NISA(少額投資非課税制度)は2024年から新制度に生まれ変わります。現行制度ではかなわなかった恒久化に加え、非課税枠も1800万円になります。これを機にNISAを使ってみよう、もっと本腰を入れて投資をしようと考えている人も多いのではないでしょうか。今回の制度改正をお金のプロはどう捉え、使いこなすのでしょうか。金融商品や保険商品の販売に関わらない「正直FP(ファイナンシャル・プランナー)」こと菱田雅生氏と『日経マネー』発行人の大口克人の新刊『 日経マネーと正直FPが考え抜いた! 迷わない新NISA投資術 』から対談を一部抜粋して、お金のプロのNISA活用法を紹介します。

銀行に預けるよりも「自分で投資」の方が安全?

菱田雅生氏(以下、菱田):現行NISAの非課税枠は一般NISAが年120万円、つみたてNISAが年40万円です。それが新NISAでは一般NISAに替わる「成長投資枠」が2倍の240万円に、つみたてNISAに替わる「つみたて投資枠」は3倍の120万円に拡大します。

 新NISAでは2つの枠を併用することが可能になるので、仮に年間投資枠360万円を全額活用すると、現行のつみたてNISAの40万円の9倍にあたる投資枠が確保できます。

大口克人(以下、大口):生涯投資枠は1800万円です。これを使えば普通の人は十分資産形成ができてしまいます。一時話題になった「老後資金2000万円問題」もほぼ解決と言えそうですね。

菱田:運用期間を20年、30年取ることができる人なら、元本1800万円が2倍の3600万円くらいになっても不思議ではありません。リスクと普通に向き合って投資を続けていれば、それなりに増えるでしょうから、最低でも老後資金2000万円はクリアできるのではないかというところです。

「老後資金2000万円はクリアできるのではないか」と語る菱田氏
「老後資金2000万円はクリアできるのではないか」と語る菱田氏
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大口:新NISAは日本に住む18歳以上の人であれば誰でも使うことができます。これだけで資産形成がほぼOKだとすると、ある種、夢の制度と言えます。

菱田:ビジネスパーソンの給料が右肩上がりではない今は、現行NISA、新NISAを利用して「お金にも働いてもらう」ことが必要です。例えば、テスラに投資すれば、イーロン・マスクに働いてもらうことができます。自分で稼ぐより、イーロン・マスクの方が稼いでくれそうですよね(笑)。

大口:お金に働いてもらうためにNISA口座で投資をするなら、初心者だとやはり投資信託(以下、投信)からでしょうね。現行のつみたてNISAも、新NISAのつみたて投資枠も対象商品は投信です。

菱田:投信は国内外のさまざまな金融商品に分散投資をするので、株式の個別銘柄に投資するよりも、値動きの幅が小さくなるように設計されています。お金が増えたり減ったりする度合いが小さいから、いきなり資産が30%、40%目減りしてしまうというようなことは起こりにくいです。投資初心者にとってショッキングな事態になる可能性は低いので、まずは投信から始めるのがお薦めです。

大口:極端に言えば、組み入れ銘柄が1000社の投信の中で2社や3社倒産しても大した影響はない。一方、株を1銘柄買ってそこが倒産したとなると影響が非常に大きいです。ただ、投信は分散投資ができるとはいえ、同じタイプの投信を何本も持っていても分散にならないことは知っておく必要があるでしょうね。

菱田:重要なのはアセット・クラスを分散すること。つまり、国内株式、国内債券、外国株式、外国債券など、値動きの異なる資産にお金を振り分けること。それが本当の分散投資です。各資産をどんな割合で組み合わせるかによって、運用の成果が変わるということは覚えておきたいです。

大口:その点、1本でさまざまな資産に分散投資するバランス型投信は初心者向けで、これ1本持てばOKと『日経マネー』の記事でもよく書いています。金融のプロの中には細部を捉えて「いや、正確には違う」と言う人もいますが、皆さんはマニアックな難しいことを言う人たちの言葉にあまり左右されない方がいいと思うんですよね。

菱田:同感です。素直な方が投資の始めの一歩を踏み出しやすいかもしれません。意外だと思われそうですが、投信は預貯金より安全性が高い面もあります。金融商品の安全性と一口に言ってもいくつか種類があり、元本保証がある預貯金であっても、預け先の銀行などが破綻した場合には預金保険制度で1000万円プラスその利息までしか保護されません。超過分は戻ってこないかもしれないんです。

