その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は芳沢光雄さんの『 数学嫌いの犯人(日経プレミアシリーズ) 』です。「まえがき」をお届けします。
【まえがき】
客観的に物事を議論したり、約束したりするとき、数字は必ず現れます。経済、政治、ビジネス、医療、日常の生活、様々な学問、等々。源氏物語のような文芸作品においても、読後感だけでなく品詞に関する数量分析が行われています。そのように、数字はあらゆる分野において礎として重要な働きをしています。それゆえ、数字を用いたいろいろな考え方を教えてくれる算数や数学は、人類が生きていくうえで必須の学びなのです。
そして、算数や中学・高校の数学に関する教科書や参考書は非常に多く出版されています。それぞれ趣があって、意義があるでしょう。もっとも、それらはよく分かったり、早く解けたり、試験で良い成績を収めたりすることを主な目的としています。
算数・数学という教科は単に暗記するだけではなく、一歩ずつ理解を積み上げていき、上手に応用できることが大切なのです。そこには、個人個人の違いが大きく表れることが普通です。ゆっくりゆっくり理解していくことも、決して悪いことではありません。計算は得意でも図形が苦手だったり、図形が得意でも計算が苦手だったりする人もいるでしょう。応用に関して、題材によって好き嫌いがはっきり表れる場合もあるでしょう。
そのようなことを踏まえると、算数・数学は人それぞれに合ったきめ細かい教育、すなわち指導する側に生徒それぞれの理解度や気持ちを見抜いて説明する力が求められるのです。私は、45年間の大学教員人生で約1万5000人の学生を指導し(文系・理系は半々)、小・中学校、高校での出前授業でも約1万5000人の生徒にいろいろな話をしてきました。その他、高校での講師や数多くの家庭教師も経験してきました。そのような経験を通して思うことは、生徒や学生と率直に語り合える関係が大切だということで、それによって得たものには重要な教訓があります。
それは、算数・数学に関するいくつかの考え方や助言には、「耳を傾けて学びに反映させていくと、数学嫌いになってしまうものがいろいろある」ということです。それらについて理解を深めておくことは、算数・数学の学びで大きな脱線に至ることを防ぐと考えます。それが本書の主な目標です。
他の分野、たとえばスポーツを見ても、コーチは各選手の良い面を伸ばすと同時に、怪我にもつながりかねない身勝手なトレーニング法には注意するでしょう。確かに算数・数学は、どのような意識で学んでも怪我はしません。だからといって、数学嫌いになってしまっては困ります。
本書の各項目では、そのような問題点を理解していただくと同時に、それを踏まえたうえで「それではどのように学んでいけばよいだろうか」ということを、いろいろ考えていきます。本書を一通り読んでいただくことによって、数学嫌いの道に進むのではなく、数学好きの道に入っていただければ、このうえなく嬉しく思います。
なお、数学の説明で、難しいと思われる部分は適当に読み飛ばしていただければ幸いです。各章とも、後半は若干難しいと感じるところがあるかも知れません。
2026年1月
芳沢 光雄
【目次】


