家電量販店などでよく見かける「10%ポイント還元」と「10%割引」、どちらがお得だと思いますか? そして、その理由は?
当たり前なことのようで、「大人でも即答できなかったり、勘違いしていたりすることが意外にある」と指摘するのは、ファイナンシャルプランナー(FP)の高山一恵さんです。子どもならばなおのこと、間違いやすいポイントです。
子どものマネーリテラシーを高める、親子の会話について考える本連載。今回のテーマは「割引」です。
11歳は、お金の教育を体系的に始めるのにいいタイミングだと、高山さんはいいます。なぜなら、11歳といえば、小学校5年生になる年。学校で「百分率」を習い、なにかと「パーセント」の話が出てくるお金の話を理解する素地が整ってきます。それと同時に、社会への関心が広がる時期です。高山さんも、息子の「ヒロ」くんを育てながら、実感しました。
そんなタイミングで、子どもに確認したいのが、「10%ポイント還元」と「10%割引」の違いがわかるかどうか。夫婦ともどもFPという高山家の会話という形で、解説します。登場するのはFPママとFPパパ、そして息子のヒロの3人です。

最近は、いろんな割引サービスがあります。あまりにいろんな仕組みがあるので、同じ商品でも、どこのお店でどう買うのが一番、お得なのか、わからなくなってしまうほど。FP家族がお買いものに出かけたときにも……。
ヒロ:わーい、今日はエアコンの買い替え! 家電量販店って、なんかテンションが上がっちゃうんだよねー! 見て、見て! 最新のエアコンは、いろんな機能がついているし、省エネ性能も高いみたいだよ!
FPパパ:お、それ、いいね。
FPママ:性能がいいぶん、お値段も高いけど!
ヒロ:でも、このエアコン、「10%ポイント還元」だって! ポイントは1ポイント1円で使えるんでしょ。10%もポイント還元されるんだからお得じゃん!
FPママ:そうね。でも、さっき見たお店でも、同じエアコンが同じ値段で売られていたじゃない。しかも、さっきのお店では「10%現金値引き」だったわ。
ヒロ:「10%現金値引き」って、なに?
FPママ:要するに「10%割引」ということよ。
ヒロ:「10%割引」も「10%ポイント還元」も、別に変わらないでしょ?
FPパパ:んっ、本当にそうかな?
「いくらの商品」に「いくら払った」か
ヒロ:えっ! 違うの?
FPパパ:こういうのは、ちゃんと計算して確かめたほうがいいと思うよ。数字はなんでもそうだけど、金額が大きいか小さいかは、特に大事なことだからね。
例えば、1万円の電子レンジが「10%割引」になっているとするぞ。この場合、「いくらの商品」を手に入れるのに「いくら払った」ことになるかな?
ヒロ:えーっと、割引の金額は「1万円×10%=1000円」だよね。だから、「1万円-1000円=9000円」を払ったってことになるよね。で、手に入れたのは「1万円の電子レンジ」だね。
FPパパ:そうだね。つまり、この場合は、「1万円の商品」を手に入れるのに「9000円を払った」ことになる。となると、割引率は「1000円÷1万円=10%」だね。
ヒロ:だって「10%割引」なんだから当然、そうなるでしょ。
FPパパ:じゃあ、同じ1万円の電子レンジを買って「10%ポイント還元」だった場合はどうかな?
「ポイント還元」の割引率を計算してみよう
FPパパ:この場合は1万円を払った後で1000円分のポイントがもらえるんだよね。でも、このポイントは買いものをした当日には使えないことが多いから、後日使うか、そのまま貯めておくことになるね。
ヒロ:そうだね。
FPパパ:じゃあ、1万円の買いものをした1週間後に、その1000円分のポイントを使って、1000円のお鍋を買ったとしようか。この場合、「いくらの商品」を手に入れたことになるかな?
ヒロ:電子レンジが1万円で、お鍋が1000円なら「1万1000円の商品」だよね。
FPパパ:正解! じゃあ、電子レンジとお鍋を手に入れるのに「いくら払った」ことになる?
ヒロ:えっと……最初に払った「1万円」だけかな。
FPパパ:そう! ということは、この場合、「いくらの商品」を手に入れるのに「いくら払った」ことになるかな?
ヒロ:「1万1000円の商品」を手に入れるのに「1万円を払った」ということだね。
FPパパ:じゃあ、割引率はどうなると思う?
ヒロ:割引率は……「1000円÷1万1000円」になるけど……。
FPパパ:そう。じゃあ、計算してみようか。スマホの計算機を使っていいからさ。
ヒロ:うーん……
どうしてママは「現金値引き」が好きなのか?
