日本経済新聞社は9月10日に「ビジネスパーソンのための『迷わない株式投資のきほん』」を開催した。優待株・高配当株投資のきほん(日経文庫)著者で日経マネー編集委員の大口克人、『成長株・バリュー株投資のきほん』(日経文庫)著者で副編集長の臼田正彦が株式運用のイロハを解説する。
2つの投資方法が「最強」である理由とは
日経マネー編集委員 大口克人(以下、大口) みなさん、今日はNIKKEI SHOPリニューアル記念イベントにお越しいただきましてありがとうございます。
日経マネー副編集長 臼田正彦(以下、臼田) ありがとうございます。よろしくお願いします。
大口 だいたいこういうセミナーは自己紹介から始まるんですが、もう何百回も自分で話しているので、飽きていまして(笑)。今日は「他己紹介」で、臼田君のことを紹介します。彼は現在、日経BPになった日経ホーム出版社に入社したのですが、「日経マネーをやりたいです」と言って入ってきた非常に珍しい人です。私は新入社員で、日経マネーを志望して入って来た人は君しか知らないんだけど、他に誰かいたのかな?
臼田 同期とか前後の代にはいなかったと思います。
大口 臼田くんは大変に説明のうまい人で、彼が経験の浅い部下にいろいろと教えているのを聞いていると、ロジカルでものすごく分かりやすいんです。今回のこの本も、私は「こういうことがあります」とファクトをたくさん書いているのですが、彼はロジカルに「こう考えると、こうなるはずだ」と述べている。そこが非常に明晰(めいせき)なので、私も部下ながらちょっと負けた気がしています。
それから、文章を書くのもうまい。私が編集長だった頃に「FXの話を小説で書いてみないか」と言ったら、普通はFXの仕組みを説明するのも大変だと思うのですが、彼はきれいにまとめてくれて、しかも分かりやすかった。今は日経マネーの副編集長として頑張っています。
臼田 では、私から大口さんの紹介を。私が新卒として入ってきたときから、ベテランとして活躍していたのが大口さんでした。日経マネーでキャリアを始めたのが、バブル崩壊直後ぐらいですか。
大口 1991年からだね。
臼田 バブルの真っただ中で青春を過ごした後、今の外見からもうかがい知れると思いますが、アパレル会社に就職。その後、転職して日経マネーに来たという、大口さんもある意味、珍しいルートを通ってきた人です。文章はもちろん、トークに関しても並はずれた才能をお持ちです。
大口 名前が「大口」だから、放っておいてもしゃべっちゃってね(笑)。
臼田 もう、本当に場のムードをつくってくれる方です。
今回、大口さんが出版されたのは『優待株・高配当株投資のきほん』。優待株でいえば、「株主優待で生活している」という元プロ棋士の桐谷広人さんがブレイクするか、しないかという頃から担当記者としてずっと取材していますので、優待株に関しては誰よりも詳しい人の1人ではないかと思います。
大口 桐谷さんの部屋に取材に行くと、もう優待品が玄関先から山のように積まれていて、足の踏み場がないほどなんですよ。
では、ここから本題に入ります。今回、私が書いた『 優待株 高配当株 投資のきほん 』(日本経済新聞出版)ですが、「そもそも優待株、高配当株とは何ぞや」ということなんですね。投資に詳しい人は「そんなもん知っとるわい」と思われるかもしれませんが、投資初心者の方もいらっしゃるかもしれないので、改めて「基本のキ」をお話しします。
まず、「優待株投資」は株主優待のついた株を買い、優待品を定期的に受け取りながら、長く持ち続けるのが基本の投資法です。「高配当株投資」は株の配当を主な狙いにします。ときには「株が値上がりしたので売る」こともありますが、主に配当を受け取るほうを主眼にする投資方法です。
私はこの2つは非常にいい投資方法だと思っています。例えば、優待株投資はどんな優待品なのか、それに優待利回りという手がかりになる数字がありますから、それが高い株を買うと、お得です。高配当株投資の配当利回りも簡単な計算で出すことができます。もちろん「予想」配当利回りなので、もくろみがはずれることがある。例えば株価が下がると計算上、配当利回りが高くなります。配当利回りが妙に高い株には業績悪化リスクもあるわけです。それでも投資としては始めやすく、どちらも「優待がほしい」「高配当がほしい」というモチベーションがあるから、自然と長期保有ができるんですね。
日々、忙しく働いていると株価が上がった、下がった、と日中の相場を逐一見ていられませんよね。それに優良企業を応援するんだったら、株を買ってすぐに売ってしまうのではなく、長期投資するのが定石。その点からもこの2つの投資方法はビジネスパーソンに打ってつけだと思います。
年間配当だけで2400万円を手にする投資の達人も
大口 特に配当については、東京証券取引所からの異例の要請もあって、株主還元に積極的になる企業がめちゃくちゃ増えているんですよ。もう、配当を受け取るだけで立派な収入になるほど。例えば、タレントの杉原杏里さんは年間で334万円受け取っているそうです。元消防士で高配当株投資家のかんちさんは株を8億円ほど持っていて、年間配当額は何と2400万円! これはもうびっくりですよ。しかも、かんちさんの場合、「自分は何にもしていないのに、東証要請のおかげで前年の2000万円から400万円も配当が増えました」と。「大口さんみたいなサラリーマンの場合、給料の手取りを50万円上げるだけでも大変でしょう。でも、高配当株は持っているだけで、自動的にそうなるんですよ」とも言われました。
