2025年10月、日経ビジネス人文庫は創刊25周年を迎えました。日経ビジネス人文庫は、さまざまなジャンルのヒット本や名著を生み出してきました。日経ビジネス人文庫の平井修一編集長と編集者が、テーマごとに今、ヒットしているおすすめの本の制作秘話や読みどころを解説します。今回は、「賢く生きる思考と一生モノの学習力」が身に付く本を5冊紹介します。

日経文庫・新書統括編集長 平井修一(以下、平井) 今回は「賢く生きる思考」と「一生モノの学習力」が身に付く日経ビジネス人文庫を5冊紹介したいと思います。まず1冊目は『自分と相手の「本音」がわかる会話術』です。この本は、「会話」における自分と相手の「本音」という部分にまで踏み込んだ、コミュニケーションの思考が変わる本ですね。

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劇場版『鬼滅の刃』とリンクするコミュニケーションの本質

『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著、日経ビジネス人文庫)

日経BOOKSユニット第1編集部 酒井圭子(以下、酒井) はい、もともとは 『本音に気づく会話術』(ポプラ社) という単行本でした。この本を大幅に加筆、改題をして文庫化したのが、 『自分と相手の「本音」がわかる会話術』 です。

『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ

 コミュニケーションについて書かれている本は、「相手に自分の言いたいことが伝わらない」という悩みに対して、「伝える技術」を教える内容のものが多いと思います。一方、この本では「伝わらないのは、自分の『本音』を相手に言えていないから」だと考え、まずは自分と相手の本音(心の奥で大事にしていること)を見つけましょうというメッセージが前提にあります。西任さんは、本書で「頭のコミュニケーション(話し方)だけでなく、心のコミュニケーションが大事」と一貫して伝えています。

平井 「練習編」としていろいろなケースが掲載されていて、勉強になりますね。例えば、「学生時代の仲間と飲んでいて、1人が『転職するのもいいかも』と言ったときの事例」が印象的でした。

酒井 各章の「練習編」は文庫化に当たって、新規で追加いただいたものです。転職の事例は、ある人が学生時代の仲間に「転職するのもいいかも」と本音の一端を見せたのに、友人からは「あんなにいい会社にいるのに」「だいたい、お前は学生時代からぜいたくなんだよ」「趣味でも持てばいいんじゃない?」「じゃあ、またみんなでバンドやるか」と言われ、あらぬ方向に話が転がっていく……というケースですよね。人は会話の中で本音の一端を見せているのに、他の人はそれを見過ごして、違うところに誘導してしまう。だから、うまくかみ合わないし、伝わらないんだと納得できるエピソードでした。

 私も著者の方々とお話をしているとき、「この言葉は原稿の小見出しに使えそう」「新企画になりそう」と“頭の中で自分と会話している”ことが多く、その場の話をそのまま聞けていないと反省しました。

平井 確かに、みんな自分勝手に解釈しているのかもしれませんね。

酒井 ちなみにこの本は、実は「日経BOOKプラス発」とも言える本なんです。日経BOOKプラスでは「あの会社の課題図書」という連載があり、セガサミーホールディングス総務本部の茂呂真由美さんの取材記事で紹介されていたのが、著者の西任さんの本だったのです。

 取材から帰ってきたBOOKプラス編集部の小谷雅俊さんから「茂呂さんが推薦図書を挙げてくださった中で、 『「ひらがな」で話す技術』(西任暁子著、サンマーク出版) という本が面白そうですよ」と教えてくれて。実際、私も読んでみたら、本当に面白い。そこから横展開で、西任さんの本を何冊も読み、元の本に出合ったのが始まりです。

平井 ちなみに著者の西任さんはどんな方ですか。

酒井 慶応義塾大学在学中からラジオDJとして活動し、TOKYO FMや全国のFM局で約15年にわたって番組を担当、今もFM COCOLOでレギュラー番組をお持ちです。とてもチャーミングな方で、お話を聞いていると引き込まれます。Voicyでも発信され、フォロワー数は1.5万人。Voicyで本書を紹介してくださったときは「この本で言いたかったことと、 劇場版『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』 はリンクしている」とおっしゃっていました。

