紺に太いストライプの入った背広と派手なネクタイ姿は、「日本一黒い弁護士」の異名をとる久保利英明弁護士、79歳。ガバナンス(内部統制)、知財、株主総会対策の各分野で名高い辣腕弁護士が12月4日、薬物問題で揺れる日本大学の記者会見に登場した。8月の記者会見での失敗は繰り返すまいと、背水の陣を敷いた日大が頼ったのだ。林真理子理事長の右隣に座り、記者たちに対面したとき、テレビ中継を見た視聴者は強烈な印象を受けたようだ。たちまち、「あの男は何者?」。SNSやネットニュースなどで、ド派手弁護士の話題が沸騰した。会見の後、『 破天荒弁護士クボリ伝 』の編集者・黒沢正俊が事務所を訪ね、突然のバズりや日大問題の本質などについて聞いた。

記者会見での久保利さんの派手な服装、黒い顔が本筋とは別に、ネットニュースやSNSでバズっています。2017年に出版した『破天荒弁護士クボリ伝』(磯山友幸氏との共著)も再び注目されています。弁護士として「日経ビジネス弁護士ランキング」4期連続トップ、第二東京弁護士会会長、日弁連副会長を経験した華々しい実績より、いでたちで注目されたのはいかがですか。

久保利英明(くぼり・ひであき)日比谷パーク法律事務所代表弁護士/1944年生まれ。67年司法試験合格、68年東京大学法学部卒業。71年弁護士登録、森綜合法律事務所入所。98年日比谷パーク法律事務所を開設。2001年度第二東京弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長。現在、ソースネクスト社外取締役、コインチェック社外取締役、日本ガバナンス研究学会会長、一人一票実現国民会議共同代表。著作(共著・分担執筆を含む)は『会社更生 最前線』(1980年)を皮切りに現在まで79冊。(写真:尾関祐治、以下同)
久保利英明(くぼり・ひであき)日比谷パーク法律事務所代表弁護士/1944年生まれ。67年司法試験合格、68年東京大学法学部卒業。71年弁護士登録、森綜合法律事務所入所。98年日比谷パーク法律事務所を開設。2001年度第二東京弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長。現在、ソースネクスト社外取締役、コインチェック社外取締役、日本ガバナンス研究学会会長、一人一票実現国民会議共同代表。著作(共著・分担執筆を含む)は『会社更生 最前線』(1980年)を皮切りに現在まで79冊。(写真:尾関祐治、以下同)

久保利英明氏(以下、久保利):あんなに自分のファッションが話題になるとは思わなかった。いつも通っている飲食店のおやじから、「先生、Yahoo!ニュースでトップになってます」と電話が入ったり、SNSで祭り状態だったようだね(苦笑)。

 でも、会見時のファッションは至って地味だった。大宮ロースクール時代の教え子、菊間千乃弁護士(元フジテレビアナウンサー)も、翌日のテレビでそう言っていた。知ってる弁護士はみんな、いつもより地味、と異口同音に言っているよ。

確かに今日のオレンジ色のスーツと比べれば…(笑)。顔の色はいつもの黒さに比べると、それほどでもないですね。

久保利:今年の夏は南の島でなく、スペインで過ごしたから。でも、1月からグアム、そしてハワイに行くから、また黒くなるよ。

さて改めまして、日大問題に関与された経緯について教えてください。

久保利:二つのルートで打診されました。一つは、林理事長を知る元出版社役員からで、「林さんを支えてやってほしい」と依頼された。その後、改革派弁護士の推薦らしいが、「日大のガバナンス改革ができる弁護士は、久保利先生しかいない」とのことで大学本部から要請された。

 私は、文部科学省が設置した「学校法人ガバナンス改革会議」の委員だった。そこで文科省批判など言いたい放題発言していたから、日大が文科省に私の就任を打診しても、拒否されると思っていたが、なぜかOKされたらしい。そういう経緯を経て、今回のガバナンス問題に関与することになりました。

 私は30年間ガバナンス改革に関わってきました。実は昨年11月、日本ガバナンス研究学会会長に就任しました。その研究成果も生かして、全力投球でしっかり与えられた役割を果たすつもりです。

いつも久保利さんがやっている取締役会改革や不祥事を調査する第三者委員会ではなく、第三者委員会答申検討会議議長という役割です。一体、検討会議は何をやるのですか。

久保利:10月31日、日大の第三者委員会(委員長・綿引万里子弁護士)の報告書が出た。そこでは、理事会など上層部のガバナンス不全があったと指摘している。その報告書への回答として、ガバナンス改革などの実行計画をつくるのが検討会議の役割です。すでにスタートしていた途中の11月16日に任命され、30日に計画案を文科省に提出している。実行計画のモニタリングも役割です。

