「うちの年収っていくらなの?」 ―― 子どもからそんな質問を受けて困ったという、親御さんの話をよく耳にします。どう答えたらいいものでしょうか。

「そんなこと、子どもは知らなくていいのっ!」などと𠮟りつけて、切り捨ててしまうのも気が引けます。これからの社会を生き抜いていくうえで、お金の知識は大事。学習指導要領の改訂により、2022年度からは高校の家庭科で投資信託や資産形成などについて教えるようになりました。子どもがお金に興味を持ったのなら、なにか気の利いた答えを返したいところです。

 だからといって、自分の年収が「××万円だ」と、ズバリ教えてしまうのもどうかと思いますよね。なにしろ子どもに教えたら最後、近所の子どもたちに広く知れわたることは必至ですから……。

 子どものマネー教育の一助となり、親のプライバシーも守れるいい答え方がないものか? ファイナンシャル・プランナー(FP)で、小学校5年生の男の子を育てている高山一恵さんに、アドバイスをいただきました。夫婦ともどもFPという高山さんの家族をモデルに、一人息子の「ヒロ」と「FPママ」「FPパパ」の3人家族の会話という形で「回答例」を示します。

イラスト/高田真弓
イラスト/高田真弓

 子どもにお金について聞かれて、困惑することって、ありますよね。とある日の午後、FP夫婦(FPママとFPパパ)と一人息子のヒロが、リビングでくつろいでいると……。

ヒロ:ねえ、ママ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。

FPママ:なに?

ヒロ:うちの年収ってどれくらいなの?

FPママ:えっ? 急にどうしたの?

ヒロ:このあいだ、学校の友だちと「うちの親ってどれくらい稼いでいるんだろうね」って話題になったんだよねー。

FPママ:そっか、そうなんだー……。まあ、確かに気になるよね。じゃあさ、ヒロはどれくらいだと思う?

「443万円」を糸口に

ヒロ:うーん、うちは、1年に何回か家族で旅行にいくし、僕は塾に通わせてもらっているし、ママがあんまり料理しないから外食も多いじゃん。だから結構稼いでいるのかなって。

FPパパ:おっ。鋭いな。じゃあさ、平均って、どれくらいだと思う?

ヒロ:平均かあ……。普通のうちの年収はどれくらいかってことだよね。

FPパパ:まあ、ざっくりいえばそういうことだね。答えを教えちゃうと、日本の会社員の平均年収は443万円なんだ(※)。

ヒロ:へーっ。じゃあ、月額にすると「443万円÷12」で……36万9166円っていうところか。大人はだいたい1カ月に37万円くらいもらっているんだ。

忘れちゃいけない「税金」と「社会保険料」

FPパパ37万円を全部、使えるわけじゃないよ。年収から税金や社会保険料というお金が差し引かれるんだ。だいたい年収の20%くらい引かれるんだよ。だから実際には、443万円から20%を差し引いた354万4000円が、大人の年収の目安で、これを12で割った約29万円が1カ月に使えるお金。「手取り収入」って呼んだりするよ。

ヒロ:ふーん。そうなんだ。でも、税金と社会保険料って要するになんなの?

FPパパ:税金は、国や都道府県、市町村に支払うお金のこと。税金はみんなが安心して暮らしていくために必要な交番や救急車、ゴミ収集、学校などに使われているんだ。もし、税金がなかったら大ケガをしても救急車が来なかったり、来てくれても、すごく高いお金を払わなくてはいけなくなったりしてしまうんだよ。ゴミ収集が止まっちゃったりしたら、臭くてたまらないよね。

ヒロ:そうだね。自分のところに入ってくるお金が減るのはイヤだなって思ったけど、税金は僕たちの生活に必要なものなんだね。

FPパパ:そうだよ。だから、税金は国民が支払う義務があるんだ。社会保険は、病気になったり交通事故にあったり、生きていくうえで困ったことが起きたときにみんなで助け合うためにあるんだよ。もし、お父さんが病気になって働けなくなったらお給料がもらえなくて家族が困るよね。そんなとき、あらかじめみんなから集めたお金から助けてもらえるんだ。病院にいったときに支払うお金も、社会保険のおかげで安くなっているんだ。

ヒロ:ふーん……。ところでさ、平均年収はわかったけど、わが家の年収はどれくらいなの?

