サイバー攻撃の一種である「ランサムウエア攻撃」が世界中で猛威を振るっています。国内ではアサヒグループホールディングス(GHD)が被害に遭い、業務に大きな支障を来しました。ちょうど同時期に出版された『ランサムウエア攻撃との戦い方 セキュリティー担当者になったら読む本』の著者である勝村幸博さんに、アサヒGHDを襲ったサイバー攻撃について聞きました。
アサヒGHDを襲ったサイバー攻撃が話題になっています。あれはどういう事件なんですか。
アサヒGHDはランサムウエア攻撃だったと公表しています。ランサムウエア攻撃とは、文字通りランサムウエアを使ったサイバー攻撃です。ランサムウエアとは、コンピューターに保存されているデータを暗号化するマルウエア(悪質なソフトウエア、コンピューターウイルス)です。
サイバー攻撃者は標的とした企業のネットワークに侵入してマルウエアをばらまき、業務データなどを暗号化して使用できないようにします。そして、暗号化したデータを元に戻すための「鍵」が欲しければ身代金を支払うよう要求します。ランサムウエアは、英語で身代金を意味するランサム(ransom)と、ソフトウエアを意味するウエア(ware)を組み合わせた造語です。
アサヒGHDのサイバー攻撃では、システム障害が発生して商品の受注や出荷が滞ったと報道されていました。業務データが暗号化されたために、システム障害につながったんですね。ただ、システム障害と同時に情報漏洩が発生したとも聞きました。なぜ情報漏洩が発生したのでしょうか。
アサヒGHDが受けたのは「二重脅迫」と呼ばれるタイプのランサムウエア攻撃だったと考えられます。二重脅迫では、暗号化による脅迫に加えて、盗んだデータを公表すると脅迫します。標的とした企業のネットワークに侵入したサイバー攻撃者は、ランサムウエアを感染させる前に業務データなどを盗みます。それからランサムウエアでデータを暗号化して身代金を要求します。さらに「身代金を支払わないと盗んだデータをインターネットで暴露する」と二重に脅迫します。データが盗まれているために、情報漏洩につながるわけです。

今回のサイバー攻撃では、「Qilin(キリン、麒麟)」と呼ばれるサイバー攻撃者グループが犯行声明を出しています。犯行声明には、「(アサヒGHDの)財務情報や事業計画書、一部社員の個人情報といった社内情報を含む、9300以上のファイルを窃取した」と掲載されており、データ量は約27GB(ギガバイト)に相当すると主張しています。
現在では、ランサムウエア攻撃の多くが二重脅迫です。2024年中に警察庁に報告されたランサムウエア攻撃被害のうち、手口が明らかだったのは134件。そのうちの111件が二重脅迫でした。このためランサムウエア攻撃を受けると、システム障害と情報漏洩が同時に発生すると考えるべきです。
ランサムウエア攻撃を受けると、企業の業務継続に大きな影響を与えそうですね。ただ、国内企業の多くは他人事と考えているように思えます。
確かに、多くの企業は「自分のところは大丈夫」と考えがちだと思います。いわゆる正常性バイアスですね。特にランサムウエア攻撃については、大手企業の被害が報じられるので、サイバー攻撃者は大手企業しか狙わないと思っている人は多いと思います。ですが、それは大きな誤解です。ニュースバリューがあるため、大手企業の被害が報じられているだけです。2024年中、警察庁にランサムウエア攻撃被害を報告した企業は222。そのうちの140は中小企業で、大企業は3割未満でした。サイバー攻撃者はセキュリティー対策が甘い企業を狙います。どのような企業も攻撃対象になります。
今回のアサヒGHDへのランサムウエア攻撃が示すように、被害に遭った際の影響は甚大です。企業の事業継続に深刻な影響を与えます。どの企業も自分事と考えてランサムウエア攻撃に備える必要があります。そのためにはランサムウエア攻撃に対する正しい理解が不可欠です。拙著では、攻撃の現状や手口、国内事例、対応方法、対策、歴史を分かりやすくまとめました。本書を読めばランサムウエア攻撃を深く理解できるとともに、攻撃を受けた場合の被害を最小限に抑えられると思います。特に、企業のセキュリティー担当者に読んでいただければと思います。

聞き手/田村規雄(日経BP 技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)
勝村幸博(著)/日経BP/3190円(税込み)
