上場企業の株主になると、その企業の商品や金券などがもらえる株主優待。個人投資家に人気の制度ですが、その株主優待をめぐる潮流が変化しています。近年、導入企業数が増加しており、2024年は5年ぶりに、導入から廃止を引いた実施企業数が増加しました。株主優待の最新動向について、大和総研の瀬戸佑基さんに聞きました。日経ムック『株主優待ハンドブック2025-2026年版』から抜粋、再構成しています。
「持合株減少」や「個人投資家集め」が理由
株主優待に詳しい大和総研の瀬戸佑基さんは「株主優待を取り巻く環境が変わりつつある」と指摘する。
「2020年以降、株主優待を実施する企業数は減少傾向にありましたが、24年は5年ぶりに導入企業数が廃止企業数を上回り、25年もこの流れが続く気配です。これまで、海外投資家や機関投資家から“株主間の平等性を損なう”との理由で優待廃止の圧力が高まっていましたが、新NISA(少額投資非課税制度)の開始など、個人株主数が増加しやすい環境であることもあって、導入企業数が増えており、差し引きで実施企業数は増加傾向にあります」
さらに瀬戸さんは、導入企業数が増加した背景についてこう説明する。
「1つは『持合株』の縮減です。持合株とは、取引先やグループ会社同士で持ち合っていた株式ですが、有価証券報告書等での開示がさらに求められるようになり、多くの企業が縮減させています。大株主に代わる安定株主をどう確保するかが課題となり、株主優待を通じて個人投資家を引きつけようとする動きが広がっているのです。そこで、個人投資家を引きつける施策として株主優待の活用が進んでいるわけです。また、優待を廃止すると株価が急落するというデータもあります。
個人投資家を確保したい、という思惑と、株主間の平等性との間で難しい判断を迫られている企業も多いようです」
長期保有制度の導入増加、優待のデジタル化
瀬戸さんは最近の株主優待制度の変化についてもこう語る。
「長期保有制度の導入が進んでいる点は見逃せません。現在では、株主優待を実施する企業の約4割が長期保有制度を採用し、3年以上保有しないと優待品をもらえない、などの仕組みにしています。
これは長期間株式を保有する投資家を確保する手段にもなりますし、優待権利取りのためだけに一時的に株を買うような取引の防止にもつながります。個人投資家から見ても“少なくとも3年はこの優待は続く”という安心材料にもなるわけです。
また、優待品を物や金券ではなく、ポイント制などのデジタル化にシフトする企業が出てきたのも近年の特徴です」
デジタル化の一例が、トヨタの『TOYOTA Wallet残高』。実店舗やECサイトで使える優待は投資家も使いやすく、企業側もコスト管理しやすい。優待のあり方も時代に合わせて進化しつつあるのだ。
大和総研 金融調査部 研究員
取材・文/酒井富士子
株主優待実施企業を全て独自調査し、優待内容を網羅して掲載。月ごとにもらえる優待品が分かります。銘柄選びに役立つように、全銘柄に配当利回り、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)を掲載。巻頭特集では、著名個人投資家が注目する優待銘柄などを紹介。
日本経済新聞出版編/日本経済新聞出版/1540円(税込み)