 西任さんが言うには、「鬼は、最期に自分自身が持っていた本音が分かる」のだと。本音とは「本来」の「音色」で、「鬼は自分の死を前にして、最期にそれに気づけた」というのです。劇場版を見てみたくなりました。

平井 話題の劇場版『鬼滅の刃』と内容がリンクしているとは。深いところでつながっていて興味深いですね。

「最高に面白く、最高に怖く、最高に深い」

『知性の罠』(デビッド・ロブソン著、土方奈美訳、日経ビジネス人文庫)

平井 続いては『知性の罠』です。もともとは『インテリジェンス・トラップ』という本で、文庫化して中身が分かりやすくなりましたね。

右:『知性の罠』(デビッド・ロブソン著、土方奈美訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ 左は元の本『インテリジェンス・トラップ』
右:『知性の罠』(デビッド・ロブソン著、土方奈美訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ 左は元の本『インテリジェンス・トラップ』

日経BOOKSユニット 第1編集部 黒田琴音(以下、黒田) おっしゃる通り、元の本は私が入社する前に出版されていた 『The Intelligence Trap なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか』 という本でした。

 昨年、部長との面談で「賢い人がどうして反ワク(ワクチン反対派)になるのか興味があるんです」と話したら、この本を紹介されました。読んでみたらとても面白くて。今年の1月に文庫化したいと伝えて、急ピッチで編集作業を進めて4月に出版しました。

 本書にはノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』が出てきます。カーネマンは人が意思決定をする際の「ファスト思考(システム1)」を直観によるもの、「スロー思考(システム2)」を熟慮するものとしていますが、こちらの説を目にした際、慶応義塾大学名誉教授の今井むつみさんのご研究や最終講義のことを思い出し、推薦文をお願いしました。

平井 「最高に面白く、最高に怖く、最高に深い」という、とてもいい推薦文を頂きましたね。

黒田 今井先生はこの本を読み込み、いっぱい付箋を貼った写真も送ってくださいました。熟読を超えた熱読とも言える読み方でとてもうれしかったです。日経BOOKプラスでは、書評も書いていただきました。

 この本のあとがきで著者が書いていますが、真の知性とは、IQや学歴だけではなく、洞察力と緻密さと謙虚さを持って使うことで育っていくものなんですよね。最初はこの本を「あの人、あんなに頭のいい大学を出ているのに、どうしてこんなバカなことを言うんだろう」と笑いながら読んでいたのに、途中から「あれ、もしかしたら自分も……」と笑えなくなってくる。イギリス人の著者らしいブラックジョークが利いた本でもあります。そういう意味でも、今井先生は「最高に面白く、最高に怖く、最高に深い」という推薦文を寄せてくださったのだと思います。

平井 シャーロック・ホームズを書いたコナン・ドイルが交霊会にのめり込んでいたとか、ノーベル化学賞を受賞したキャリー・マリスが陰謀論の支持者だったとか、そうした例も出てきましたね。一般的に「賢い」とされる人物が、「自分こそが正しい」という奇妙な思い込みにとらわれてしまう。よく「自分の頭で考えなさい」といわれますが、「自分の頭で考えたからこそ、正しい」という罠にはまってしまうのだと感じました。

黒田 そうなんです。そうした「知性の罠」やフェイクニュースにはまらないためにはどうすればいいのかも書かれています。

平井 この本に出てくる「モーゼは方舟に、1つの種から何匹の動物を乗せたか?」という問い、皆さんは答えがすぐ分かるでしょうか。私も見事に引っかかりました。

黒田 私もです(笑)。この問題に引っかかってしまう人はきっと、この本を興味深く読んでいただけると思います。ちなみにこの問題の答えは、本書を抜粋したこちらの記事で確認できます。

世界的に有名な「ツェッテルカステン」というメモ術

『メモをとれば財産になる』(ズンク・アーレンス著、二木夢子訳、日経ビジネス人文庫)

平井 さて、3冊目に紹介するのは、『メモをとれば財産になる』です。

日経BOOKSユニット 第1編集部 中野亜海(以下、中野) こちらは、2021年に出版した 『TAKE NOTES!』 を文庫化したものです。

平井 私は大学で社会学を学んだのですが、社会学を勉強した人なら誰もが知っていると言っていいほど偉大な学者でニクラス・ルーマンという人がいます。この本は、そのルーマンのメモ術を紹介した本ですね。

