北欧のライフスタイルに着想を得た商品を販売するECサイト「北欧、暮らしの道具店」で店長を務める佐藤友子さん。実兄である青木耕平さんと共同創業したクラシコムの取締役副社長でもあります。「クラシコム佐藤友子 本棚にずっといてもらう本」最終回は、佐藤さんが普遍的な経営感を養えたという古典の名著について話してもらいます。
クラシコムは、今、次のフェーズに移ろうとしています。大きなプロジェクトを始めるにあたり、社内体制もよりよいものにしていきたいと考えています。
こんな潮目のときに、思い出すのが「老子」の考え方。普遍的な経営観が養えるし、特にこの方の翻訳が読みやすいよと、兄に薦められた1冊です。この本 『老子』(老子著、蜂屋邦夫翻訳、岩波書店) も、これまでご紹介した私の本棚の定番の本と一緒に最前列に並べて、ずっと手元に置いています。
困難をわざわざ「乗り越えない」
この本を読んで何か意識が変わったということはないのですが、老子の「いい流れにも悪い流れにも逆らうな」という教えは、クラシコムとほぼ同じ流派なのではないかなと思っています。
これまでも、「今よくない流れがきているな、ざわざわするな」ということは何度かありました。そして1つよくないことが起こると、芋づる式にどんどん悪い方向にいって、いろんな「うみ」が出てきてしまうということもありますよね。このようなざわざわ感のシグナルが出たとき、つい焦ってしまいそうになります。
短期的に見ると今の状態を「悪い」と評価してしまうけど、別のカメラから見るとそうでもない。だから、あらがうのではなくそのシグナルが収まるまで待とうと、どっしり構える。それがこの老子の教えだと思っています。
バタバタせずにゆっくり時間をかけて解決していく。これは創業時からのクラシコムのやり方で、もともとそうやっていきたいと目指していた価値観なんです。
困難があっても「乗り切る」のではなく、今目の前にあることを淡々と受け入れながら、やれることをやっていく。できることからコツコツ対処していく。そうして振り返るといつの間にか大きな問題がなくなっていたということも多いですね。
「足るを知る」という考え方にも近い気がするのですが、ずっと満ち足りた状態って逆に不健全だとも思うんです。なんでも得たいものを得ることが、豊かさにはつながらないんだなあ、とか。
だから、この本を読むと、「やっぱりそうだよね、こういうことだよね」と再確認できます。古代からこういったことを説いてきた人がいたんだな。私たちは知らずに影響を受けてきたのかもしれないと、学びにもなりますね。
老子の言葉に触れると、自分のバランスを取り戻せるというか、本来持っていた感覚が蘇る感じです。「転職したいけど、なかなかできない」「思い通りのキャリアが描けない」など、焦りを感じている人に手に取ってほしい本ですね。
会社が大きくなる中で、役割が変わってきた
クラシコムは、2022年に東京証券取引所グロース市場へ上場し、社員も約100名になりました。そして2026年7月期の通期業績予想では、売上高は100億円規模(102億円)へと成長。事業が拡大していく中で、私の役割も変わりつつあります。
「北欧、暮らしの道具店」の全てに責任を持つ立場として、発信する言葉にも変化が生まれてきました。そもそも、立場が変わるごとにその受け取られ方も変わってきているように感じます。また次の段階に進むために、私が担ってきた役割をもっとみんなに共有していくフェーズに入っているなと感じます。
会社が大きくなる中で、新たな課題や問いも生まれてきていて、大変になるのは目に見えています。ですが、さらに前に進める手応えはしっかり感じています。「老子」の教えの通り、焦ることなく、無駄にあらがわず、粛々と前に進んでいきたいと思っています。
取材・文/磯部麻衣 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子