 一方、投信は証券会社や銀行を通じて購入しますが、資産の管理をしているのは信託銀行です。投信の資産は信託銀行の資産とは分別して管理されているので、購入窓口になる銀行や証券会社、資産を管理する信託銀行のどこが破綻しても、投信購入者の資産は保全されます。

大口:何千万円分の投信を持っていてもそうですね。

菱田:はい。ですから金融機関の破綻リスクという側面からいうと、投信は預貯金より安全性が高いと言えます。

成功の鍵は「何が起きても市場から退場しないこと」

大口:初心者はよく「1円でも減らしたくない」と言いますよね。リスク商品への投資ですからそれは不可能で、そこを早く乗り越える必要があります。

 ただ、株式相場が暴落すれば確かに自分が投資した株や投信も値下がりしますが、それは含み損であって、実際に売らない限り損失は確定しません。この時に「わあ、怖い!」と慌てて売って損失を確定し、マーケットから退場しちゃうのは投資で一番やってはいけないことなんです。

 過去の例(下の図)を見る限り、急落した相場はたいてい4年半〜5年くらいで元に戻っています。そのことを知っていれば、相場が谷底になったところ、最悪の状態で売ってしまう事態は避けられると思います。

1985年以降のダウ工業株30種平均の推移
1985年以降のダウ工業株30種平均の推移
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菱田:そうですね。2000年代以降では2001〜02年ごろのITバブルの崩壊、2008年のリーマン・ショック、直近では2020年のコロナショックなどがありましたが、長くて4〜5年で戻っています。コロナショックに至っては1年もたたずに戻りました。ですので、比較的短期間で起こる暴落は何年か待てば戻るということを覚えておくと、早まった行動が避けられます。

 暴落も含めて大きく株式相場が動いた時に、過去はどうだったのかという歴史的な視点を持ち、「では今回はこうなりそうだな」と想像できるようになると、落ち着いて行動できると思います。

 実際に株価の回復の歴史を振り返ると、過去には非常に長い時間をかけて戻ったケースもあります。1929年の世界恐慌後、2〜3年の間にニューヨークダウ(ダウ工業株30種平均)は10分の1くらいに下がったのですが、その後26〜27年かけて元に戻っています。

大口:それでも結局は元の水準に戻り、それを超えてきた米国株の力強さには注目すべきですね。大恐慌で底を付けた後は、長い目で見てほぼ右肩上がりです。

菱田:一方、日本はバブルのピーク、つまり89年12月29日に付けた日経平均株価の史上最高値である3万8915円をいまだに回復できていません。それでも、2023年に入り日本株は上昇基調にあり、5月には約33年ぶりに終値で3万1000円台を付けました(5月22日時点)。バブルのピーク時から日経平均株価に連動する商品でコツコツ積立投資を継続していたとすると、平均購入単価は1万5000円程度です。積み立てたお金は2倍以上に増えている計算になります。

 この話は「株価が元に戻っていなくても、値動きする市場にずっと居続けることでお金を増やせる」ということが証明されたとも言えます。

大口:これから積立投資で資産形成をしようという人たちにとって、非常に勇気づけられる話です。また、たとえ投資した商品が値下がりして「失敗したかな…」と思っても、その経験こそが生きた勉強ですよね。世の中でこういうことが起きたから自分の資産はこれだけ減って、それがどういう経緯で回復していくかを体験すると、すごくいい肥やしになると思うんです。

菱田:その通り。だから積立投資を始めましょう、始めたら退場せず続けましょうと強調したいですね。その際に、資産形成の基本はつみたてNISA(つみたて投資枠)で行うことをお薦めしています。

大口:資金の8割程度を投信の積み立てにして、残り2割程度は自分が興味のあるものにNISAの成長投資枠で投資するというのがバランスの取れた配分でしょう。

「資金の8割を投資信託の積み立てにして、残り2割は自分の興味のあるものに投資をするのがいい」(大口)
「資金の8割を投資信託の積み立てにして、残り2割は自分の興味のあるものに投資をするのがいい」(大口)
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【6月10日開催】正直FPが教える、女性のためのライフスタイル別「迷わない新NISA投資術」
2024年1月からNISAの制度が大幅に拡充されます。金融商品や保険商品を一切売らない「正直FP」として25年間活動してきた菱田雅生さんによると、NISAを使って投資をした人と、しなかった人との格差が、数千万円単位で広がってしまう可能性さえあるそうです。すでに始めている人も、これから始める人も、自分のライフスタイルに合った投資法や資産の組み合わせ方を、一緒に学びましょう。

