2022年の出生数は80万人を割る見込みで、少子化が加速しています。少子化はいつから始まったのでしょうか。なぜ出生数は増えないのでしょうか。少子化や人口減少の問題に詳しい日本総合研究所 調査部上席主任研究員の藤波匠さんが、様々な調査データを基に解き明かしていきます。藤波さんと30代の女性、20代の男性による架空鼎談形式で、結婚・出産適齢期の人々の実感や考え方を踏まえながら、分かりやすく説明します。第2回。

第1回 「止まらぬ少子化 出生数7年で20%超減少、80万人割れの衝撃」

※本記事をもとにした書籍『 なぜ少子化は止められないのか 』(日経プレミアシリーズ)を2023年5月に刊行予定です。

某大学大学院、社会政策論の授業後の教室。教室に残った非常勤講師に、学生2人が少子化に関して質問をしている。非常勤講師は、日本総合研究所の研究員、藤波匠。学生は育休中の34歳の女性(宮本)と、大学院生の23歳の男性(大森)。先週と同じく、授業の後、3人が少子化問題について議論をしている。

団塊ジュニア世代で非婚・晩婚化が進んだ

藤波  第1回 は、団塊ジュニア世代の不遇の話で終わりました。大森さんは、人口の多かった団塊ジュニア世代に対して、効果的な少子化対策が打てなかったことで、時すでに遅しではないかという厳しい指摘をしていましたよね。

大森 私の母は1972年生まれですから、団塊ジュニア世代に該当します。小さい頃から学習塾に通っていたという話をしていました。一生懸命、勉強して希望の東京の大学に進学したまではよかったんですけど、社会に出てみたらバブル崩壊後で、東京では希望の職に就けず、地元の長野に帰って信用金庫に就職したと言っていました。本当は東京でOLになりたかったというのを聞いたことがあります。

藤波 団塊ジュニア世代は、大森さんのご指摘の通りで、大卒の年齢がバブル崩壊にまともにぶつかってしまった。その少し前の1980年代後半に就職した女性は均等法第1世代(男女雇用機会均等法の施行直後の世代)などと言ってもてはやされたけど、1993年以降に就職した団塊ジュニア世代は、それどころではなかった人も多かったと思います。

 団塊ジュニア世代は、男女とも大学進学率が急上昇した世代で、1986年には男女雇用機会均等法が施行された。バブルという時代背景もあって、大学在学中は、女性も生き生きと自分の生き方を追い求める新しい時代の風を感じていた人も少なくなかったと思います。

 それが、大学を卒業してみたら、不景気の荒波が待ちかまえていた。私が最初に就職した大手電機メーカーでは、1992年の大卒新入社員の数は2000名、それが93年には300名にまで激減しました。

大森 そこであぶれたのが、私の母ということですね。

宮本 藤波さんは、団塊ジュニア世代で大学進学率が急上昇したということを言われましたけれど、これも少子化に関係していたかもしれませんね。社会に出る時期が遅くなるわけですから、結婚、出産も後ろ倒しとなる。

 私も、大学を出た後は、仕事を覚えて自己研鑽(けんさん)に励む風潮があり、結婚に至るまでには時間がかかりました。また、大学に行くとなると、地元でなくて東京などの大都市に出てくる人が多くなり、頼みもしないのに結婚相手を見つけてくれる親戚のおばさんからも逃れられるわけですから。

藤波 この時期、非婚・晩婚の動きが一気に進みました。結婚・出産のタイミングが後ろ倒しになり、それが少子化の主因であったことは間違いありません。政策当局のみならず、一般的な理解として、結婚さえしてくれれば、一定数の子どもが生まれるという思いはあったと思うけれど、この時期以降、若い人たちがなかなか結婚しなくなった。結婚しづらい社会の変化については、3人の女性記者が書いた、 『ルポ 婚難の時代 悩む親、母になりたい娘、夢見るシニア』 (筋野茜、尾原佐和子、井上詞子著/光文社新書)という本もありますよ。

団塊ジュニア世代で非婚・晩婚化が進んだ(写真/shutterstock)
団塊ジュニア世代で非婚・晩婚化が進んだ(写真/shutterstock)
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少子化が進むもう1つの理由

大森 社会の変化によって出生数が減少したということであれば、今さら少子化対策と言っても、やはりもう手遅れのような気がします。団塊ジュニア世代は、もう若くても50歳近くになるわけです。出産が可能な若い世代の人口減少は進む一方ですから、彼女らが出産の中心的世代であった時期に、有効な手を打てなかった影響は大きいですよ。

 団塊ジュニア世代の出生数は年間200万人以上あったのに、その子に当たる私の世代は120万人程度。4割減ですよ。1世代ごとに4割減るということは、私の子ども世代は72万人、ちょうど2022年の出生数に近い水準ですね。藤波先生が少子化に警鐘を鳴らす気持ちも分かりますが、将来を見据え、さらなる少子化を前提とした社会の構築を目指すべきではないでしょうか。

藤波 確かにその通りで、団塊ジュニア世代の結婚や出産に影響しうる有効な手立てを打てなかったことは、もう取り返しがつかない。でも、足元で進む少子化は、必ずしも親となる出産期人口の減少と非婚・晩婚だけが理由ではなさそうなんです。結婚をした夫婦の出生率も低下が見られ始めている。図表1を見てください。

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藤波 これは、国勢調査などのデータを基に、出生数の変化をもたらした要因を明らかにするために行った要因分解の結果です。2015年から20年にかけて出生数が大幅に減少したのですが、人口要因や婚姻率要因の寄与は以前とそれほど変わりありません。唯一、有配偶出生率要因が、出生数の押し上げ要因から押し下げ要因に転じています。

 すなわち、16年以降、出生数の減少スピードが速くなったのは、結婚している人たちの子どもを生む割合が低下したことが最大の理由であったことが分かります。これまでは、出生数を押し上げていた有配偶出生率が、一転、押し下げ要因となったのです。

 以前は「結婚までこぎ着ければ、少子化対策は事足れり」と考えられていましたが、今は結婚している人ですら、子どもの数を抑える方向に動いているんです。私はこうした状況を、「出生意欲の低下」と表現しています。少子化が、新たなステージに入ったということではないでしょうか。

結婚した人の希望子ども数が急減

宮本 若い世代の出生意欲の低下は、確かに感じるところがあります。国立社会保障・人口問題研究所が実施した出生動向基本調査というアンケート調査でも、そうした傾向を示す結果が報道されていました。

藤波 これですね。図表2は未婚者の希望子ども数、図表3は結婚したら子どもは持つべきだという考えに肯定的な回答をした人の割合です。希望子ども数は急減し、結婚と出産を切り分けて考える人の増加が見てとれます。

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大森 この状況を見ると、子どもの数を増やすどころか、維持していくことすら困難であることが推察されますよね。

藤波 なるほど、確かに厳しい状況です。では、若い世代の出生意欲が低下している現状、どのような政策が必要となるのでしょうか。ここから先は、来週までの宿題にしましょうか。来週は、少子化対策の中身や考え方について議論しましょう。