今年2023年は関東大震災から100年。また、2011年には東日本大震災が起き、大きな被害をもたらしました。今後、どのような大地震が予測されているのでしょうか。そして、私たちは大地震にどう備えればよいのでしょうか。地球科学の第一人者で地震や火山噴火を研究する鎌田浩毅・京都大学名誉教授に聞きました。鎌田さんは、「南海トラフ巨大地震は2030年代に必ず起きる」と断言します。
巨大地震は必ず起きる
日本では近年、大規模な地震が相次いでいます。1000年に1度といわれる東日本大震災以降、日本列島が地殻の変動期に入り、大地震や火山の大噴火がいつ起きてもおかしくない不安定な状況になっています。それに追い打ちをかけるように、約100年周期で起きる南海トラフ巨大地震が、2035年前後に起きることが分かっています。
発生周期の予測は、過去の地震データの検証を根拠にしています。1946年に昭和南海地震が起きたとき、地盤が一気に隆起するという現象がありました。過去の南海地震を調べた結果、1回の地震で隆起した高さが大きいほど次の地震が来るまでの期間が長いということが分かっています。その他、漁港の水深データなども使って総合的に判断すると、次の南海地震は2035年を中央値としてプラスマイナス5年の間に発生するということが予測できます。
ただし、何年何月何日という具体的な日付までは予測できません。自然界には、いくらスーパーコンピューターを駆使しても、予測できない複雑な現象があります。これを物理学の分野では「複雑系」と呼んでいますが、地震現象もその一つです。よって、ピンポイントで日付を特定することはできませんが、現時点での地球科学の総力を挙げた結果、2035年プラスマイナス5年、つまりあと7~17年の間のどこかで地震が起きるということは、確実に言えるのです。
この事実を認識し、被害をできるだけ抑えて生き延びていただくために必要な知識を『 揺れる大地を賢く生きる 京大地球科学教授の最終講義 』(鎌田浩毅著/角川新書)にまとめました。この本は、地球科学分野の教授として24年間、京都大学の教授を務めてきた私がまとめた、未来に向けたメッセージです。なお、「京都大学最終講義」の動画は YouTube で見ることができます。
また、同様の内容を中高校生向けに分かりやすくまとめたものが『 地震はなぜ起きる? 』(鎌田浩毅著/岩波ジュニアスタートブックス)です。
日本人の2人に1人が被災
近い将来、確実に起きる南海トラフ巨大地震の規模は、東日本大震災とは比べものになりません。影響が及ぶ範囲は、東京から九州までの西日本全体で、人や住宅や工場などが密集し経済・産業活動の中心である「太平洋ベルト地帯」がすっぽり収まります。
被害総額は220兆円と試算されています。東日本大震災の被害額が約20兆円でしたので、それをはるかに超える被害額です。想定される被災者の数は6800万人。日本の人口が約1億3000万人ですので、2人に1人が被害に遭うということです。そうなると、地震が起きてもすぐには助けが来ませんので、自分の命は自分で守る必要があります。
もう一つ、南海トラフ巨大地震の影響で知っておいていただきたいのが、富士山の噴火です。活火山である富士山は今、地下のマグマが満杯になっていて「噴火スタンバイ状態」にあります。南海トラフ巨大地震が起きるとそれに誘発されて、数カ月後から数年以内に富士山は確実に噴火します。
ちょうど300年ほど前の江戸時代にも、巨大地震の後に富士山が噴火しました。そのときと今は同じ状況なのです。南海トラフ巨大地震と連動する形で富士山噴火が起きると、その被害は計り知れず、日本の政治・経済の機能がストップしてしまう可能性もあります。
地震や噴火でどのような現象や被害が起きるのかあらかじめ勉強して、生き延びられるよう備えておくことが極めて重要なのです。
ビル11階建ての津波が3分で襲ってくる
確実に来る大地震に備えて何ができるのか、減災のポイントについて考えましょう。
個人や家庭でできる対策としては、まず津波から逃げることです。東日本大震災の死者・行方不明者は約2万2000人でしたが、多くは津波による溺死でした。南海トラフ巨大地震ではさらに状況が厳しく、犠牲者が32万人、うち7~8割が津波で亡くなると予測されています。津波の規模は最大34メートルでビル11階建てに相当します。その巨大な水の塊が、早いところでは3分で襲ってきます。
11階建ての巨大な水の塊から助かるには、高台に上がるしか方法はありません。地震が先に起きてその後に津波が来ますので、海岸近くにいて大きな揺れを感じたら一刻も早く高台に逃げてください。
海岸から離れていて津波の影響がなくても安心はできません。非常に激しい揺れが襲うので、寝室や家のいつも過ごしているような場所で家具類が転倒しないよう防止策を取って、安全な空間を確保してください。
同時に備蓄品の用意も重要です。地震が起きると電気、水道、ガス、交通、インターネットなどライフラインが止まります。止まっている期間は3日などではなく1週間、場合によっては1カ月以上ということも考えられます。しかも2人に1人は被災しているので、助けはすぐにはやって来ません。家庭や学校、職場で、水と食料と医薬品、できれば簡易トイレを人数分備蓄してください。
企業が取るべき対策としては、第一に社員の命を守ることです。家庭と同様、職場でもロッカーや本棚の転倒を防ぎ、食料など物資の備蓄をしておきます。
次に電源の確保です。企業の場合、大事なのはコンピューターに入っているデータ、情報ですので、可能ならオフィスビルに発電機を備えて、地震で電気がストップしても1週間程度は発電機で持ちこたえられるようにします。また、あらかじめ本社機能や重要な情報を日本各地や海外に分散しておくことも重要です。
3つ目は、社員が数日~1週間程度、職場にとどまれる体制を作っておくことです。地震が起きたときに怖いのは、帰宅困難者(いわゆる帰宅難民)が街にあふれることです。東京の場合800万人が一斉に移動するので、「群集雪崩(なだれ)」による死者が出る可能性もあります。会社は地震が起きても社員をすぐに帰宅させないようにして、社員は通信がストップする前にいち早く家族と連絡を取り、安全を確認・連絡した上で職場にとどまり、少し状況が落ち着いてから帰宅するという行動が必要になります。
近い将来起きる地震は、南海トラフ巨大地震だけではありません。首都直下地震もまた確実に起きるとされています。首都直下地震の被害総額は東日本大震災の約5倍の95兆円と想定されています。しかもそれがいつ来るのか、詳しい予測はまだできていません。地震は明日かもしれないし、50年後かもしれないのです。
繰り返し起きる地震や噴火にさらされた日本列島に私たちは暮らしています。とんでもないところに住む日本人は一見不運なようにも思えますが、そうとも言い切れません。これについては次回お話しします。
文/橋口いずみ



