音部大輔さんの新刊『 マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答 』が4月20日に発売されました。敏腕マーケターにして日経クロストレンドのアドバイザリーボードも務める音部さんが今回タッグを組んだのは、これが初の書籍編集となる日経クロストレンドの新人記者・河村優。「企画から発売までのワクワクドキドキ時にしんどみな、書籍編集の現場を大公開します!」と意気込む河村が、本づくりと同時進行的に書きとめたこの連載。第1回は音部さんのご紹介や、この本で「誰に何をどう伝えるか」について。

 こんにちは。日経クロストレンド記者の河村優と申します。社会人3年目のクロトレ歴1年目、絶賛マーケティング学び中です。そして、この原稿を書いている3月後半、そんな私の脳内の80%を占めているのが(100%じゃないんかい)、新刊書籍の編集!!! そう、今私は人生で初めて書籍の編集に取り組んでいます。

 始まりは2022年夏のことでした──。クロトレ随一のベテラン編集者、酒井康治さんに呼び出され、何のことやら分からぬまま書籍構想の打ち合わせに参加。あれよあれよと話が進み、私は酒井さんのサブとして新刊書籍の編集を担当することになっていたのです。

 この書籍、かの敏腕マーケター音部大輔氏の新刊です。音部さんはプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)でブランドマネジメントを17年間経験し、その後ダノンやユニリーバ、日産自動車、資生堂など数々の企業のマーケティングを主導してきた方。音部さんの前作『The Art of Marketing マーケティングの技法』(宣伝会議)は、日本マーケティング本大賞2022の大賞を受賞。正直、マーケティング学習歴1年のペーぺーが編集に入って何ができるだろうと我ながら心配でしたが、とにかく私にとって初の書籍編集が始まりました。

 しかし蓋を開けてみるとこの書籍、マーケティング1年目の新人にどんずばな内容でした。編集しながらめちゃめちゃ学んでます。というのも、今回の新刊はマーケティングの技法やノウハウを集めた内容ではありません。「マーケティングの神髄とは」「このままマーケターとして生きていきたいですが、迷いもあります。キャリアについて音部さんはどう考えていますか」「こんなところにもマーケティングの考え方が使われているのかと、驚くことを教えてください」といった読者から寄せられた疑問に、音部さんが答えていく内容なのです。

 この書籍、もともとはWebメディア「アジェンダノート」で好評連載中の「音部で『壁打ち』」をベースに、さらにたくさんの書き下ろしを加えたもの。連載名の通り、現場のマーケターから寄せられた質問に音部さんが壁打ち相手になって答えていきます。そして書き下ろしは、まさに今、マーケティングを学び中の現役大学生から募った質問に対する回答が中心です。

 「顧客起点を徹底するには」「フレームワーク化する力はどうやったら身につく?」「新商品導入の継続と撤退をどう見極めるか」といった実践的なトピックも満載。日々前線に立っているマーケターにとっても充実の内容になってます。

 書籍構想の初期段階から話していたのは、「学生など、まだマーケティングにがっつり触れたことがない人にも手に取ってもらいたいね」ということ。この本は、人生の、そしてマーケターの先輩である音部さんから私たちへの、「応援の書」です。音部さんの経験を基に語られるマーケティング視点、キャリア論、そして人生への洞察……染みます。音部さんの語りかけるような文体もイイんです。

 大変今さらですが、新刊のタイトルを発表させてください。『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』です!

左から書影、音部さん、河村です
左から書影、音部さん、河村です
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 音部さんは書名に入れた「扉」について、「壁を通り抜ける手段のようなもの」とおっしゃっていました。1項は1つの扉。読み進める=扉を開けるごとに壁に立ち向かうためのヒントが手に入ります。

 ちなみに、この記事のゲラを音部さんにお見せしつつ話していたところ、「明日のプレゼンどうしよー」という話になりました。泣きつく私に音部さんからこんな回答が。

 「プレゼンで緊張すると、資料から顔を上げずに、朗読会になってしまうことがあります。プレゼンは、むしろコミュニケーションの場です。そこで、始まる前に『終わった時に何が起きていたら成功か?』を明らかにしておきましょう。そして、プレゼン中は、主要な対象者をよく見ながら話しましょう。その人の様子を見つつ、ペースを上げたり下げたり、内容を膨らませたり、減らしたり調節して、目的の達成を意識していれば、きっとうまくいきます。がんばって!」

 ありがたし……。こんな感じで、音部さんからのアドバイスを受けられるのがこの本です。

 一問一答形式なので、「最近なんだか成長できてない気がする」「なんでこの仕事してるんだっけ……」といったその時々に合わせて、ピンとくる項を気軽に選んでみてください。きっと本質に立ち返って考えられるような、ヒントを得られるのではないかと思います。

 それでもう1個今日最後にめちゃめちゃ言いたいことがあって、それは何かというと、これについてです。

音部さん直筆の「この本の読み方」。万年筆がいい味出してます
音部さん直筆の「この本の読み方」。万年筆がいい味出してます
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 これは本書の扉ページと裏表紙に入れた、音部さん直筆の「この本の読み方」。やはり悩みや迷いが生じたときに、一回に一つか二つ、読むのが適量なようです。

 実はこれ、小説家 開高健氏の著書『風に訊け』の扉ページをオマージュしたものです。音部さんは開高氏の大ファン(開高氏の代表作『オーパ!』に至っては、読む用の文庫本に加えて保存用の完全復刻版、手書き版など、何冊も持っているそうです。すごい)。本書の構想初期段階から、『風に訊け』のような親しみやすく、それでいてロマンを感じるような、そして悩める人の背中をさりげなく押すものにしたいと語られていました。もちろん、それは私たち編集チームの総意でもあります。そうなってるといいな。

 と、こんな感じで、新刊ができるまでをリポートします!

(第2回に続く)

日経クロストレンド 2023年3月27日付の記事を転載、一部改変]

迷えるマーケターの背中を押す応援の書

マーケティング分野で活躍したいと願う若きビジネスパーソンや学生必読の書。元P&Gを筆頭に数々の著名企業マーケティング部門を率いてきた音部大輔氏が、今さら聞けないマーケの疑問に加え、キャリアや仕事の悩みにも全力回答! あなたの「マーケティングの扉」を開きます。

音部大輔(著)、日経BP、1980円(税込み)