設計業務を中心にトヨタ流の改善や問題解決の方法を指導するA&Mコンサルト代表取締役社長の中山聡史氏が、書籍『DRBFM』(日経BP)を著した。品質トラブルの未然防止手法であるDRBFM(故障モードに基づく設計審査)の普及の現状や習得のポイント、得られる効果について聞いた。(聞き手は、近岡 裕=日経クロステック)

DRBFM(Design Review Based on Failure Mode:故障モードに基づく設計審査)を導入している企業は増えていますか。

中山氏:増えています。まず、トヨタグループ内ではもちろん、トヨタグループと取引する1次部品メーカー(ティア1)および2次部品メーカー(ティア2)の多くは既に実践しています。そして、現在は3次部品メーカー(ティア3)にも普及しつつある状況です。

 厳密にはDRBFMを実施していなくても取引自体は可能です。ただし、トヨタ自動車と取引する際には、当然ながら部品の品質保証の根拠を厳しく問われます。すると結局、「DRBFMを実施して品質トラブルを未然に防ぐ活動を展開している」と説明して納得を得る以外にありません。そのため、自動車業界では、しばしば「トヨタグループと取引する上でDRBFMの実践は必須」と言われます。

 自動車業界以外にもDRBFMは広がっています。最近目立つのは、半導体装置メーカーです。半導体装置メーカーは顧客から極めて高い品質を求められています。ところが、半導体は性能の向上が著しい上に、進化がものすごく速い。しかも、新型コロナウイルス禍以降、半導体装置メーカーは多忙を極めています。そのため、従来の品質トラブル未然防止手法であるFMEA(故障モード影響解析)では膨大な負担がかかり、耐えきれなくなっているのです。

 幸い、半導体装置は流用設計の割合が多いという特徴があります。基本設計は変えずに、仕様や精度がどんどん上がっていく。こうした開発設計には、高品質の確保をもっと効率的に進められるDRBFMが適しています。そのことに気付いた半導体装置メーカーがDRBFMの導入に積極的になっているというわけです。

中山 聡史(なかやま・さとし) A&Mコンサルト 代表取締役社長 経営コンサルタント
中山 聡史(なかやま・さとし) A&Mコンサルト 代表取締役社長 経営コンサルタント
設計業務を中心にトヨタ流の改善や問題解決の考え方や方法を指導するコンサルタント。現場視点、かつ技術者の目線に立った具体的で分かりやすい指導に定評があり、コンサルティングの実績も豊富。トヨタ自動車では、クルマの開発設計の“心臓部”といわれるエンジンを担当。その設計から開発、品質管理、環境対応など幅広い業務に従事した。トヨタブランドでは「カローラ」から「クラウン」などを、レクサスブランドでは「IS」「RX」などヒット車種のエンジンシステムを設計し、海外でのエンジン走行テストなどにも同行経験がある。その後、A&Mコンサルトのコンサルタントに転身し、製造業を中心に設計改善やトヨタ流問題解決の考え方のコンサルティング業務を展開。「ものづくりのQCDの80%は設計で決まる!」の理念の下、自動車メーカーでの設計や開発、製造、品質保証などの経験を生かし、多くのものづくり企業にモジュラー設計導入や設計業務改革、品質・製造改善、生産管理システムの構築などを支援している。日経クロステックにて人気コラム「トヨタ流 勝ち残る設計」を執筆。著書に『設計マネジメントの教科書』『DRBFM』(共に日経BP)などがある。(写真:山本 尚侍)
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逆に、DRBFMを実施していない企業の開発現場はどうなっているのでしょうか。

 前回で既に述べた通り、DRBFMではまず、「変更点・変化点管理」を行う仕組みになっています。ということは逆に、DRBFMを実施していない企業は変更点や変化点をきちんと管理できていない可能性があります。

 実際、担当する設計者が1人で考えたり、開発設計部門内だけで確認したりするため、変更点や変化点に抜けや漏れがあり、品質トラブルが多発している企業が少なくありません。

