在宅勤務だと仕事の効率が上がらない、人間関係でストレスをためない方法は、気分が落ち込んでしまったときはどうする――。 自律神経研究の第一人者で、ベストセラー『 整える習慣 』(日経ビジネス人文庫)の著者でもある小林弘幸順天堂大学教授が行ったオンラインセミナー(丸善ジュンク堂主催/聞き手:産業カウンセラー・イイダテツヤ氏)をもとに、ビジネスパーソンが抱える数々の悩み事の解決法を聞いた。
(前編から読む)集中力を高めるコツは「時間を区切る」こと
「テレワーク疲れで出勤増」という調査結果がありました。在宅での仕事は、オフィスにいるときと比べて、仕事の効率が上がらないという声も聞きます。どうすればいいでしょうか。
小林弘幸氏(以下、小林):私は病院勤務なので、リモートワークはしていませんが、よくこうした相談をいただきます。対応策は、在宅勤務であっても、学校の授業と同じように、45分仕事をしたら15分休むという細かな区切りをつけることです。あらかじめ、何時に休んで、何時に昼食をとって、何時にお茶をしてその後に何をするかというように時間割を作って、オフィスでの勤務以上に計画を立てて仕事をしたほうがいいです。
重要なのはリズムです。なんとなくリモートで仕事を始める。なんとなく続けて仕事をする。すると飽きてしまって、ダラダラすることも多い。これが悪循環です。
リモートワークの長所は、誰にも邪魔されず、自分で仕事の時間を決めて進められることです。だからこそ、自分できちんと仕事の計画を立て、休憩も入れること。休憩時間では、例えばストレッチをやってみようとか、ヨガをやってみようとか、ちょっと体を動かす工夫をするといいでしょう。
自分なりに仕事の時間割を決めたとしても、在宅勤務だと、職場にいるときよりも気が散ってしまうという声も、耳に入ってきます。集中力を高めるにはどうすればいいでしょうか。
小林:時間を区切ることです。そもそも人間の集中力は90分しか続きません。どんなに調子がいいときでも、90分続けて仕事をすれば、効率は落ちていきます。まして在宅で仕事をしていたら、集中できる時間はもっと短くなると考えていいでしょう。
極端な話、10分間集中してこれだけのことをやろうと決める。それができたら、その後は気を緩めてもいい。でも次の時間が来たら、また頑張るというように、時間を短くして集中することです。スポーツでも同じなんですが、サッカーでもラグビーでも、最後の残り10分となると、突然集中して一気に攻めるチームがありますね。
どうしてもっと早くから攻めなかったんだと言いたいくらい、集中力が高まることがあります。これと一緒です。私は、受験生にも言っているのですが、とにかく10分間だけ集中して勉強する。ちょっと休む。また10分間勉強する。これを普段から繰り返しておくと、本番の残り10分となったときに強くなります。
もちろん、集中できるときは1時間続けてやっていいんです。でも人間というのはそれができないときが必ずあります。例えば、低気圧が来ていて曇りや雨がちだとか、こんなときは長時間の集中はほぼ無理です。

