「あなたが本当に大切にしている価値観は何ですか?」――いくつかある価値観のうち、何が自分にとっての核となるのか、「目的」と「手段」を混同していないか、実は本音ではなく建前ではないか。外資系企業の人事部長として活躍した梅森浩一氏の著書『 「絶対」価値観。 人事のプロが教える「自分の軸」の見つけ方と使い方 』(日本経済新聞出版)より、自分にとって重要な価値観と向き合うためのいくつかの「問い」をご紹介する。
価値観同士の不一致
あなたの大切にしている価値観について、「こうだったらいいな」という願望に近いものか、それとも実際に「それを実現するための行動も伴う」ものか、いま一度突き詰めて考えてみましょう。
ちなみに、私の大事なバリューの1つに「健康」がありますが、それにもかかわらずしょっちゅう医者から「体重を減らせ」と注意されています。ところが何一つ運動するわけでなく、節制した食事にするわけではないのは、文字通り「行動が伴っていない」いい例です。
健康第一と口では言い、頭では分かっているのにもかかわらず、どうしても実行が伴わないような価値観を「自分の大切な価値観」だなんて言っていいのか……そう問われたとしたら、あなたならなんと答えるでしょうか?
私の場合は、楽なことに流されるといった「快楽」という価値観が、「健康」よりも優先順位が高いからなのではないのか、と考えていたりします。
他人の目を意識した価値観
そんなどうしようもない私の例はさておき、このように言行不一致なものが、あなたの価値観にもあるとするならば、この機会に「そもそもなぜ不一致なのか」、そしてそれを「なぜ放ったらかしにしているのか」について、この機会に見つめ直してみてはいかがでしょうか。
それこそ「建前と本音」のダブルスタンダードの価値観を、なぜ自分は両方とも後生大事に心の中にしまっておくのか、その意味が一体どこにあるのか、一度突き詰めて考えてみることは大切です。
ちなみに、そんな矛盾だらけの私における「言い訳」はいたってシンプルです。それはただ単に「現実を直視したくない、怖いから」です。
さらに付け加えるとすると、万が一「あなたの大切にしている価値観ってなんですか?」と尋ねられる場面があったら、こちらを答えておこう……と私が勝手に想定してしまうからです。あらかじめ取り繕ってある「見栄えのする答え」を用意しておきたくなる、というわけです。
実はこれには、理由があります。
私は会社の教育担当者として価値観をベースとした研修プログラムを、とりわけ優秀な社員に対して行っていました。
その研修を行うにあたって「トレーナーのためのトレーニング」を受けたことがあるのですが、その際、他の出席者の前で「自分の価値観」を披露する必要がありました。
そしてそれが、人生最初の「他人の目を意識した自分の価値観」との出会いだったのです。
その時の私は、本音ではとにかく早く「出世」がしたかったのです。
それは「手段」であり、その「目的」はより多くのサラリーやボーナスを手にして、「家族」を喜ばせたい、ということにありました。
その選択にウソ偽りはありませんが、他の参加者の前で「私の一番の価値観は『出世』です」とは、正直なところ言い出しづらかった。
実際に他の参加者は価値観についてどのように答えていたかというと、「家族と健康です」とか「愛と誠実です」といったものが多かったように記憶しています。
そうなると、私一人だけ、ギラギラと「出世です」とは、言い出しづらいものでした。結果として、私は当たり障りのない「健康」を、「出世」の代わりに大切にする価値観として披露した、という経緯があるのです。
もちろん「健康」は今も大事な私の価値観の一つですし、それ自体にウソはありません。しかし、その当時の本音の価値観であった「出世」は、いつの間にかどこかに隠れてしまったわけです。
そしてそれは、すべて私の見えと臆病さのせいからなのです。
自分の価値観を直視する勇気をもとう
他人の目や評価というのを、まったく気にしない人はいないでしょう。本当の自分の価値観を直視するのには、やはりある程度の勇気が必要です。
理屈で分かっていても、実際にそのような場に直面すると気恥ずかしい……そのことは、私は前述したような実体験として知っています。
だからこそ、いま一度あなたに次のように問いかけたいのです。
「そのあなたの価値観は、本心からの、本音の価値観ですか?」
「それとも見えや間にあわせの、単なる見せかけの価値観ですか?」
もしあなたの価値観に、後者が紛れ込んでいるとしたら、そんな「偽(ウソ)」の価値観を、これからの人生を通じて後生大事に抱え込んでいても、あまり有益ではないことは言うまでもありません。
まずは目的をはっきりさせる
さて、上で「手段」と「目的」についてのお話をしましたが、これについてもう少しくわしく見ていきましょう。
「この自分の価値観は、『目的』達成のための『手段』としての価値観なのか、それともその逆なのか?」
このシンプルな、でもとても大切な問いかけは、あなた自身もこれから一生を通じて自らに問うことになるはずです。
例えば、「出世」が自分にとってかけがえのない価値観=絶対価値観であるとします。
それについて改めて考えてみたところ、「出世が自分にとって大切なのは、それによって将来にわたって収入が増え、結果として子供たちが希望する教育を受けさせることができ、それこそお金の心配をすることなく夢をかなえてあげることができるから」だと気がつくかもしれません。
「なるほど自分にとっての『出世』とは『家族』を少しでも幸せにするための『手段』としての価値観であって、それ自体が最終目的ではない」
「したがって『出世』という価値観を自分の絶対価値観とみなすのは誤りである」
もちろんこれは単なる例です。自分の頭の中で展開してみたら、なんと「出世」そのものが「目的」であって、そのために「家族」が存在していたケースだってあるかもしれません。
大切なのは「何が自分にとって大切なのか?」を本音・本心からハッキリとさせることにあります。
こうして見つけた絶対価値観は、あなたにとっての「ブレない自分軸」になるはずです。
梅森浩一著/日本経済新聞出版/1760円(税込)