その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は大越匡洋さん、桃井裕理さんの『 アフター2024 米中最後の攻防 』です。
【はじめに】── 米中、2024年から始まる「最後の攻防」
5つの対立の構図
米中対立が激化の一途をたどっています。
そもそもの始まりは2018年、トランプ米大統領(当時)が始めた対中関税措置でした。その頃はまだトランプ氏の主張は「中国製品が米国の雇用を奪っている」という貿易問題に力点があり、中国側も報復関税で応酬しつつ「米国の農産品などを大量に買うことでトランプ氏は満足するだろう」と楽観的に構えていました。
ところが、米中関係は貿易摩擦にとどまらず、本質的かつ全面的な対立へと拡大していきました。今、両国の対立の構図はざっと思い浮かべるだけでも以下のようなものがあります。
第1に「技術覇権」を巡る競争です。
最初に狙い撃ちされたのは、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)でした。高速通信規格「5G」分野におけるファーウェイの躍進はすさまじく、米国は2019年5月に同社を「エンティティー・リスト(禁輸リスト)」に登録し、最先端半導体の輸出を制限しました。その後、対中輸出制限は拡大の一途をたどり、2023年夏時点で禁輸リストに載る中国企業は600社を超えています。最先端半導体を巡る輸出規制も製造装置や設計ソフト、人的支援にまで広がり、日本をはじめとする各国を巻き込んだ対立へと広がっています。
第2の対立が軍事力を巡る攻防です。
南の海のサンゴ礁がいつの間にか軍事基地になっていた──。南シナ海で明らかとなったこの映像は西側諸国にも衝撃を与えました。中国は南シナ海や東シナ海での海洋進出を着々と進めるとともに、力による現状変更にもためらいをみせていません。米国はアジア太平洋地域における米軍と中国人民解放軍の軍事力が数年内に匹敵するとみています。
第3にイデオロギーを巡る闘いです。
新疆ウイグル自治区におけるウイグル族の弾圧や香港での民主化運動の制圧、監視カメラ網とインターネット監視を活用した「デジタル専制主義」を世界各国に輸出している実態が明らかになるにつれ、国際社会で中国共産党の統治への疑念が改めて高まりました。米国バイデン政権は「民主主義vs専制主義」という対中牽制の構図を打ち出しました。
第4に世界秩序を巡るせめぎ合いです。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は広域経済圏構想「一帯一路」を打ち出し、世界の国々との連携を図ってきました。加えて、中国は米国の覇権を「一極主義」「帝国主義」と批判し、米主導の世界から多極主義による新たな世界秩序への転換を訴えています。
第5に台湾を巡る対立です。
習氏は「台湾統一」を必ず成し遂げるとの決意を鮮明にし、台湾独立の動きには「武力行使も辞さない」と明言しています。米国は警戒を強めるとともに、台湾への関与を次第に深めてきました。
対立は宿命であり、歴史の必然
米中の対立は歴史の流れにおける「宿命」といえます。
現在の中国をつくりあげたのは米国にほかなりません。1972年の米中国交回復に向けたニクソン米大統領の中国訪問以降、米国は一貫して中国への関与政策(エンゲージメント)をとってきました。関与政策の背景にあったのは「経済支援や国際秩序への参画を通じて発展を促せば中国の政治体制はいずれ民主化する」との期待です。
当時のニクソン政権には巧妙な戦略もありました。中国を引き寄せることで、ソ連との東西冷戦において優位に立とうとする思惑です。同時に、巨大な中国市場で利益をあげたい米経済界の意向も強く働きました。
米国は自らの打算のもと、中国共産党の統治する国家を脈々と育ててきたのです。その結果、中国は経済、軍事の両面で米国の最大の脅威となりました。
関与から競争へ──。米国の対中政策の見直しは避けることのできない歴史の必然だったといえます。
一方、中国の側にあるのは強烈な被害者意識です。
習氏が掲げる「中華民族の偉大な復興」「中国の夢」との言葉からにじみでるのは「中華民族が不当に踏みにじられてきた」という屈辱の歴史への憤懣です。中国の国歌「義勇軍行進曲」の歌詞にそのすべてが表れています。
「いざ立ち上がれ 隷属を望まぬ人々よ! 我らの血と肉をもって、我らの新しき長城を築かん」
帝国主義国家の不当な支配から人民を解放した──。これが中国共産党の統治の最大の正統性です。そして習氏は「新中国建国100年」の節目となる2049年までに「中華民族の偉大な復興」を成し遂げ、民族の誇りを取り戻すことをめざしています。