前回8月18日に行われた林理事長、酒井健夫学長、沢田康広副学長の記者会見では、薬物事件への釈明がかえって世間の批判を浴びました。今回の記者会見は2時間44分に及びました。留意された点はなんですか。

久保利:大学の広報は「2時間で打ち切り」との考えだった。私は3時間でも4時間でもやるべきだ、と主張した。企業の株主総会でも質疑が尽くされるべきなのと同様、今回の会見はまさに、様々な疑問に対して大学側がしっかり向き合うことが大切だと考えました。

そのガバナンスは本物か

今回の日大問題の本質をどう考えますか。

久保利:私は会見での発言に1970年代の日大紛争と学生のリーダーだった秋田明大さんの話を盛り込んだ。私は当時、東大の学生でほぼ同時代だから知っているが、会見に詰めかけた記者らは、日大紛争なんて誰も知らないかもしれない。今回はアメリカンフットボール部の事件だったが、その根っこは日大紛争時にまで遡ります。

日大紛争は、1960年代末に起きた大学の使途不明金問題を発端に、多くの学生や教職員が参加して大学の民主化を求めたもの。学生のリーダーだったのが、秋田明大さんですね。ざっくりと経緯をたどると、当初は学生・教職員側が攻勢をかけましたが、先鋭化した学生側の活動への支持低下などもあり、大学の本質的な改革には至らなかった。また紛争当時、体育会が大学側の支持に回ったことで、その後、体育会が学内での隠然とした力を持つことになったとも言われています。

久保利:日大紛争時の大学の体質が、実はその後も変わっていなかった。日大のことは日大でやる、といった閉鎖的な体質だ。それが背景にあって、前執行部が交代するきっかけとなったアメフト部の悪質タックル問題や、今回の薬物問題が起きたと考えている。

 学生寮に大麻部屋があり、薬物を発見して警察に届けなかった大学側の行動など、世間的に見て常識外のことは、そういう視点から考えるべきです。

2023年も年の瀬を迎えますが、中古車販売の最大手ビッグモーター事件を皮切りに、芸能界でもジャニーズ問題や宝塚歌劇団の問題など、いろいろな事件が表面化しました。久保利さんと言えば今や企業関連の大型裁判での活躍で知られていますが、若い頃は吉田拓郎、井上陽水などニューミュージック系アーティストの音楽著作権を扱うなど、エンターテインメント弁護士の草分けでもある。そして、一票の格差訴訟を14年間、10回も最高裁大法廷で弁論していますね。一人一票訴訟も日大問題と同種の、国家のガバナンスが問われている事件です。そんな久保利さんには、特にガバナンスという観点から、今年起きた一連の問題はどのように見えていますか。

久保利:これは今年はっきりと分かったことですが、従来は外部に出てこなかった秘密がどんどん漏れ出てくる社会になった。言い換えると、隠しても秘密を守れない社会になったということです。

 閉鎖的なムラ社会が崩れてきた結果、いろんな組織の問題が表面化してきた。不正を告発する人が現れ、SNSなどでの炎上をきっかけに、一気に秘密が外部に流出するようになった。

 ビッグモーターはガバナンスなき個人商店的体質だった。芸能界や大学は、世の中の流れに比べてガバナンスという観点では大きく遅れていた。

 一般企業について言えば、私が総会屋と対峙していた頃に比べると、全体にガバナンスは改善されてきました。ひどい会社は少なくなった。しかし、ガバナンスの内実を見ると、社外取締役の数、女性役員の比率など制度、形だけにすぎないのかもしれない。制度、形は整っていても、経営に言うべきことを言える胆の座った人材が果たしているのだろうか。結局、ガバナンスは制度ではなく、人だと思っている。

 他方、この国で世界と戦える企業が、どれだけ存在しているのだろうか。東京証券取引所が求めているPBR(株価純資産倍率)1倍以上という要請に対し、依然として1以下の企業も多いことを考えると、名実そろった一級のガバナンスの確立はこれからだと言える。

まだまだ久保利さんの活躍が必要ですね。

久保利:様々な事件や不祥事などが次々に起きるなかで、不安や不満を感じている人も多いでしょう。私が常に心に留めているのは、正義のための弁護士であること。できることを全力でやり続けるだけです。

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