右:『メモをとれば財産になる』(ズンク・アーレンス著、二木夢子訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ 左は元の本『TAKE NOTES!』
右:『メモをとれば財産になる』(ズンク・アーレンス著、二木夢子訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ 左は元の本『TAKE NOTES!』

中野 そうなんです、その名も「ツェッテルカステン」というメモ術です。ルーマンは「ツェッテルカステン」をテーマに、58冊の著書と数百本の論文という膨大な業績を残しました。この本では、著者のズンク・アーレンスがデジタルの文書管理システムなどを使いながら、「ツェッテルカステン」を現代で役立てるにはどうすればいいかを説明しています。

平井 この本を読んで思い出したのが梅棹忠夫さんの京大式カードです。1969年に刊行された 『知的生産の技術 』(岩波新書) いう有名な本で紹介されています。梅棹さんは文化人類学のフィールド調査などでカードを使った経験などを基に、情報整理やアイデア発想の手法としてカードの活用法を考案し、紹介しました。大学生協にもハガキのサイズぐらいの京大式カードが売っていて、私も大学生の頃に使ってみた記憶があります。今は自分のパソコンがあり、ネットで情報を探したり、整理したり、共同研究者たちとやりとりしていたりするので、研究者でも紙のカードを使う人は減っていると思いますが、この「ツェッテルカステン」は、梅棹さんの手法をさらに進化させたようなメモ術ではないかと感じました。

中野 そもそもこの本を文庫化する版権を取ろうと思ったのは、ネットで「ツェッテルカステン」と検索すると、海外では膨大なノウハウ動画が見つかるのに、日本では少なかったからです。メモを書くのが好きな人はきっと、自分で書いたメモの最適な整理方法を知りたいはず。「ツェッテルカステン」のメモ術というのは、実はメモを取るだけではなく、メモ同士をつなげることが大事で、この本では「リンクを張る」など、いろいろな方法を紹介しています。

平井 実際、どんな人に読まれていますか。

中野 メモ好きな人、理系や研究職、作家、クリエーターの人と幅広い皆さんに読んでもらえているようです。元の本の『TAKE NOTES!』を読んだ人の例ですが、その読者は東京大学の大学院博士課程在学中に教授から指摘された際、「ツェッテルカステン式のあのメモに書いてあった!」と実際にアプリからメモを出してすぐ見せることができたという感想もありました。

平井 メモ術は、勉強している学生だけでなく、仕事を覚えたり、学びや教養を深めたり、アイデアを生み出したりと、ビジネスパーソンにも大いに役立ちそうですね。

膨大な勉強範囲を効率よく攻略し、結果を出す

『何がなんでも合格する独学勉強法』(イ・ユンギュ著、岡田直子訳、日経ビジネス人文庫)

平井 4冊目は、『何がなんでも合格する独学勉強法』。こちらは 『私は合格する勉強だけする』 の文庫化ですね。最近は、日本の出版社が韓国の本を翻訳して出版することも増えてきました。

左:『何がなんでも合格する独学勉強法』(イ・ユンギュ著、岡田直子訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ 右は元の本『私は合格する勉強だけする』
左:『何がなんでも合格する独学勉強法』(イ・ユンギュ著、岡田直子訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ 右は元の本『私は合格する勉強だけする』

中野 この本は「勉強本といえば、日本以上に受験戦争が激しい韓国だ」と思って韓国の本を探しているときに見つけました。著者のイ・ユンギュは9カ月で司法試験に合格した勉強系YouTuberです。今は弁護士をしながら、動画を配信しています。

平井 教材選びや勉強方法、試験への臨み方などが網羅されていて、面白いですね。

中野 何といっても、司法試験という大変な試験に向けていかに効率よく勉強していたのかが分かる本です。「試験までに間に合わないであろう勉強量をどう攻略するか」という視点でのメソッドがとても役立ちます。

日経BOOKSユニット 第1編集部 三田真美(以下、三田) 文庫化は私が担当しました。この本は見出しが150個もあり、知りたいところから手っ取り早く読めるのがとてもいいんですよね。文庫化する際も、見出しごとに改ページをして読みやすくしたので、「今できることをしよう」という項目は、1ページに4行しかないので、余白が目立ちます。それだけ読みやすさを重視して作りました(笑)。

 文庫化で変えたのはタイトルと表紙くらいですが、「赤本」のイメージに近い目を引く赤系の色にして、「何がなんでも」は手書きにして全体のバランスを整えました。ちなみに、タイトルに入れた「何がなんでも(NN)」というのは、某進学塾の志望校別コースの名称から着想を得ました。

平井 どこかで聞いたことがあると思ったら!

