日進月歩でその可能性を広げるAI(人工知能)に、めまぐるしく変化する世界情勢――。時間をかけて開発した製品やサービスも、すぐさまレッドオーシャンという大波に襲われるようになりました。企業の経営者やリーダーだけでなく、ビジネスパーソンそれぞれに、日々の変革が求められる時代です。いかにして時代の波にあらがい、勝ち残るか。日経ビジネス発の書籍の編集を手掛ける「日経ビジネスクロスメディア」の白壁達久編集長がお薦めする「組織の変革を学ぶ7冊」を紹介します。列島を猛暑が襲う今、エアコンがしっかりと効いた涼しい部屋で、読書の夏を過ごされてはいかがでしょうか。
歴史ある大企業に学ぶ3冊
まずは歴史ある大企業の変革に学べる3冊を紹介します。1冊目は8月12日に出たばかりの新刊『日清食品をぶっつぶせ 自ら創造し、自ら破壊せよ』(安藤徳隆、竹居智久・著)です。
日清食品の安藤徳隆社長の初著書です。祖父は創業者である安藤百福氏。チキンラーメンを発明し、即席麺の食文化を創造しました。父は、グローバルカンパニーへと進化させた安藤宏基氏(日清食品ホールディングス社長・CEO)。3代目の徳隆氏は「自ら創造し、自ら破壊する」ことを自身に課し、「カレーメシ」や「完全メシ」ブランドを立ち上げ、食品企業としての領域拡大への挑戦を続けています。経営者としての覚悟と勝利への執念はどのようなものなのかを語ります。
2冊目は、『NTTの叛乱 「宿命を背負う巨人」は生まれ変わるか』(堀越功・著)です。バブル経済にわいた1980年代末には、時価総額で世界トップだったNTT。今や時価総額は米国のマイクロソフトやアップル、アマゾン・ドット・コムなどの海外テック企業と大きく水をあけられ、優秀な技術者が海外テック企業に引き抜かれるなど、後塵(こうじん)を拝しています。そんなNTTが、再び世界と戦うために生まれ変わろうとしています。
上場子会社だったNTTドコモやNTTデータグループを完全子会社化するなど大なたを振るう再編を実施。守りの変革だけでなく、同時に攻めの姿勢も見せています。光技術を使った次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」で世界覇権を狙うなど、攻守で矢継ぎ早に変革の一手を打ち出します。従業員34万人の巨大艦隊をいかに変えるか。通信業界で取材歴20年以上の筆者が、その転換点に迫る1冊です。
続いて紹介するのは『日本製鉄の転生 巨艦はいかに甦ったか』(上阪欣史・著)です。JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)といわれることもある日本の伝統的大企業で、変われない企業を象徴する1社だった日本製鉄が、世界に向けて大きな変革を打ち出しました。米USスチールを2兆円で買収するとの発表は、米国大統領をも動かす大きなうねりを生み出しました。
その大胆な決断の背景には、血のにじむような構造改革がありました。高炉など、ほかの産業に比べて投資額が大きい設備を持つ製鉄業。経営統合を実施しても、高炉の休止は地域経済に与える影響が大きく、決断は難しい。一方、最大の取引先である自動車業界との価格交渉ではなかなか値上げを認めてもらえない。利益が減って投資ができない悪循環を抜け出すべく、日本製鉄は再起をかけて立ち上がりました。
大手自動車会社との価格交渉や高炉の休止、そして積極的な投資と海外戦略の強化。日経ビジネスで日本製鉄の特集をまとめた著者がさらなる取材を繰り返し、「転生」を描くノンフィクションとして書籍化しました。
進化を続ける組織に学ぶ2冊
続いて紹介する2冊は、「常勝軍団」として進化を続ける組織に学べる書籍です。
ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)。36期連続で増収増益を達成、株価は25年8月19日に上場来高値を更新して時価総額は3兆4000億円を超えました。そんな快進撃を続けるドンキの裏側に迫ったのが『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』(酒井大輔・著)です。
