実は「日経の本」には経済・ビジネス以外にも、健康関連の本も数多くあります。その特徴は、エビデンスに基づいていることと実用性の高さ。健康を自己管理の一環として捉えるビジネスパーソンをはじめ、美容やセルフケアに関心がある人にもお薦めできるラインアップです。日経BPで健康関連の本を多く手がけている編集者に、お薦めの「心と体がととのう日経の本」について聞きました。
デジタル環境下の集中力を正しく理解していますか?
『ATTENTION SPAN(アテンション・スパン) デジタル時代の「集中力」の科学』(グロリア・マーク著、依田卓巳訳、日本経済新聞出版)
日経ヘルス編集長・白澤淳子(以下、白澤) これは2024年刊行の本ですが、最近読んで一番良かった本で、実はいろんな人に勧めています。現在、多くの方が、自身の仕事をいくつもこなしながら、絶え間なくメールやチャット、ウェブ会議などに対応していると思います。私もその1人で、せわしなさから集中力も作業効率も低下しているように感じていました。
心理学者で情報科学者の著者はオフィスワーカーがどのように電子コミュニケーションツールを使い、どのタイミングで注意がそれるのかという実験と分析を行っています。そのデータによると、現代人は「1日に77回もメールをチェック」していて、どの電子コミュニケーションツールでも集中できる時間は「47秒」のみ、その都度集中が中断され、「再集中するまでに25分以上かかっている」ことが明らかになっています。
どれも驚くべき数字です。
白澤 いかに私たちが集中しにくい環境で働いているか、ということを示していますよね。決して、「集中力がなくなったのではない」ということを裏付けているともいえるでしょう。そんな私たちに必要なのは、集中力を精神論で鍛えることではなく、集中力を奪われにくい働き方と環境づくりです。具体的な方法は本書に詳しく書かれているので、集中力の低下に悩んでいる人はぜひ一度手に取ってもらいたいです。実際、私はこの本によって、ストレスが減っただけでなく、自分を集中しやすい状態にもっていけるようになり、作業効率が上がったことを実感しています。
時間の使い方に関する記述でも、興味深いものがあったようですね。
白澤 時間の使い方には2種類あって、1つのタスクを完成させた後で次のタスクに移る「モノクロニック(単一時間)型」と、同時にいくつものタスクを扱う「ポリクロニック(複数時間)型」があると書かれています。モノクロニック型の人は、現代のせわしない働き方において、やることが多過ぎて時間が足りない、という役割過重の感覚に悩むことがよくあるようです。逆に、後者のポリクロニック型の人はタスクの切り替えが上手なので、役割過重の感覚に悩むことはあまりないそうです。ほとんどの人はこの2つの間のグラデーション上に位置するようです。
自分はモノクロニック寄りか、ポリクロニック寄りかを知ることも、集中力のコントロールに役立ちそうです。
白澤 一緒に働くメンバーの特性を知っておくのもいいですよね。例えば、モノクロニック寄りの人には、つどつどチャットすると役割過重の感覚にさせてしまうから、用件はまとめてメールしよう、など。そうすることで業務上の深刻なミスマッチが起きずに済み、人間関係も円滑に保ちやすくなると思います。
10年間うつと向き合ってきた著者による心の疲れのほぐし方
次の推薦本のテーマは心のケアで、うつっぽさやイライラ、対人関係のストレスなどをやわらげる方法がイラストで紹介されています。著者でイラストレーターの崎田ミナさんは『日経ヘルス』でずっと連載されている方ですよね。
白澤 崎田さんは約10年間うつと向き合ってこられた方です。うち2年はパニック障害も経験され、当事者だからこその説得力があり、その点が多くの方に支持される理由だと思います。本書を含め7冊の著書があり、累計75万部を突破しています。『日経ヘルス』が編集・刊行した 『 自分の手でときほぐす! ひとりほぐし 』(崎田ミナ著、日経BP) も15万部を超えるベストセラーになりました。