米国をはじめとする西側陣営からみれば、中国の行動は国際ルールや民主主義への挑戦にほかなりません。しかし、中国が自ら描くポートレートにおいて、その使命は「当然あるべき権利を取り戻す闘い」です。そして、それを阻もうとする米国の行動は、帝国主義が席巻した時代から続く欧米諸国による「いわれのない弾圧」にほかならず、必ず対決しなければならないものととらえているのです。
2024年が転換点となる理由
「歴史の必然」といえる米中対立は2024年から新しい局面を迎えようとしています。
11月には米大統領選挙で新たな米大統領が選ばれます。新体制における今後の対中政策がどう変化するのかが注目されます。混乱も予想される選挙において、米国の民主主義が十分な強靭さと良識を発揮できるかどうかは、今後の米中対立の行方や世界秩序のあり方に大きな影響を与えるのは間違いありません。
米中対立の最前線である台湾では、2032年までの2期8年を担う新政権が決まります。この政権の1つ1つの選択が米中関係、ひいては世界の行く末を大きく左右する可能性をはらんでいます。
そして、中国にとっても、米国や台湾の新体制とともに迎える今後数年間は国運をかけた勝負の期間となります。
習氏は終身をにらんだ異例の3期目政権に入り、新中国建国100年となる2049年までに「中華民族の偉大な復興」を果たす「奮闘目標」を掲げています。しかし、さすがの習氏も2049年まで指導者であり続けることは困難です。そこで習氏は2035年にマイルストーンともいうべき中間目標を設けました。つまり習氏が後世に業績を残そうとするならば、めざすは2035年までの「成果」であり、台湾問題についてもそこまでに何らかの方向性をつけようとする可能性は十分にあります。
国運を懸けた勝負はそれだけではありません。中国の国内総生産(GDP)が米国を抜くことができるかどうかというせめぎ合いもおそらく2030年代前半までの勝負が焦点になるとみられています。中国は人口減少という厳しい現実に直面しており、過去からの「貯金」があってなお伸び悩んだ経済がその後から浮上するのは難しいと考えられるためです。「頂点を極めた中国がどのような振る舞いをするのか」も世界に大きな挑戦を突きつけていますが、「頂点を極める前に衰退の道をたどり始めた中国がどのような選択をするのか」も予断を許さない状況を世界にもたらす恐れがあるといえます。
米中問題だけではありません。2024年には、3月にロシア大統領選、4月に韓国総選挙、9月に日本での自民党総裁選も実施されます。インドやバングラディシュ、パキスタン、スリランカ、インドネシア、南アフリカ、メキシコなど「グローバルサウス」の国々でも一斉に大統領選や総選挙など体制を問う選挙が行われます。
世界各国で始まる新体制は、欧米から中東にまで広がった戦火の行方も大きく左右します。ウクライナにおけるロシアの侵攻は3年目に突入し、中東ではイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突を起点として報復と悲劇の連鎖がさらに加速しようとしています。様々な利害が衝突し、「第3次世界大戦」が起きる可能性を指摘する声すらあります。
国際社会は人類の叡智を集結し、繰り返される悲劇に終止符を打つことができるのか、それとも戻ることのできない誤った道へと再び足を踏み出してしまうのか──。
2024年から始まる「アフター2024」。それは米中両大国の「最後の攻防」であるとともに、世界が新たな秩序を探る激動の揺籃期となる可能性を秘めています。
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本書の中核を成すのは、日本経済新聞社ワシントン支局長の大越匡洋と中国総局長の桃井裕理が往復書簡スタイルで続けてきたニューズレター「米中Round Trip」からの抜粋です。同ニューズレターは米中間の時事問題を米中それぞれの視点からタイムリーにぶつけあうことを目的として始めました。米国と中国の歴史背景や深層心理からくる認識の違い、民主主義のあるべき姿、今後の世界秩序のあり方など、米中対立から改めて浮かび上がった問いをそれぞれ考察し、投げ掛け合ってきました。
Part1は書籍出版にあたっての書き下ろしです。「アフター2024」年の世界に何が起ころうとしているかについて「台湾問題」「米中のリーダーシップ」「新冷戦と技術覇権」「世界秩序の行方」の4つの切り口からそれぞれの視点をまとめました。
Part2はニューズレター「米中Round Trip」の抜粋です。米国と中国のそれぞれの「対立」「内政」「世界におけるパワーバランス」などの話題をテーマ別に並べなおしました。「アフター2024」の世界が始まろうとしている今、本書が米中対立の背景を考察するうえで読者の皆様方にとっての1つの材料になれば幸いです。
北京にて 桃井裕理
【目次】