それから、もう1つメリットでいうと、BtoCの企業には日々、生活をしている中で普通に出合えますよね。一方、BtoBの企業はそもそも出合うのが難しいのですが、ビジネスパーソンとしては少しでも多くの企業を知っておくべきですよね。そうしたときに企業の事業内容はよく知らなかったとしても、優待銘柄や高配当株銘柄として名前を知っていれば、会話の糸口にもなりますし、少し身近に感じられたりしますよね。
臼田 本当にこの仕事をしていると、一番のメリットが「同窓会でどの業種の人に会っても話が通じること」ですね。だいたいどの企業も一度は記事を書いたり、同業他社を知っていたりします。その企業が上場していなくても「あの会社とライバル?」などと言えるので、「話題の広い人」扱いされています。
優待株投資と高配当株投資に共通する6つのメリット
大口 実際に高配当株の「配当利回りランキング」などを見ても、よく知られた企業名は意外に少ないと思います。ただビジネスパーソンにとっては「その会社を全く知りません」と言うよりも、そういうのを見ておいて「高配当銘柄として有名な会社ですよね」と言えたほうがアドバンテージになるはずです。
それから、優待株投資と高配当株投資には、ほかにも大きく6つのメリットがあります。1つ目はどちらも銘柄選びが容易。2つ目が物価の値上がりが激しい今、優待品が家計の助けになる。3つ目がどちらも企業に不祥事があっても株価が下がりにくい。4つ目が、そのためどちらも自然と長期保有できる。5つ目が優待株投資は100株程度の小口の投資家にとって有利な設計になっている。6つ目が少額でも始められて、結果的に分散投資になるということです。
特に今やエンゲル係数が42年ぶりの水準になっていますから、2つ目の「優待品で生活防衛」という点は強く言いたいですね。桐谷さんやベテラン優待投資家には「お米を買ったことがない」人がいるそうです。こういう人は米の値段が2倍になってもあまり困らないでしょう。一方、投資家の中には「優待投資アンチ」もいます。「物をもらうために投資するなんて株式投資の原則に反する」というのですが、私は株式投資の入り口として、優待品が来るというのはまったく問題ないと思います。
高配当株も例えば配当利回り5%の株を買って、10年持っていたら、それだけで50%です。自分が出したお金の半分が返ってくるということは、もし株価が半値になっても、実際には損しないということなんですよね。この5%の株を20年持っていたら100%。そうなると元本を回収した「恩株」ですから、そこから先は株価が上がろうが下がろうが関係なく、懐が痛まずに配当だけが入り続ける。しかも、それを新NISAの口座で持っていたら、税金もかかりません。「こんないいことはない」と思う人は容易に株を手放さない、だから値下がりもしづらいんです。
結局、「株式投資での失敗」は何かというと、企業に不祥事や悪材料が出たときに、焦って底値で売ってしまうこと。でも、優待株や高配当株を持っている投資家は「もう2カ月待てばお米がもらえる」「やっぱり配当がほしいな」と、売らずに待てるんです。そうすると『敗者のゲーム』の著者であるチャールズ・エリスが言うところの「稲妻が輝く瞬間」(相場が大きく上がる何年かに1度のタイミング)に居合わせることができます。
では、問題はいつその株を買うか。例えば、買う日が1日ずれただけで、優待品をもらえる権利が半年後になることもあります。優待や配当の権利が取れる「権利付き最終日」に向けて株価が上がってきますから、そこで買うと高値づかみになることもある。それから最近、注意が必要なのは、株主を集めるために目玉が飛び出そうな高額優待を発表したのに、一度も実施せずに終わった例もありました。
臼田 あれはびっくりしましたね。
大口 1度だけものすごい優待を実施して、次の期には優待内容が半減したとかね。だから、優待利回りの数字だけを見て、高い株を買うと失敗することもありますし、投資家の中には「優待利回りが2桁になると危険」と言う人もいます。高配当株も、利回りが5%の株を買うよりも、今は3.5%ぐらいだとしても、この先、4%、5%になる配当余力のある銘柄を探すほうが賢明かもしれません。
「そうは言っても銘柄選びは難しい」という人は、配当性向やDOE (株主資本配当率)といった指標を参考にしたり、連続増配銘柄(毎年増配を続けている銘柄)、累進配当銘柄(増配するか、悪くとも前年の配当を維持している銘柄)の中から選ぶ手があります。あるいは、累進配当銘柄の株価指数に連動した投資信託を1本買ってみるのもいいでしょう。最近はDOEで大枠を示し、さらに累進配当を宣言する企業もあり、それは「配当をしっかり出していける」という自信の表れだと思います。
本書では桐谷さんをはじめ4人の有名投資家の「マイ投資術」についても聞いています。その人たちがどんな投資をして、どんな失敗をしてきたのかも赤裸々に書かれていますので、そこだけ読んでも面白いと思います。ぜひ、投資の参考にしてもらえればと思います。
取材・文/三浦香代子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子
株価上下も、物価高騰も、もう怖くない。もらえる喜びと、宝探しの楽しさ。まさに、最強の投資術! 金融専門記者が、優待株投資と高配当株投資についてやさしく解説。ベテラン投資家のマイ投資術も収録。
大口克人著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)
インデックスもいいけれど、株式投資の醍醐味はやっぱり個別株選びにあり! リスクをきちんと理解して、大きな利益を手に入れよう。「成長株」「割安株」の本質を理解することで、銘柄選びの王道的な知識がひととおり身につきます。
臼田正彦著/日経文庫/1100円(税込み)