その著者が、心療内科医や公認心理師など心の専門家に教わった「心の疲れを取る方法」をまとめたのが本書です。2つのアプローチ法があって、1つはちょっとした考え方のヒントからモヤモヤが晴れる「読んで心が軽くなる」方法、もう1つがマッサージや呼吸法などの「体から心がゆるむ」方法です。その時々の心の状態に合わせて、好きなところを読んでいただければと思います。
「心が弱ってつらいときにも開く気になれて、これならできそうだな、と思うものを見つけられるように──」という著者の強い思いがこもった一冊です。ご本人も、本書で紹介している方法を普段の生活に取り入れ、心身が楽になって、ゆとりが生まれたとおっしゃっています。
健康長寿の秘密を追う医師が案内する腸のすごい世界
『健康の土台をつくる 腸内細菌の科学』(内藤裕二著、日経BP)
白澤 3冊目の著者の京都府立医科大学大学院医学研究科の内藤裕二教授も、『日経ヘルス』とは長いお付き合いがあり、連載もしていただいていました。内藤教授は消化器内科医としての知見があり、かつ、腸内細菌研究も行っているという稀有(けう)な存在です。
昨今、腸内細菌と病気との関係がいろいろと明らかになっていますが、内藤教授だからこそ、エビデンスに基づく精度の高い説明ができるわけです。大腸がんや認知症、免疫などと腸内細菌の関係をはじめ、日本人の腸に潜む「ヤセ菌」と「肥満菌」、糞便移植の有効性など、どの程度判明しているのかについて分かりやすく解説しています。国内有数の長寿地域である京丹後市の高齢者の生活習慣や食生活などをつぶさに調べた「京丹後長寿コホート研究」という疫学研究がありますが、内藤教授はその研究にも関わっているので、腸内細菌から見た老化を防ぐ食事についても書かれていて参考になります。
本書では、腸内細菌研究から導きだした、自分の「腸年齢」が分かるチェックリストも掲載されています。また、腸内細菌の観点から、健康を保つために何を食べたらいいか、何を控えるべきかも分かります。カギになるのは「発酵性食物繊維」。詳しくは、本書を手に取って確かめてください。
老化に関するノーベル賞級の研究が分かる一冊
『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』(吉森 保著、日経BP)
日経BOOKSユニット第1編集部次長・中野亜海(以下、中野) 本書は2025年11月に発売されて、1カ月足らずで3刷になりました。著者は、オートファジー(生物の細胞内で、細胞自身がたんぱく質を分解する自食作用)研究の権威で、生命科学者で大阪大学名誉教授の吉森保先生です。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏のお弟子さんとしても知られる方ですね。
中野 はい。その吉森教授が老化研究の最前線に迫るべく、国内トップの9人専門家に話を聞き、一般の人向けに分かりやすくまとめたのが本書です。9人の専門家はノーベル賞に近いといわれる睡眠学者の筑波大学の柳沢正史教授、抗老化効果が期待されるNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)研究の第一人者で、ワシントン大学医学部の今井眞一郎卓越教授など。そうそうたる世界的権威が登場します。いずれも平易に書かれていて、理解しやすいと思います。例えば「慢性炎症」がいろいろな研究に共通する老化の敵であるとか、100歳以上の人を対象にしている研究はどうなっているのかなど、楽しく読みやすい内容です。
すべての先生方に共通する意見は、「過激なことをするな」です。例えばNMNは今、美容の視点からも注目されています。サプリなどで飲む分は問題ないのですが、先ほどの今井先生も、点滴などで濃い濃度のものを体内に入れると、取り返しのつかない健康被害が出ることも考えられるとおっしゃっています。
リスクがある、ではなく、考えられる、という言い方は、それだけ新しいテーマで、まだ“正解”が分かっていないからでしょうか?