小売業界の中では「異端児」のような存在のドンキ。ただ、その快進撃を支えるのは「ド真面目」な経営でした。徹底して現場に権限を委譲し、変幻自在な店づくりで顧客を飽きさせません。あえてマスを狙わない「みんなの75点より、誰かの120点」のクセ強めな自社開発の商品は、SNS全盛のZ世代に刺さるアイテムばかり。創業者の安田隆夫氏だけでなく、現役トップのインタビューも交えてドンキの強みを、日経ビジネスの酒井大輔記者が解き明かす1冊です。
日経ビジネスが出す書籍としては異色の存在でもあるのが『ホークスメソッド 勝ち続けるチームのつくり方』(日比野恭三・著)です。
2024年のプロ野球、パシフィック・リーグを圧倒的な強さで制したのは福岡ソフトバンクホークスでした。過去10シーズンで日本シリーズを5回制し、10年間の勝率でも12球団トップ。今季もスタート奪取には失敗して一時は最下位にもなりましたが、その後の盛り返しで今は北海道日本ハムファイターズと首位を競い合っています。
なぜホークスは強いのか。そこにあるのは「4軍制」「コーディネーター制」といった他球団にはない独自の手法で選手を育てる仕組みです。さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)によるデータ分析など、最新の技術を駆使して「勝ち」につなげます。
ただ、チームが常に順風満帆だったかというと、そうではありません。3連覇後の低迷など、挫折を経験しながら変革を続けてきました。そこで培われた「ホークスメソッド」とはどのようなものなのかを、プロ野球などスポーツに関する取材を長く続けた筆者が解き明かします。ビジネスの世界よりも、よりはっきりと勝敗という結果で表れるのがプロスポーツチームの宿命。チームが勝つための変革を、常勝軍団から学んでみてはいかがでしょうか。
中小企業から変革を学ぶ2冊
ヒト・モノ・カネ。企業や組織の成長にとって不可欠な要素でありながら、圧倒的に不足しているのが中堅・中小企業です。限られたリソースの中でどう戦い、勝ち残っていくのか。その変革の方程式は、企業や組織の大小にかかわらず参考になるでしょう。
日経ビジネスの兄弟誌で、中堅・中小企業のオーナー経営者向けの月刊誌「日経トップリーダー」がお届けする2冊は、そんなノウハウが詰まった書籍です。
『後継ぎ経営者のための70点経営 地味な積み重ねが、人と利益を引き寄せる』(神農将史・著)は、「100点満点ではないけれど十分な、70点の経営」を紹介し、解説します。
ダイナミックな変革は多大なリソースを活用しなければならず、かつ副反応も多く発生します。一発逆転の満塁ホームランではなく、地味ながらコツコツ続けることで成果が出る変革の極意を、生産性改善(カイゼン)の専門家でもある筆者が企業事例を基にやさしく解説します。
最後に紹介する1冊は『負債1400億円を背負った男の逆転人生 鹿沼カントリー倶楽部再生物語』(福島範治・著)です。ゴルフ漫画の金字塔として知られる『風の大地』の舞台にもなった名門「鹿沼カントリー倶楽部」。運営企業だった鹿沼グループは、バブル期の投資や経営拡大が裏目に出て、1400億円の負債を抱えて経営破綻します。その再生を手がけることになったのは、非嫡出子の元銀行マンでした。
古参社員との対立や、家族としての葛藤。若き後継者が直面して乗り越えた胸熱の企業ドラマです。どれだけ厳しい状況にあっても、変革はできる。それを再認識させてくれる実話を、ご堪能ください。
日経ビジネスと日経トップリーダーが贈る変革の7冊。何かを変えたいと悩む読者の皆さん、お薦めした書籍を参考に、この夏を「変革の起点」にしてはいかがでしょうか。

[日経ビジネス電子版 2025年8月13日付の記事を転載・一部再編集]