■開催日時:2023年6月10日(土)12:10~12:50
■参加:事前登録制(無料)
■会場:渋谷ヒカリエ ヒカリエホール
詳細・お申し込みはこちら

人生100年時代の投資戦略には「柔軟性」を

大口:今の「マーケットから退場しなければいつかは利益チャンスがある」「今日失敗してもいつか取り戻せる」というのは若い世代に限ったことではないですよね。昔だったら定年退職と同時に、投資からも引退するといった雰囲気があったじゃないですか。でも、平均寿命が延びて60歳から先も20年、30年とある。

 ですので、60歳時点で何か投資でつまずいたとしても、判断能力さえしっかりしていれば取り戻す時間はまだある。逆に60歳からNISAで積立投資を始めようとか、応援したい企業の株を買おうというのでも全く遅くないと思います。

菱田:確かに、60歳以降の人生が30年、40年とあるかもしれないことを考えると、60歳の段階で資産のほとんどを預貯金とか債券など、手堅いとされているものにシフトする必要はないでしょう。

 例えば、ターゲット・イヤー・ファンドは株式と債券に分散投資する投信です。最初はリスクを取った積極的な運用から始め、あらかじめ定めた目標年(ターゲット・イヤー)に向け、年齢が高くなるにつれて段階的に株式の比率を低く、債券の比率を高くして値動きのリスクを自動的に低減していく商品です。株式と債券の比率の組み替えは運用会社にお任せなので楽なのですが、60歳で債券中心の運用に切り替えてしまうのは、超高齢社会にはそぐわなくなってきていると思います。

大口:その辺りは昔と方程式が変わってきているというか、考え方を柔軟にした方が資産運用においてもいいと思うんです。

菱田:さすがに株式の個別銘柄に偏り過ぎるのはハイリスクだと思いますが、60代、70代になっても投信を中心に分散投資し、多少の値動きを味わいつつ、日本経済や世界経済の成長の恩恵を受けられる状態を作っておくことはお薦めしたいです。

大口:一方、シニアというとそれまで投資経験がないのに、退職金を金融機関に勧められるまま特定の商品にまとめて投資する人がいます。よく「退職金デビュー」と言われますが、これは失敗する可能性が高いので避けたいですね。

菱田:必死に働いて貯めてきた大事な老後のお金ですから、それだけは厳禁です。

未来を「楽観的に」信じられる人が投資の果実を得る

菱田:お金は目的ではなく手段です。お金を増やすこと自体が目的なのではなく、「将来こんな生活をしたい」という希望を実現することが目的ですから、それに向かって資産形成をする、その手段の1つがNISAです。

 先行きが不透明な時代だから「損をする恐れのある投資をするのは心配」と思うかもしれませんが、いつの時代も先行きは不透明だったはずです。ですが、人間が欲望を原動力として生きている限り、経済は成長し、株価は上がります。それはみんな幸せになりたいからです。特に「経済的に」ですね。

 全人類が「頑張ってどうするんだよ。みんなどうせ死んじゃうんだぜ」とネガティブになったら株価は下がり続けるでしょうが、そうなる可能性はほぼゼロに等しいと思います。

大口:企業も消費者のニーズに応えるために競争力を磨いて成長します。世界全体を見ると相変わらず人口は増え、いろいろな金融ショックはあるものの、長い目で見ると経済は成長する方向にありますね。

菱田:日本は少子高齢化で人口減少の方向になっていますが、副業を始める人が増えています。本業プラス副業により所得が増え、1人当たりのGDPは増える余地があると思います。そのように物事を前向きに捉え、あれこれ考え過ぎない方がいいですね。

大口:長期的な楽観論とでも言いましょうか、長い間には世界経済は発展するということを楽観的に信じられる人が、最終的には投資の果実を得られるのではと思っています。

菱田:実際そうなんですよ。だから大体の資産配分を決めたところで「えいやっ」と始めましょう。10年後、20年後の相場がどうなっているのかはプロでも分かりません。どんな資産配分が正解かは結果論。

 一方、早く始めた方が時間による恩恵を受けられる可能性が高くなるのは確かです。後から軌道修正もできるので、投資しながら考えることにしましょう。

構成/萬 真知子 写真/大沼正彦