 そもそもFMEAすら実施していない企業もあります。故障モード(設計上の心配点あるいはリスク)を洗い出さずに図面を作成して製品を造っているのです。当然、品質トラブルの頻発に苦しんでいます。

 こうした企業の中には、製造部門の現場力によって客先で品質トラブルにならないようにカバーしているケースが少なくありません。しかし、その現場力を支えるベテラン社員が退職したり、カバーし切れずに抜けや漏れが発生したりしたら、大きな問題に発展することは火を見るよりも明らかです。製造現場に図面を渡す前に気付いた場合でも、開発設計のやり直しの手間や時間がかかります。

ひたすらワークシートを書き直す

中山さん自身は、トヨタ自動車におけるキャリアの中で、どのようにしてDRBFMを習得したのでしょうか。

 座学を受けた覚えはなく、業務の中で体得していく形でした。トヨタ自動車では開発設計の中に仕組みとしてDRBFMが組み込まれているので、設計者は必然的にDRBFMに取り組むこととなります。

 私がDRBFMを知ったのは設計者となって2年目です。上司からワークシートを渡された際に、最初に頭に浮かんだのは疑問符でした。何を書いたらよいのか全く分からなかったのです。

 特に悩んだのは、ワークシートの「機能」の欄。ここには対象部品の機能について書き込む必要があるのですが、「機能とは何か」と聞かれても、分かりません。「性能」とは何が違うのかと頭を悩ませました。トヨタ自動車では機能と性能がそれぞれ定義されています。最初はそこから上司に指導を仰いだのを覚えています。

 ただし、最初から正解を与えられることはありませんでした。

最初は全項目に赤字指導

初めて取り組むのですから、知らない点があるのは仕方がないと思います。それなのに教えてもらえないのですか。

 トヨタ自動車で学んだ中で、最も良かったと私が感じているのは、ロジカルシンキング(論理的思考法)に基づくトヨタ式問題解決手法(Toyota Business Practice)です。この時も、ロジカルシンキングで「機能とは何か」を考えさせられました。

 そして、このロジカルシンキングを身に付ける上で重要なのは、自分の頭で考えることなのです。自力で論理的に考えることを繰り返したことで、論理的思考能力や問題解決能力が随分鍛えられたと思います。

 初めてのDRBFMも同様に、自力で取り組むところから始めました。内容は、小さな部品の設計における、ある制御のしきい値(判定値)の設定でした。上司からはワークシートを渡されて、取り組むようにと指示されただけ。解答はもちろん、参考資料などももらえませんでした。空欄となっているワークシートの各項目を見て、自分で考えなければならなかったのです。

 最初は「こんなの無理」と思いました。なにしろ、何をどのように書いたらよいのか、全く見当が付かないのですから。それでもワークシートを提出しなければなりません。私はよく分からないながら、とにかく全ての空欄を埋めて上司に提出しました。

 その結果、全項目に赤字が入っているワークシートが返却されました。しかし、答えは書かれていません。2重線が引かれて、考え方だけが記されているのです。例えば「機能」の欄なら、「どのような目的か(を考えよ)」だけ。ヒントではあるのですが、不親切なもので、禅問答のような感じがしました。

 仕方がないので、そのヒントを基に考えて、書き直して提出する。すると、また赤字になって返ってくる。再び考えて、書き直して提出すると、また赤字になって返却される……。これを1カ月の間、繰り返しました。途中で投げ出したい気持ちにもなりましたが、そんなことはお構いなしに、上司からは「答えは自分で考え出すものだ」と言われ続けました。

 最終的に合格になったのは、最初から最後まで設計のストーリーが論理的に破綻なく展開された書き方でした。大変ではありましたが、こうした訓練を通じて、品質の良いものを造るにはどのような考え方で設計すべきかを学べました。

 終わった時の達成感はひとしおでした。答えを先に教えずに徹底的に考えさせる方法で、思考が鍛えられることを身をもって学びました。その後、私はエンジンの設計を通じてOJT(職場内訓練)でDRBFMを実践し、経験を重ねていきました。