小林弘幸(こばやし・ひろゆき)氏
順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。1987年、順天堂大学医学部卒業。1992年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。自律神経研究の第一人者として、数多くのプロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。
人の評価は口にしない
ストレスの9割9分は人間関係というのが、先生の持論ですよね。人間関係でストレスをためないためには、どういう点に気をつけたらいいのでしょうか?
小林:2つあります。1つは苦手な人との付き合い方です。苦手な人には近づかないのが一番なのですが、仕事の関係などでどうしても付き合わなければならないことも多いでしょう。
そういうときには、逃げるのではなく、逆に攻めることです。苦手な人だからこそ、自分からメールを積極的に送ってみる。ビジネスでどうしても会わないといけない人には、どんどんアポイントを入れる。とにかく攻めることです。
苦手な相手からは、ネガティブな反応が返ってきそうですが……。
小林:最初はつらいでしょうが、何度もコンタクトを取っていれば、それが当たり前になり、平気になります。逃げていてはダメです。根本的な解決にならず、引きずってしまい自律神経がやられます。
もう1つは、絶対に人の悪口を言わない、評価を口にしないこと。誰かに「あの人、どう思いますか? いい評判を聞きませんよね」と問われても、「よく分からないですね」と言ってかわすのが一番です。
「負」なことを口に出すと、「負」になります。これは自律神経的にも非常によくない。悪口の輪には加わらないのが賢明です。
私も最初から人の悪口を言わなかったわけではありません。悪口は言わないほうがいいと意識し、続けていくと、本当にその通りだなと思うようになります。すると、そういう場面に出くわしても、おお、来た来た、とかわせるようになるものです。
メンタルが強い人の共通点
どうすればメンタルを強くできますか?
小林:プロのアスリートやオリンピック選手の指導をする際に、必ずお話しすることがあります。それは、スポーツでは「心・技・体」が大事とよくいわれるが、順序が間違っている。正しい順番は「体・技・心」だ、ということです。
メンタルだけ鍛えようと思っても、うまくいきません。体や技術を鍛えていけば、メンタルは後からついてきます。
逆転の発想ですね。
小林:よくこういう質問を親御さん方から受けます。「うちの子は練習のときはピアノを間違えないで弾けるけれども、発表会になると緊張してダメなんです」と。これは明らかに技術不足、練習不足です。
ピアノを1000回弾いて1000回ともミスしないような子どもは、目をつぶっていても弾けるくらいの技術があるわけだから、どんな状態のときでもちゃんと弾けるはずです。
ゴルフで言えば、「1ホール目は緊張してうまく打てない」という人がいますが、それは最初から技術ができていないということで、緊張度合いとは関係ありません。
一方で、メンタルのケアは意味がないということでもありません。人はどういうときに心を乱されるかというと、1つは予想外のことが起きるときです。だから、心を乱さないためには、すべて想定内にしておくことです。
「3行日記」で心が整う
『整える習慣』には108もの項目がありますが、その中で特に重要視している項目を1つ2つ教えてください。
小林:簡単にできることは、朝起きたら1杯の水を飲むこと。これはお勧めです。水を飲むことで腸が反応し、自律神経の動きがよくなり、体にスイッチが入ります。その際、体全体に水分が行き渡るイメージを持ちつつ、意識して水を飲むことが大事です。

それならすぐにできそうです。
小林:もう1つは、日記を書くことです。「今日、一番失敗したこと。今日、一番成功したこと。明日の目標」、たったこれだけの「3行日記」です。
最初の2行は、今日がどういう1日だったのか考える時間をつくってくれます。最後に明日の目標を書けば、明日に向けて何を準備すべきか、何か忘れていることはないかも確認できます。
3年日記とか5年日記もお勧めですね。去年の今日は自分がどういうことに失敗して、どういうことに感動し、どういうことを目標に立てたかが毎回分かります。ストレスの原因もはっきりし、すべては時間が解決してくれるということにも気づきます。これまで日記を書いてこなかった人は、書いたほうがいいと思います。
どうも気分が沈んでしまったり、やる気が出なかったりするときにはどうすればいいでしょうか?
小林:私もしょっちゅうそうなります。毎日元気で、明るくはつらつとしている人はまずいないでしょう。でもそういうときでも無駄に時間を過ごしてはいけないと思います。
とにかく気持ちが乗らないときには、私の場合、動きます。例えば、仕事で気分が乗らないな、というときには、大学病院の近くにある公園を歩いています。歩くことは健康にいいですよね。だからその時間は無駄になっていません。また音楽を聴くなど、とにかく何らかのアクションを起こします。
考えても仕方のないこと、考えても解決しない悩みに関しては、なるべく考えないようにすることがいいでしょう。そして、映画を見るとか、きれいな写真を眺めるとか、何でもいいので、時間を費やしたほうがいいと思います。何もしないでずっと考え込んでも堂々巡りになるだけなので、やめるべきです。

[日経ビジネス電子版 2021年8月12日付の記事を転載]
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