不安な時代でも、人生は続く。しかし、ひるむ必要はない。進みたい未来を自分の言葉にしたとき、必ず新たな一歩を踏み出す勇気が生まれるからだ。そして、どう生きるかは自分で決めていいのだ! シリーズ累計35万部超、『 「言葉にできる」は武器になる。 』の著者・梅田悟司氏の新刊『 きみの人生に作戦名を。 』から一部を抜粋。再編集して解説する。
やってきたことは、バラバラでいい
やりたいことが見つからない。
新しいことをはじめようとしても、最初の一歩が踏み出せない。
何かはじめても、長続きしない。長続きしていることもない。
このような悩みを抱えている人は多いのではないだろうか。
就職活動などで自己分析に取り組むと、自分のダメさを突きつけられ、自己嫌悪へと陥ってしまう。普段、簡単な自己紹介をするだけなのに言葉に詰まってしまう。悪気なく「あなたの夢は何ですか」「得意なことを教えてください」と聞かれたりすると、自分がいかに平凡な人間かを思い知らされてしまう。
一方で、周囲からは「好きなことをやればいい」「難しいことを考えずにやってみよう」「やってみれば意外とうまくいく」といった前向き圧力の強い言葉が並ぶ。そうかもしれないのだが、それで解決するなら誰も苦労はしない。
かくいう私も、長いトンネルのようなモヤモヤの中を生きてきたひとりである。人生を振り返ってみると、自分でもあきれるほどにやっていることに一貫性がなく、何も長続きしなかった。
しかしいま、不思議なことに私は、一貫した選択と生き方をしていると胸を張って言えるようになった。より正確に言うならば、一貫性のなさに嫌気を感じていた時期を超え、うっすらと感じていた自分の中にある軸に気づき、いままでの道のりを納得感をもって受け入れられている状態なのである。
なぜこのような気づきを得られたのか。自分の中に生まれる内なる言葉と向き合い続けた結果、大発見をしたのだ。「やってきたことの一貫性」と「信念の一貫性」は別物である。やってきたことはバラバラに見えても、それぞれは私の意志や興味に従って行動を起こしてきた。私は私のことを、やってきたことではなく、信念の一貫性で評価することにしよう。
この気づきは私を救ってくれたと言っても過言ではない。両者を区別して捉えることで、何も続かない一貫性のなさという呪縛から解放された。より深い自己理解の重要性を感じることで、出来事や行動に目を奪われることなく、その前後にある「きっかけ」と「学び」を含めた一連の経験を振り返るようになった。
意識的に振り返りの時間をとることで、何かを前向きに諦め、新しいことをはじめる勇気を手に入れた。そして、自分が何に貢献しながら生きていくかを、明確に描けるようになった。大げさに聞こえるかもしれないが、自分の人生のオーナーシップを取り戻すことができるようになった瞬間である。
自分にしか気づけない「見えない一貫性」
私は、この発見は、モヤモヤの中を懸命に生きようとするすべての人にとって有効だと考える。出来事や行動だけでは説明できない自分軸の存在を知り、言葉という形を与え、実際に触れてみる。この体験は、不安の中に生きる人にこそ、新しい歩みを進めるうえで重要だと思うようになったのだ。
自分の中に眠る見えない一貫性を見いだすためには「9マス思考法」と「価値の3階層」という枠組みを用いる。手順をごく単純化すると、(1)過去と現在を振り返り、未来に思いを馳(は)せる、(2)情報を再整理し自分軸を見いだす、(3)作戦名として結晶化させる――という流れになる。
9マス思考法とは、(1)経験を「きっかけ・行動・学び」の1セットとして捉える、(2)過去と現在を振り返り、未来に思いを馳せる、(3)「きっかけ・行動・学び」×「過去・現在・未来」の9マスから大きなベクトルとしての自分軸を見いだす――方法だ。
過去と現在の振り返りと未来へ思いを馳せる作業として、横軸(時間軸)に「過去」「現在」「未来」、縦軸(経験軸)に「きっかけ」「行動」「学び」と設定する。それぞれのマスに、頭に浮かんだ言葉(内なる言葉)を書き出していく。そして、時間軸を超えた学びときっかけによるらせん状のつながりを見いだすことで、見えない一貫性としての自分軸を可視化する。
次に、そこで得られた要素を、「できること」「誰かの役に立てること」「社会に貢献できること」の価値の3階層を意識しながら再整理する。これは、ブランドにおいて、その商品やサービスができることを「機能的ベネフィット」、誰かの役に立てることを「情緒的ベネフィット」と定義したうえで、その上位概念として社会に貢献できることを「社会的ベネフィット」とすることを提唱した経営学者デービッド・アーカー氏の理論に基づく。価値の3階層はこの概念を念頭に、情報を整理しやすいように工夫を加えたものである。
こうして最後に、再整理された要素を昇華させ、浮かび上がってきた自らの行動指針とも言える単語を中心に自分軸に名前をつけるのだ。それが「作戦名」である。
自分の人生に作戦名をつける
なぜ、人は名前をつけるのだろうか。「名前がないと不便だから」という理由もあるかもしれないが、それだけではない。
例えば、お土産店に並ぶ無数のイルカのぬいぐるみの中から、表情や触り心地、自分との相性を探り「この子だ!」と決め、名前をつける。そんな経験はないだろうか。名前をつけた瞬間から、自分の胸に抱きしめたイルカと、その他のイルカは、まったく違う存在となる。
名づけには、文字通り「うちの子」になるプロセスが含まれているのだ。その瞬間を境にして、その子の名前を呼ぶたびに愛着が増し、関係を育んでいくことになる。
つまり、名前をつけることは、その対象と共に生きる約束をすることと同意であり、自分の人生に作戦名をつけることは、自らの人生を自分の手に取り戻し、愛着を持ち、共に生きる約束をすることでもあるのだ。だからこそ、人生を自分に取り戻すために、自分の活動に名前をつけることに意味があると考える。
このプロセスにおいて重要な役割を果たすのが「言葉」である。なぜなら言葉とは、その人の認識そのものだからである。何となく考えていることを言語化することで認識に至り、認識によって行動が先鋭化される。つまり、思考と行動は言葉で接続されるのだ。
何もやってこなかった人生などない。明確ではないものの、自分の中に意志や思想があり、その場その場で考えながら様々な行動を起こしてきたはずである。しかし、結果的にバラバラなことと捉えられてしまい、誤解されてしまう。あなたを形づくるものとして見える範囲が行動しかないので、それは仕方がない。
しかし、この記事を読んでくれたあなたは違うはずだ。
「9マス思考法」に取り組み、「価値の3階層」で考えた結果、自分はどんな気持ちで行動を起こしたのか、そこから何を学んできたのかを知っている。そして、得た学びから、新しい一歩を踏み出すきっかけと勇気が生まれたことを知っているはずである。まだ自分でもわかっていないことも多いかもしれないが、あなたの中に「何か」が積み重ねられていることは紛れもない事実である。
あなたの中に蓄積されている言葉にならない思いを、言葉にしてみる。自分の中にある大切なものに言葉を通じて気づき、自分らしく生きるきっかけを、作戦名の検討を通して、自らの力で生み出す。人生の作戦名が生まれたとき、少しでも未来を明るく捉えられるようになるはずだ。
不安の時代でも、人生は続く。どう生きるかは自分で決めていいのだ! あなたの中に眠る言葉を紡ぎ“作戦名”に昇華させたとき、人生の新しいステージが始まる。超ロングセラー『「言葉にできる」は武器になる。』の著者が放つ、今を懸命に生きる人へのメッセージ!
梅田悟司著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)