北欧のライフスタイルに着想を得た商品を販売するECサイト「北欧、暮らしの道具店」で店長を務める佐藤友子さん。実兄である青木耕平氏と共同創業したクラシコムの取締役副社長でもあります。第3回は、事業拡大を続けるクラシコムのリーダーが、真のリーダー像を学んだ本ついて伺いました。
クラシコムを創業してからもうすぐ20年が経とうとしています。創業当初は、この連載の第1回の記事 「北欧、暮らしの道具店 店長・佐藤友子が社員に配ったクラシコムの課題図書」 で紹介してきた『生活はアート』(パトリス・ジュリアン著、主婦と生活社)、『花森さん、しずこさん、そして暮しの手帖編集部』(小榑雅章著、暮しの手帖社)などの本に背中を押されてきました。
そして、リーダー20年目を迎え、50代になった私が今最も心を揺さぶられたのが、この 『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン 実績・省察・評価・総括』(株式会社カラー編、グラウンドワークス) 。出版されるやいなや、弊社のなかでも話題になった本です。
リーダー20年目の佐藤友子が「一番ぶち上がった本」
この本は、庵野秀明さんがどんなリーダーだったのか、その近くで働いていた人たちは何をしていたのかということが細かくレポーティングされた、プロジェクト報告の集大成のような本なんです。
読み解いていくと、私の仕事にも役立つエッセンスが多くて。大きなプロジェクトをチームで遂行していくのは本当に大変なことで、スマートにはいかないことばかりです。私は常日頃からそれをひしひしと感じているので、クリエイティブな領域でチームを束ねるとはこういうことなんだと、多くの学びがありました。
「シン・エヴァンゲリオン」は、庵野さんだけでなくいろんなプロが集まって作り上げられたものですが、公開は新型コロナウイルス禍だったにもかかわらず興行的にも大成功しました。この本を読むと、「ああ、やっぱりそこまでやっていたのか……」と驚かされます。いいものを作ろうと思ったら一筋縄じゃいかないなっていうことが手に取るようにわかり、それがすごく励みにもなります。
最初に読んだ代表の兄が「これ絶対佐藤さんが一番ぶち上がる本だよ。佐藤さんの元気が出る本」と、薦めてくれて……。はい、めちゃくちゃぶち上がりました(笑)。私の本にはいくつも折り目がつき、中にもたくさん書き込んでいます。
庵野秀明のリーダーとしての「広げ方と畳み方」
プロジェクトを進めるうえで、どんな課題やトラブルがあって、その時庵野さんがどう判断して対応したかということも細かに書かれているんです。プロジェクトが立ち上がった時に庵野さんが関係者に向けて書いたエッセーも公開されていて、リーダーとしての最初の「旗の立て方」もすごく参考になりました。
一番面白かったのが、庵野さんがスタッフにものすごく考えさせるという初期工程。最初に庵野さんは「自分はこうしたい」などとは言わず、大きな風呂敷を広げてスタッフに課題を投げるんです。ただ、それを最終的にどう収束していくかというと、結局、最後は庵野さんが出て行かれるんです。
普通なら「それなら、最初からそう言っておいてよ」みたいなツッコミがあるところなんですけど、これが庵野さんのすごいところ。スタッフ全員が、庵野さんがどういう人かをよくわかっていて、リスペクトしているから、本の中にはそんな言葉は一切出てこないんです。
庵野さんは夜通し編集室に張り付いて、秒単位で編集のつなぎを指示されるような方。庵野さんもスタッフも全員が「自分」じゃなく「作品」に視点が定まっているからなのだと思います。みんなが高みを目指しているんですよね。
主観的になりすぎず、社内アンケートなどを取るなどして客観的な視点を入れ、でも最後は自分の主観に責任を持ち、仕上げる。そういうリーダーとしての風呂敷の広げ方と畳み方は、すごく勉強になりました。
最初に読んだのは、3年前くらい。最近また読み返したんですが、年単位の大きなプロジェクトを始めようとしている今、また勇気づけられました。
今回のプロジェクトは社内だけでなく社外の人も関係してくるので、すごくプレッシャーがあって、もう始める前からぐったりしているんです。眠りも浅くなるし……。
「でも、やるって言ったの私なんだよな。誰のせいにもできないのに」ってわかってはいるので、この本を読みながら頑張ろうと思っています。うまく旗を立てて、周りといい関係を築きながら、少しでも庵野さんのようなリーダーに近づきたいですね。
リーダーとして最も苦しかった10年前に頼った本
今は今で、ものすごいプレッシャーを感じているのですが、リーダーとして一番苦しかったのは創業10年目くらいの時でした。会社の規模が突然大きくなってきて、知名度も上がってきているけど、プライベートではまだ4歳の子どもを育てていて。
まだ、今のようなアパレル事業もなかったですし、動画制作にもトライしていない頃だったんですが、メディアとしてどう存在していくかということについて、ものすごく悩んでいました。
ものを見つけて売って、売り上げを作るための組織は出来上がっていたのですが、メディアとして認められる存在になるにはどうしたらいいのかを考える日々でした。コラムのようなコンテンツも増やしたいと思っていましたが、編集経験のある人もいなくて。人と人とが寄り集まってチームを構成する時に、リーダーが部下にどう向き合うかって本当に難しいテーマだと思うんですよね。性格も1人1人違いますし、私も当時、みんなのさまざまな思いをどうまとめていくかについてすごく悩んでいました。
もちろん今でも同じような悩みはあるんですけど、当時は今よりもっと未熟だったので、方法論すら知らなかった。毎日、誠実に、一生懸命向き合って進んではいたものの、コミュニケーションに関しては、ただ真面目にやってもうまくいかないものですよね。
そんな時に参考になったのが、 『人事評価はもういらない 成果主義人事の限界』(松丘啓司著、ファーストプレス) でした。
ここに書かれている「評価」は、例えばあなたはこういう働きだったからこういう評価にしますという決まりきった制度のことではなく、これからの未来、どういうことを一緒にできそうな人かっていうことをよく知り、それに評価を合わせていこうという話がベースになっています。
それに伴ってマネージャーは、「部下のことをよく理解するためにどんな1on1をやるといい」とか、「どういう質問投げかけるといいよ」などの具体策がすごく丁寧に解説されているんです。あの頃の私を前進させてくれた思い出の1冊。初めてリーダーを任された人にもお薦めです。
取材・文/磯部麻衣 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子





