設計業務を中心にトヨタ流の改善や問題解決の方法を指導するA&Mコンサルト社長の中山聡史氏が、書籍『DRBFM』(日経BP)を著した。DRBFMはトヨタグループが実践する品質トラブルの未然防止手法。その利点から同社グループ以外にも導入が進んでいるが、間違った使い方をしている企業が目に付く。元トヨタ自動車の設計者でもある中山氏が、DRBFMの特徴や利点について語る。(聞き手は、近岡 裕=日経クロステック)
DRBFMについて本にまとめようと考えた理由を教えてください。
中山氏:設計分野の業務改革について、これまで多くの企業に指導してきました。そこで気付いたのが、「間違ったDRBFMの進め方」です。皆、品質トラブルの発生を極力抑えたいと考え、それこそ一大決心してDRBFMを導入していました。ところが、進め方が間違っていては、せっかくの前向きな努力が無駄になってしまいます。こうした状況をなんとかしたいと思い、原稿の執筆に着手しました。
DRBFMはトヨタ自動車だけではなく、トヨタグループで実践して効果を上げています。その評判が自動車業界はもちろん、その他の業界にも伝わって普及が進んでいます。しかし、その普及の仕方に問題がありました。
DRBFMでは「DRBFMワークシート(以下、ワークシート)」と呼ばれる特徴的な帳票(フォーマット)を使います。DRBFMがトヨタグループから外に向けて広がっていく際に、このワークシートが受け渡されました。ところが、正しい使い方や、そのベースとなる基本的な考え方まで伝わりませんでした。
その結果、「DRBFMとはワークシートのみを活用してリスクと対策を検討することだ」と誤解する企業が目立つようになりました。各企業が独自の解釈でDRBFMを実践した気になっているものの、そもそも間違った実践方法なのですから、ほとんど効果が得られていないというのが現実です。
こうした状況から脱するためには、運用方法を含めたDRBFMの正しい実践方法を学ぶ必要があります。しかし、適切な解説書がありませんでした。
なぜ解説書がなかったのでしょうか。
トヨタ自動車以外の企業でも正しく理解できる解説書を著すには、業務において正しい方法でDRBFMを実践した経験があることはもちろん、開発設計のあるべき姿まで押さえておく必要があります。
すなわち、全社における開発設計部門の役割と立ち位置、そしてあるべき開発設計プロセスまできちんと理解した上で説明できなければならないのです。そうしないと、先述の通りワークシートの空欄を埋めるだけでよいという表面的な解説にとどまってしまいます。しかし、そこまで書き込むのは大変なので、これまで解説書を書こうとする人がいなかったのではないでしょうか。
実は、トヨタ自動車の中にも技術者向けの冊子はありますが、全体を俯瞰(ふかん)して体系化したDRBFMの解説書はありません。私が設計者だった時も、OJT(職場内訓練)で習得していきました。
効果が得られないわけ
改めて、DRBFMとは何でしょうか。初めて聞く人にも理解できるように、分かりやすく教えてください。
DRBFMはDesign Review Based on Failure Modeの略語で、日本語に訳すと「故障モードに基づく設計審査」となります。2001年ごろに、トヨタ自動車が品質トラブルを未然に防ぐために開発した設計品質ツール(品質管理手法)です。
それ以前のトヨタ自動車はFMEA(故障モード影響解析)を使っていました。これが従来の品質トラブルの未然防止手法です。ところが、新機能の搭載がどんどん増えていったことから、次第に「現在の開発設計方法と合っていない」「使いにくい」と感じる技術者が増えてきました。より多くのワークシート(FMEAワークシート)を作成する必要があるため、トヨタ自動車だけではなく、協力会社の負担も大きくなりました。また、FMEAはワークシートを基に議論する仕組みにはなっていません。新機能の搭載が増加しているため、より多くの知見者と議論する必要性が出てきました。
こうした現場の不満を改善すべく生み出されたのが、DRBFMなのです。
DRBFMは、従来のFMEAよりも現在主流となっている設計(流用設計)に適している上に、より効率的に進められるように開発されました。これをトヨタ自動車は開発設計に導入したことで効果を得ました。開発設計の負担を軽減しながら、品質トラブルの発生に対してロバスト(頑強)性の高い製品を生み出せるようになったのです。
