NHK大河ドラマや“月9”など、数々の話題作に出演し続ける俳優・門脇麦さん。小学生のころから、図書室の本を読み尽くしてきた読書家でもある。人生のさまざまな転機で欠かせない存在だった本の数々。今回はその中から、「一つのことに打ち込む大切さ」を学んだ一冊の本を選んでもらった。
受験の日、開いたのは単語帳ではなかった
私の人生で忘れられない本のうちの1冊が、『夢はかなう』(イアン・ソープ著、PHP研究所)。です。子どもの頃はずっとこの本を読み返していました。

出版が2003年ですから、当時私は9歳。小学校ですね。背が高くて、イケメンで、金メダルをいくつもとって、世界中でアイドルのような人気を誇っていた水泳選手、イアン・ソープの自伝であり、写真集。世界的ベストセラーになりました。
今も強く記憶に残っているのが、中学受験の日にも、高校受験の日にも、試験会場にこの本を持って行って、休憩時間に読んでいたこと。普通、受験生って、直前まで単語帳とか参考書めくりますよね。そんななか、私はこの本を読んで、受験に臨んでいたという(笑)。

「休憩は必要だ」「リラックスするほどエネルギーは2倍になる」「プレッシャーを感じるのは実力がある証」「すべては楽しむためにある」――1つのことに打ち込んで、頂上まで行き着いた人の言葉は、人生にも通じるということを、私は感じていたんです。
スポーツ選手に限らず、マザーテレサとかキュリー夫人とか、学校の図書室に必ずあるような偉人伝も読破しました。心に引っかかった文章や言葉は、ノートにメモして。キュリー夫人の伝記で実験に関するエピソードを読みながらも、「あ、このフレーズはきっと、これからの人生で何かの時に思い出しそうだぞ」って。そんな私を見て、また父が買ってきてくれたのが、『夢はかなう』だったんです。
バレエに打ち込んだ日々が今の私を作った
私、幼稚園から中学校までずっとクラシックバレエをやっていたんです。それこそ全身全霊をかけて打ち込んでいました。そして、そのことは、いまだに自分の人生の9割を占めていると言っても過言ではないほどに、私の中ですごく大きい。あの日々が、今の私を作っている。
例えば、2回転ができない、とします。そのときに、なんでできないんだろう、と考える。必要な筋肉が足りていない、それなら強化してみよう、と。ただがむしゃらに頑張るというよりは、現状を把握して、努力でそれを補っていく、というやり方で、「できなかったことができるようになる」という成功体験を積み重ねてきました。
レッスンで先生に言われたことは全部ノートに書き出して、「同じことを3回も注意された」とか「先週も同じことを言われている」と、自分を客観的に観察する癖も、バレエで身につきましたね。
だから私はポジティブだし、いつも「きっとできる」っていう根拠のない自信にあふれています(笑)。だって、できなかったことができるようになるのを何度も経験しているから。

ストイックに頑張ることは時につらいけれど、そうしなくちゃいけない時期はあるんだ、ということも、身をもって知っていいます。この仕事をするようになってからはいっそう、バレエで学んだことが、自分の人生に通底していると感じますね。
取材・文/剣持亜弥 写真/中川容邦 スタイリスト/皆川 bon 美絵 ヘアメイク/秋鹿裕子(W) 構成/平島綾子(日経エンタテインメント!編集部)
衣装協力/トップス Acne Studios(Acne Studios Aoyama/03-6418-9923) スカート スタイリスト私物 イヤーカフ、リング全てatur(www.atur.jp) ブーツ スタイリスト私物