ネットで検索で、わかるかも?

FPママ:うーん、うちは、ママもパパも働いているから、平均年収よりは高いかな!?

ヒロ:平均年収より高いってことは……1000万円とか!?

FPママ:そこはナイショ♪

FPパパ:年収は、仕事の種類や働いている年数などで変わってくるんだよ。ネットで調べてみたらだいたいの金額はわかるんじゃないかな。

ヒロ:そうなんだ。じゃあ検索してみようかな。ママたちはファイナンシャル・プランナー(FP)だから、「FP 年収」みたいな感じだよね。ついでに、どんな仕事だと年収が高いのか調べてみようっと。

FPママの解説

 子どもに年収を聞かれると、なんと答えたらいいのか困ってしまうもの。ですが、子どもがお金に興味を持った貴重なタイミングです。答えられる範囲で答えたいところです。

 だからといって自分の年収をズバリ子どもに教える必要はありません。親の年収を聞く子どもの好奇心は「大人はどのくらいのお金を持っているのだろう」というくらいの漠然としたものです。お勧めは、まず「日本の会社員の平均年収=443万円」を伝えること。子どものなかに大人の年収に対するイメージができるので、最初の好奇心はある程度、満たされます。

 できれば、年収から税金や社会保険料が差し引かれていることも伝えたいですね。税金や社会保険料の使い道について簡単に説明できると、社会の仕組みも学べます。

 どうしても親の年収を知りたがる子には、ご自身が働いている業界や職種の平均年収を伝えるのもいいと思います。平均年収はさまざまな切り口で変わります。自分で調べてみれば、子どもが将来の職業選択に関心を持つきっかけの一つになるかもしれません。 次ページに、さまざまな職種別の平均年収を示した表を掲載します(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をもとに作成)。職業選びは、自分の好きなことや得意なこと、やりたいことを軸に考えたいものですが、お金の問題も無視できませんよね。

 さて、ヒロは現在、11歳。小学校5年生です。11歳は、お金の教育を体系的に始めるのにいいタイミングだと思います。小学校5年生というと、学校で「百分率」を習う学年。4年生で学び始める「割合」の扱いにも慣れてくる時期で、なにかと比率が出てくるお金の話を理解する素地が整ってくるころです。それと同時に「親の年収」も含め、社会への関心が広がる時期でもあります。この連載では、11歳くらいの子どもが抱く素朴な疑問に答えながら、マネーリテラシーを高める会話のコツを考えていきたいと思います。

ポイント:「日本の会社員の平均年収=443万円」を教える
・ 子どもに年収を聞かれたときには、ズバリ教えなくても大丈夫。日本の会社員の平均年収を教えれば十分
・ 「年収=使えるお金」ではない。税金や社会保険のことを忘れないで!
・ 年収は働く業界や職種によって変わる。業界や職種別の年収を調べて、将来の職業選択について考えよう

※ 国税庁「民間給与実態統計調査」(令和3年)

職種別の平均年収(資料編)

 厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」をもとに、「きまって支給する現金給与額」を12倍したものと、「年間賞与その他特別給与額」を足した数値を「平均年収」として試算した。男女総合、女性、男性それぞれの上位10職種を示した。

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 連載第1回をお読みいただき、ありがとうございます。今回の回答例が「絶対の正解」というわけではありません。ご家族のことを考えながらご自身の回答例を考えてみてください。そして「家族でお金について考える」ことにさらに興味をもっていただけたなら、この連載を基にした書籍『 11歳から親子で考えるお金の教科書 』もぜひご参照ください。

日経ビジネス電子版 2023年2月3日付の記事を転載]

子どもも納得!「お金の超・基本」。ファイナンシャルプランナー(FP)夫婦が、息子の「なぜ?」に答えて、お金の上手な「稼ぎ方」「使い方」「増やし方」を伝えます。年収、社会保険、電子マネー、投資、NISA、暗号資産……気になるトピックを、漫画と図解でわかりやすく解説。

頼藤太希、高山一恵(著)、日経BP、1760円(税込み)