変更点・変化点管理に注意

DRBFMを習得する際に、気を付けるべきポイントはありますか。

 2点あります。1つは変更点・変化点管理、もう1つは機能と故障モードの関係です。

 まず変更点・変化点管理では、変更点や変化点を抜けや漏れなく高精度に抽出することが大切です。そのためには、流用設計において流用元の仕様や構成をしっかりと把握する必要があります。

 私は流用元の部品表(E-BOM)を見て、設計の構成を把握します。E-BOMは機能構成になっているはずなので、それを見れば構成も使用部品も分かります。そのため、まずはE-BOMを確認するのです。そこから具体的にどの部分をどのように変えるのかについて、E-BOMを見ながら考えていきます。このようにして流用元の仕様や構成を把握していくのです。

 通常は、設計者であれば変更点・変化点管理を行っているはずです。ただし、それぞれが自分の頭の中でこなしているだけではいけません。仕組みに落とし込んできっちりと進める必要があります。そうすれば、変更点および変化点を高い精度で抽出できます。

機能と故障モードの関係を押さえる

 続いて、機能と故障モードの関係では、まず機能を抽出する必要があります。従って、その方法を習得しなければなりません。具体的には、機能系統図を使い、目的と手段で分解していくことで機能を抽出します。

 一方で、故障モードは機能要素やアイテム(部品)の故障の仕方です。すなわち、故障の状態に至る一歩手前の事象のこと。これに対し、故障は機能の喪失です。ところが、故障モードの欄に故障の内容を書き込んでいるケースが多いのです。

 クルマで例えると、故障モードに「クルマが止まる」と記載してしまう。しかし、ここから設計の対策を議論できるでしょうか。これでは表現が曖昧すぎて、どこに着眼して設計の対策を検討したらよいかが分かりません。

 本来、記載すべき故障モードは例えば「タイヤがパンクする」というものです。これなら、「走る」というクルマの基本機能が故障している状態であることがよく分かります。

 そして、DRBFMではこうした故障モードについても、抜けや漏れなく洗い出す必要があります。この点では、実は私も失敗したことがあります。ある部品の強度に関する故障モードを挙げなければならなかったのに、抜けがあり、試作において基準値から外れて設計のやり直しを余儀なくされました。故障モードを正しく考え切れていなかったのです。故障モードを洗い出すところは簡単ではないので注意が必要です。

部品の再手配費用が1/6に

DRBFMを指導した企業で大きな効果が得られた例を教えてください。

 部品の再手配費用を激減させた企業があります。以前は見当違いの部品を発注し、生産時に組み付けられないことに気付いて、改めて部品を発注していました。

 その企業がDRBFMを実施したことにより、適切な部品を発注できるようになりました。その結果、部品の再手配費用が1/6にまで下がったのです。各部品のばらつきが積み重なって組み付けられなくなるケースでしたが、こうした故障モードは製造部門が図面を見れば、すぐに分かります。

 もちろん、市場や顧客先、工場内での品質トラブルの発生もDRBFMを導入することで大幅に減らせます。ただし、使いこなせるようになるには、数年はかかると覚悟すべきです。なぜなら、開発設計部門はもちろん、関係する異なる部門にもDRBFMを普及させなければならない上に、故障モードを正しく漏れなく抽出できるようになるには、ある程度の訓練が必要になるからです。それでも、効果はてきめんですからDRBFMの導入をお勧めします。

 私が書いた書籍『DRBFM』では、DRBFMを正しく実践するために必須の考え方や仕組みを丁寧に解説しました。ワークシートへの具体的な記載方法が分かるように、事例紹介にもページを割いています。「DRBFMの実践の仕方が分かる決定版の本を書いてほしい」という出版社のリクエストに応えたつもりです。

日経クロステック 2025年10月28日付の記事を転載]

品質トラブルを未然に防止するためにトヨタ自動車が生み出し、クルマの開発設計で現在活用している手法(設計品質ツール)の「DRBFM」を体系的に学べる教科書。元トヨタの開発設計者が、実践の仕方がよく分かるよう、模範的な回答が分かる事例も紹介しつつ解説する。

中山聡史著/日経BP/7150円(税込み)