中野 その通りです。科学者ならではの信頼に値するスタンスだと言えますし、科学は日々急速な発展をしているので、最新の知識のアップデートが必要です。
アメリカの富裕層は、本気で120~150歳まで生きようとしている⁉
『科学的根拠による体調メンテナンス大全』(ピーター・H・ディアマンディス著、尼丁千津子訳、日経BP)
中野 こちらは私の先輩にあたる沖本健二編集委員が担当された本なのですが、アメリカでは現在、富裕層を中心に「ロンジェビティ」(健康で楽しく長生きすること)がトレンドになっていて、本気で120~150歳まで生きようと考えているといわれます。老化や病気を避けられない運命として受け入れるのではなく、科学とテクノロジーによって管理・介入できる対象として扱い、健康寿命を最大化しようとする動きです。その先導役の一人が本書の著者であり、ハーバード・メディカルスクール卒の起業家で未来学者、加えて革新的な技術開発を促進する非営利団体 「Xプライズ財団」や、シンギュラリティ大学の創設者でもあるピーター・ディアマンディス氏です。
彼は、ロンジェビティを研究テーマではなく、「実行可能な戦略」として考えています。ポイントは早期診断と、人それぞれに異なる体にカスタマイズされた個別最適化医療。彼は10年以内に健康長寿の限界点が飛躍的に伸びると予想していて、その恩恵を受けるための具体的な行動戦略が本書にまとまっています。
先に紹介された『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』とセット読みすると、老化と長寿に関する知識が深まりそうですね。
中野 本書で紹介される最新医療を受けられるのは、富裕層に限られるのが現状ですが、数年経てばコストダウンが図られて、中間層も受けることができるようになるというのが著者の見立てです。彼自身もいろんな最新医療を試していて、約150万円もかかる人間ドック検診などの体験談も読みどころです。
テレビ、ラジオ、動画出演多数で注目の一冊
『すごい股関節 柔らかさ・なめらかさ・動かしやすさをつくる』(中野ジェームズ修一著、日経BP)
日経ビジネス副編集長・竹内靖朗(以下、竹内) 著者の中野ジェームズ修一さんは、日本を代表するフィジカルトレーナーで、オリンピック選手やメダリスト、青山学院大学陸上競技部長距離チーム(駅伝チーム)などトップアスリートから信頼され、一般の人向けに生活習慣病・ロコモ(ロコモティブシンドローム=運動器の障害のために立ったり歩いたりするための身体能力が低下した状態)対策も指導している方です。その中野さんが股関節をテーマにして一冊書きたい、とおっしゃったのが本書を作るきっかけです。
一冊のテーマにしたいほど、股関節は重要な関節ということでしょうか。
竹内 股関節は上半身と下半身をつなぐ関節で、寛骨臼(かんこつきゅう)というボウルに、大腿骨頭という球がはまった球関節です。屈曲と伸展、外転と内転、外旋と内旋という対になった6方向に動き、関与する筋肉は多く、立つ、座る、歩く、走るといったあらゆる日常動作で使います。複雑かつ緻密な構造になっているけれど、非常に機能的なのが特徴で、著者いわく「股関節ほどすごい関節はない」「知れば知るほど、人体の神秘と素晴らしさを感じさせる関節」とのこと。
一方で、「人は股関節から老いていく」とも断言しています。あらゆる日常動作に関わっているため、加齢によってトラブルが起きるリスクが高まるわけです。股関節の寿命(耐久年数)は、70~80年と言われていますが、50代や60代、なかには30代でもトラブルを抱えている方も少なくないようです。そうした悩みを解決するチェック法とエクササイズについて、著者が実際に現場で行っているメソッドを余すことなく紹介しています。エクササイズは著者の実演動画でも解説しています。
股関節の仕組みを理解した上でエクササイズをすると、動きの意味を理解できるため、運動効果が上がりそうです。
竹内 股関節のこわばりや痛みの他、腰痛の解消、柔軟性や体のキレの向上にもつながり、アスリートなら自己ベストの更新も狙えるようになるはずです。
戦略的に休む力が武器になる
『休養ベスト100 科学的根拠に基づく戦略的に休むスキル』(加藤浩晃著、日経BP)
次の推薦本は、現代人にとってもっとも重要で難しいテーマといえる休養に関する一冊です。かつて休養といえば、体を動かさない「静養」を指しましたが、デジタル化が進んだ現代では、ただ休むだけでは疲れが取れないケースが増えています。
竹内 著者の加藤浩晃さんは現役医師で、ベンチャー企業の経営者でもあります。40歳になった時、体力がガクッと落ちた実感があったそうです。そこから生活を見直し、健康維持やアンチエイジングについての論文を読みながら、これは試す価値があると思ったものを実践しました。そして、知り合いの経営者などにも勧めて、これは確かに効果がある、と好評だったものを集めたのが本書です。睡眠や食事の取り方、運動の仕方、入浴法、肩こり・腰痛対策、メンタルケアなど、ジャンル別にまとめられているので、自分の悩みに合った休養法を見つけやすくなっています。
個人的に良いなと思ったのは、「朝食は2種類を使い分ける」です。普段の平日は、バリバリと仕事をするための「パフォーマンス食」で、会食や飲み会があった翌日などは、体力の回復を促す「補給食」を取ります。
女性特有の生理や不調に特化した章があるのも特徴的ですね。
竹内 著者の妻は産婦人科医で、女性の健康についての啓発活動も積極的に行っています。著者も「もはや男女を問わずビジネスパーソンにとって『女性の健康』についての知識は必須」と言っています。男性も、女性と一緒に働くわけですから。鋭くも誠実に、時代を捉えていると思います。
取材・文/茅島奈緒深 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)撮影/鈴木愛子










