業績好調な良品計画。「無印良品」を展開する同社には、近年、ファーストリテイリングやニトリホールディングスなど、競合他社からの転職者が増えている。前回(「無印良品のイヤホンが売れる理由 ニトリ出身者が語る商品開発の妙」)に続き、転職者の驚きの声から、良品計画の強みである商品開発の特徴を探る。新刊『 MUJI解剖 ヒットを生み続ける「問いの立て方」 』から抜粋して紹介する。(文中敬称略)

無印良品は、問いがアイデアの源泉となっている。
良品計画元社長の金井政明は、次のように述べている。
「私たちはどういう社会を望むのか、どういう生活を望むのか、その『問い』を投げかけ続けています。私たちのスタンスはずっと『問い』なんです」
「その商品はMUJIらしいのか」という問いも、その一つだ(前回参照)。
そして、無印良品の開発担当者は、他にも向き合うべき問いがある。
「無印良品がその商品をつくる意味は何か」
言い換えれば、「なぜその商品を出すのか」「それは正しいのか」ということだ。ここで言う意味とは、その商品がどのように暮らしを変えるのか、というインパクトを指す。競合他社から転職した担当者は「無印良品は、MD(商品開発担当者)がいいと思った商品を出せるわけではない。『関所』が多い」と苦笑いを浮かべる。
一般的な企業で商品開発担当者が答えるべき最大の問いは、「この商品は本当に売れるのか」。しかし、無印良品には別の「関所」がある。
コンビニとは逆の開発アプローチ
開発担当者を悩ませるのは、顧客のニーズがあっても、つくる意味があるということにならないからだ。「他社の商品で十分で、無印良品が商品化する必要はない」という結論も十分にありうる。
「『なぜ無印良品がやるのか』を問う発想は、コンビニとは逆に近い」と、大手コンビニから転職した担当者は語る。
「逆に近い」というポイントは、市場規模との向き合い方にある。
商品企画の教科書では、市場規模を確認することが必須とされる。コンビニも入念な市場調査で、十分な市場(ニーズ)があることを確かめる。
しかし、良品計画上席執行役員の嶋崎朝子は「無印良品では『この分野が売れているから、うちもつくろう』ということは、まずない」とし、「マーケットイン・プロダクトアウトとはアプローチが異なる」とも強調する。
市場や顧客のニーズや声を基に商品を企画・開発する「マーケットイン」でも、自社が持つ技術や作り手のこだわりを起点とする「プロダクトアウト」でもない。
釣り糸を垂らすべき池を厳選する「弱者の兵法」
無印良品の商品開発は、顧客が気に留めない暮らしの課題を見つけ、解決策を示す「提案型」だ。
例えば24年9月に発売したせいろ「竹材 蒸篭(せいろ)」は、せいろ料理の爆発的な人気に火をつけ、発売後の約半年間で当初計画の4倍を売り上げた。

せいろで作る蒸し料理は、もともと料理好きや健康に関心の高い人たちのあいだでひそかに人気があった。油を使わず、食材の本来の味を生かしながら、ふっくらした食感が楽しめ、栄養を逃がさない利点もある。一方で、道具をそろえるハードルが高かった。
そこで、無印良品は、せいろ本体とフタに加えて、鍋にせいろを載せるための受け台や専用のクッキングシートなど、必要な道具がワンストップでそろうように売り場を展開した。
一般的な中華用せいろでは茶わん蒸しがつくれないという声に応え、底を深くするなど細かな改良も重ねた。
せいろという伝統的な道具の魅力を再発見し、現代の生活になじむアイテムとして提案した。その結果、蒸し料理を楽しむ人のすそ野が広がり、大ヒットにつながった。
良品計画の金井は、こう説明する。

「戦略は、『戦を略する』。戦いをどうやってしないようにしましょうか、ということですから、まず、自分たちが役に立てるのはどこの領域かを考えます。全部のマーケットを取る必要はないし、自分はこの池で釣り糸を垂らしますと言えばいい。
でも、多くの企業はものすごく大きい池を探して釣りたくなる。そうすると、ライバルもたくさんいて価格競争に向かってしまう。
ですから、これからの企業は、大きくはなくても、できるだけ自分の池を見つけたほうがサステナブルだと思います」
無印良品は食品や衣料品、雑貨といった領域で、自分より大きな競合と対峙してきた。
そこで磨いてきたのが「弱者の兵法」とも言える戦い方だ。どの土俵で戦うべきなのかじっくりと見定めることも、その一つと言える。
「百戦百勝は、善の善なる者にあらず」。孫子の言葉の通り、競合に真っ向勝負して勝ち続けることよりも、戦いを回避するしたたかさが求められる。
[日経ビジネス電子版 2026年9月17日付の記事を転載]
梅國 典(著)/日経BP/2200円(税込み)