三田 ビジネスパーソンの皆さんはお子さんの受験にも熱心な人も多いでしょうし、ピンときてくれる方がいたらうれしいですね。この本は、分かりやすい言葉でシンプルな構成なので親子で読みやすいと思います。

 働きながら勉強している人は、「独学」で勉強を進めている人が多いですよね。時間がない中で自律して勉強に取り組んでいる皆さんに手に取ってもらえるよう、「独学勉強法」というタイトルにしました。日々、勉強に取り組んでいるさまざまな人に、参考にしてもらえたらうれしいです。

経営者が絶賛 コーチングの神様のメソッドが凝縮

『コーチングの神様が教える 「できる人」の法則』(マーシャル・ゴールドスミス著、マーク・ライター著、斎藤聖美訳、日経ビジネス人文庫)

平井 最後の5冊目は、『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』です。

『コーチングの神様が教える 「できる人」の法則』(マーシャル・ゴールドスミス著、マーク・ライター著、斎藤聖美訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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三田 元の本は、同一タイトルで2007年に出版された大ベストセラーでした。今回、文庫化で表紙を変えたところ、「平成から令和のカバーになった」と評判です。著者のマーシャル・ゴールドスミス氏は企業のCEOなどにコーチングを行う「コーチングの神様」で「1時間25万ドルの男」ともいわれています。1ドル150円換算で約3750万円ですから、すごい報酬ですよね。

 なんと、今回の文庫化に当たって、30分だけ時間を頂くことができ、動画でメッセージを寄せてもらいました。

平井 すごいですね。30分というと約1900万円……! 実際に会われて、いかがでしたか。

三田 動画は「合図をして、質問を読み上げてくれたら答えるから」と言われたので、スリー、トゥー、ワン、ゴーで私が質問を読み上げると、もう、そこからは立て板に水。うわあ、すごい! と感動しました。言葉に詰まることなく、時間もぴったり。ぜひ動画を見てもらいたいのですが、これ、無編集なんですよ。そして、76歳の今もパワフル。オーラがあって、壮健という表現がぴったりの方でした。

平井 さすが、「神様」ですね。

三田 コーチングのプロなので、どんな質問にも答えられるという印象を受けました。しかも、すべてが非常に含蓄のある言葉でした。

 この本自体は、今すぐやめるべき「20の悪い癖」について書かれています。例えば、「ひと言よけいなことを言う」「言い訳をする」などは、心当たりのあるビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。さらにそこから自分を変えていくための「7つのステップ」と「8つのルール」も教えてくれるので、勉強になります。

平井 「ルール8」の「最高の変わるタイミングは、今だ」は自己啓発の王道とも言える言葉ですね。

三田 ゴールドスミス氏は、宗教的ではなく「哲学的な仏教徒」として長年、座禅を組んでいるそうです。だからこそ、「今、このときに注力するのが大事」だと言っています。

 今回は『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』と『トリガー 6つの質問で理想の行動習慣をつくる』 の2冊を同時に文庫化しましたが、こちらはゴールドスミス氏の最初の書籍で原点とも言える1冊。400ページ超で文字も多めですが、それだけ内容が凝縮されているので、とてもお得です。経営者で、この本を絶賛する人も多いのも納得です。

平井 コーチングを受けたい人は、まずこの本を読んでみるのもいいですね。

三田 そうですね。ゴールドスミス氏は、自分のコーチングの知見をBotで答える「Marshall’s wisdom」も開発していますが、まずはこの本を読んでみてください。無意識にやりがちな自分の悪い癖に気づき、人間関係を少しでも改善するようなきっかけがつかめるかもしれません。

文/三浦香代子 構成・写真/長野洋子(日経BOOKプラス編集)