書習慣が二極化していることを示しています。しかし、本書が説明する読書のプラス効果を考えれば、「まったく読まない」まま、児童期・青年期を過ごすことは、大変惜しいことです。

 本書では、「まったく読まない」が「ちょっと読む(5〜30分)」に変わることで、大きなプラス効果が得られる「スモールインプット現象」について説明しています。
 同時に、「読みすぎ注意」の「逆U字現象」についても説明しており、この2つの現象を踏まえた「その子に合った形で、無理なく読書のプラス効果を享受する読書法」を提案しています。

エビデンス(科学的根拠)にもとづいた読書のはじめ方

 勉強やスポーツと同じように、読書にも「こうはじめて、こう進めていったほうがいい」という定番のやり方はあるのです。しかし、

● 一般的な小学校・中学校における読書教育では、どのように本を選び、どのように生活の中で読書をしていくかを、まったくといっていいほど教えていない
●「本はこうして読むべきだ」という「読書法」の本は数多く出版されているが、著者の個人的経験にもとづくものが多く、書く人によって主張がバラバラ

 といった理由により、勉強やスポーツと違い、「定番のはじめ方」は定着していません。

 本書は、

● エビデンス(科学的根拠)にもとづいて読書法を語るため、著者の独りよがりな読書法にはなりにくい
● 本書以降もどんどん「読書本」は出版されると思われますが、その「読書本」がエビデンスにもとづいているものならば、それらと本書の読書法は大きくはズレないはず

 という特徴を持ちますので、うまくいけば今後の「定番の読書法」を提示する本となってくれるのではないかと期待しています。

科学が明らかにした読書の「よさ」の大半は、意外にも、まだ世の中に知られていない

 近年、これまで知られていなかった「読書がもたらすプラス効果」が数多く明らかになっており、関連研究の数は激増しています。しかし、その大半は英語で書かれた難解な学術論文として発表され、アカデミア(学術の世界)に研究知見が閉じ込められた状態です。
 これはとてももったいないことですし、価値ある研究知見を日本に還元することは、研究者としての使命のひとつだと思っています。

 また、私は大学に勤める研究者であると同時に、(とっても!)かわいい3歳の一人娘を持つ親でもあります。
 共働き家庭として、子育てをどのように進めるべきか。まずはなにより健康の問題。優しさ(愛着)と厳しさ(しつけ)のバランス。スマホやネット動画との距離感。どの園・学校へ通わせるか。習い事をどうするか。そして子どもが本に興味を持ってくれるよう、親にできることは何かないのか……悩むそのお気持ち、よくわかります。

 このような学術界の状況と個人的状況から、「一般の方、特に子育てに悩む保護者の方に最新知見をわかりやすくお届けし、せめて読書にまつわる悩みの解消に役立ててもらいたい」と強く感じるようになり、これが本書の執筆にいたった次第なのです。

本書の構成

 本書は6つのPartに分かれています。

 Part1~3では、「読書ってどんなことにプラス効果があるの?」という疑問にお答えします。保護者目線でみたとき、読書が「多方面にプラス効果があり、子どもの『地力』を育てる、とても手堅い教育投資である」ことがわかっていただけるはずです。
 Part4は本書のキモになる部分で、「実は読書はすればするほどよいわけではない」など、これまでの常識とは違う考えを、エビデンスにもとづいて示します。
 Part5・6では、エビデンスを踏まえた「効果的な読書の実践ガイド」を提案し、多忙な日々に読書をうまく調和させるお手伝いをします。

 もちろん、頭から通して読んでいただいてもいいのですが、それぞれのPartごとにテーマは異なりますから、興味をお持ちになったPartからお読みいただいても大丈夫です。

 本書が、皆様が持つ読書についての迷いを少しでも減らし、お子さまとの充実した日々をさらに楽しむ一助となれば幸いです。

【参考文献】
※1 国立教育政策研究所.(2025).令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書・調査結果資料.https://www.nier.go.jp/25chousakekkahoukoku/
※2 ベネッセ教育総合研究所.(2025).小学生から高校生の10年にわたる追跡調査データから「読書」を読み解く:「読書をしない」子どもは10年前と比べて1.5倍に増加──スマホ時間と読書時間は逆相関関係があり、読書0分の子は語彙力・読解力が低い傾向[プレスリリース].株式会社ベネッセコーポレーション,10月20日,https://benesse.jp/berd/special/childedu/pdf/newsLetter/newsLetter_20251020.pdf
※3 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所. (2020). 子どもの学びと成長を追う:2万組の親子パネル調査から. 勁草書房

【目次】

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