ヒロ:……「1000円÷1万1000円=9.0909…%」か……。あれ、割引率が10%よりも低い……。うわーっ! 「10%ポイント還元」より「10%割引」のほうがお得なんだ! ってことは、「10%現金値引き」のほうがお得なんだね。僕、どちらも変わらないって思っていたけど、違うんだ。損しちゃうところだったよ。
FPママ:そうなのよ! だからママは、同じエアコンを買うなら「10%ポイント還元」よりも「10%現金値引き」のほうがいいなって思ったわけ。
ヒロ:なるほど!

FPママ:それにポイント還元の場合、還元されたポイントは、だいたい買いものをしたお店でしか使えないじゃない? 貯まったポイントを使ってお買いものをしたときには、ポイントが貯まらないこともあるしね。
ヒロ:そっかー。ポイントって、使い道がかぎられちゃうんだね。でも、僕は買いものをするたびにポイントが貯まるのが好きなんだ。預金通帳に預金が増えていくみたいで楽しくていいじゃん。
FPママ:その気持ちわかるわー。でもね……。
ほかにもある! ポイント還元の注意点
FPママ:これは、お店側の戦略でもあるのよね。お店から「ポイント2倍キャンペーン」なんて案内がくると、ポイント欲しさに買う予定のないものまで買ってしまう人も多いと思うの。ママだって、「ポイント2倍」に釣られてつい買ってしまうことがあるもの。
ヒロ:ママは買いものが好きだからね!
FPママ:それとポイントにはだいたい、有効期限があるじゃない。うっかりしているうちに有効期限が過ぎちゃって悔しい思いをするなんてこと、ママもよくあるわ。
FPパパ:そういうときは、その失われたポイントのぶんだけ、お店側が得したことになるわけだよね。
ヒロ:なるほどー。それも、お店の戦略なのかなあ。お店側のことも考えると、いろいろわかってくる気がするね。
FPパパ:まあ、ポイント還元と現金値引きみたいな割引の仕組みには、ちょっとした駆け引きみたいなところがあるかもしれないね。
ヒロ:そっか。よーし、負けないぞー。これからは買いものするとき、ちゃんと計算して、どうやって買うのが一番得なのか、しっかり研究するぞ!
FPパパ:おっ、頼もしいな♪
FPママの解説
お買いものをするときの割引サービス。お店ごとにさまざまな仕組みがあって、迷ってしまいますよね。家電量販店などでよく見かけるのは「〇%割引」と「〇%ポイント還元」。どちらのほうがお得なのでしょうか?
子どもに尋ねてみると、小学校高学年でも結構、間違える子が多いです。大人でも即答できなかったり、勘違いされていたりすることが意外にあるものです。迷ったときは、シンプルな数字を入れて計算し、確かめてみるといいでしょう。このようなクセをつけることも、お金が貯まりやすい体質づくりにつながります。
割引サービスを比較するときには、「いくら支払って、何円のものが買えたのか」に着目するといいでしょう。例えば、「1万円」の商品が「10%割引」になる場合、「9000円を支払って、1万円のものが買える」ので、割引額は「1000円」。割引率は「1000円÷1万円=10%」です。一方、「1万円」の商品を買って「10%ポイント還元」になる場合、「1万円を支払って、1万1000円のものが買える」ので、割引額はさきほどと同様「1000円」ですが、割引率は「1000円÷1万1000円=約9.1%」になります。
つまり、ポイント還元よりも現金値引きのほうがお得だということがわかります。
「一見同じように見える」と、「どちらでもいいや」となりやすいもの。でも、実際に計算してみると違いがあることがわかります。どちらがお得なのかを、きちんと計算する習慣があるかどうかで、金銭感覚の鋭さに差が出るものです。
今回のFP家族のように、エアコンのような大きな買いものをするときには、親子で一緒に現金値引きとポイント還元のどちらがお得なのか、割引率を計算してみるのがお勧めです。子どもたちはこれから、大小さまざまなお金の選択を迫られます。選択肢を比較することの重要性を学べるはずです。
連載第2回をお読みいただき、ありがとうございます。「家族でお金について考える」ことにさらに興味をもっていただけたなら、この連載を基にした書籍『 11歳から親子で考えるお金の教科書 』もぜひご参照ください。
[日経ビジネス電子版 2023年3月31日付の記事を転載]
頼藤太希、高山一恵(著)、日経BP、1760円(税込み)