従来の方法(FMEA)と比べて、なぜ優位性があるのでしょうか。
変更点(設計者が自ら変更する部分)および変化点(外部からの影響によって変更せざるを得なくなった部分)に絞った上で、設計者だけではなく、開発設計部門を越えて様々な関係部門と議論します。こうして幅広い知見から設計の対策を施して品質トラブルの発生を抑えるため、FMEAよりも優位性があるのです。
DRBFMではまず、「変更点・変化点管理」を実施します。その上で、それぞれの変更点・変化点に対して「故障モード」を洗い出します。この故障モードは、機能要素や部品の故障の仕方を表すもので、故障の状態に至る一歩手前の事象です。あるいは、変更点・変化点によって品質トラブルを招く可能性のある「設計上の心配点」もしくは「リスク」と言ったほうが分かりやすいでしょうか。
こうして洗い出した故障モードに対し、設計の対策を立てていくのですが、設計担当者だけ、あるいは開発設計部門だけで考えることはしません。他に考えられる故障モードがないかどうかについて、製造部門や生産技術部門、試作・評価部門、品質保証部門、購買部門など、関係する部門からレビュアー(DRレビュアー)を集めて、デザインレビュー(DR、設計審査)の場で話し合う(議論する)のです。
こうすることで、開発設計部門だけで閉じずに、より幅広い知見を踏まえて故障モードを抽出して設計の対策を施します。こうして、品質トラブルの発生を未然に極力抑えて、製品の品質を高めるという仕組みです。
つまり、DRBFMの要点は2つです。1つは変更点・変化点に絞って故障モードを洗い出すこと。これは、流用設計が主体となっている現在の設計開発現場のニーズに合わせたものです。
現在の設計は、実績がある過去の設計を利用しながら、新規設計を施していきます。そのため、既に市場に投入済みで、品質上の問題が発生していない過去の設計部分については、十分な実績があると見なしてそのまま使用します。その分、より高度で複雑化している新規設計の部分に集中してDRBFMを実施し、品質トラブルの発生を未然に抑え込むというわけです。
もう1つが、DRにおいて異なる部門からDRレビュアーが集まって議論することです。それを可能とするために、事前に準備も行います。開発設計部門が作成(仮作成)したワークシートを事前に異なる部門にいる各DRレビュアーに配布し、故障モードについて記載してもらいます。そして、それらを基にDRにおいて全員で故障モードについて議論していくのです。
この議論の重要性は、私がトヨタ自動車で働いていた時にも社内で強調されていました。そもそもDRBFMは議論する仕組みを組み込んで開発されたものなのです。
当初から議論を重視してDRBFMを開発したのは、なぜでしょうか。トヨタ自動車では以前から工場から開発設計部門に注文がいくなど、他部門の意見を設計に織り込んできたと聞きます。
クルマの機能がますます複雑になっていき、開発設計部門だけでは品質トラブルにつながり得るリスク、すなわちあらゆる故障モードを予測できないと考えるようになったからです。そのため、開発設計部門だけではなく、他の部門から見た専門的な知見をさらに積極的に取り込むことになりました。
確かに、トヨタ自動車の開発設計部門は昔から製造部門(工場)の意見に耳を傾けてきました。DRBFMではそうした活動を、製造部門以外にも広げた上に、仕組みとして確立させたものと捉えることができます。
良いクルマを造るために、皆で議論を通じて関係する部門の意見をできる限り広く聞き入れるという、トヨタ自動車のクルマづくりの強みを「仕組み化」したものがDRBFMというわけです。
そして、この議論の結果を示したのがワークシートなのです。トヨタ自動車におけるクルマづくりの専門家が集まって議論した内容が、ワークシートという形で集約されているのです。
以上を知れば、自社で行っているDRBFMが正しいか、それとも間違っているかが分かると思います。多くの企業は、設計担当者が1人で考えてワークシートの空欄を埋めたり、過去のトラブル事例、いわゆる「過去トラ」を探してきて、それをそのまま記載したりしています。担当者だけで、あるいは開発設計部門だけで閉じているのですから、これでは故障モードに抜けや漏れを防げず、品質トラブルを未然に防止するという効果が得られないのは当然です。
[日経クロステック 2025年10月21日付の記事を転載]
中山聡史著/日経BP/7150円(税込み)

