外の世界は、大人だけでなく子どもにとってもストレスがかかりやすい場です。4~5月は、入園・入学・進級といった大きな環境の変化が訪れ、親子共に見えない緊張や不安を抱えやすい時期でもあります。本連載では、そんな課題への解決策として、どんなに環境が変わっても「ここに帰れば安心できる」と親子で思える「タッチケア習慣」を紹介します。お話を伺うのは、最新刊『 親子が一生モノの「安心」でつながる タッチケアの魔法 』(日経BP)の著者・小堺友美さんと、同書の監修を務めた「タッチ学」の第一人者・山口創教授(桜美林大学)です。『 子供の「脳」は肌にある 』(光文社新書)、『 読めば親子でマインドフルネス 最高に心地よく眠れるお話47 』(日本文芸社)など数多くの著書・監修書を持つ山口さんと、タッチケアの世界的権威ティナ・アレン氏からも学んだ小堺さん。「ふれる力」を知り尽くした二人の対談を通して、わが家を「最高の居場所」に変えるヒントを探ります。対談1回目のテーマは、「環境の変化・不安に効く親子のタッチケア」です。

学校は「頑張る場所」、家庭は「安全基地」

山口創さん(以下、山口) 4月から始まる新学期の時期は、学校や学年が変わって新しいクラスに入って、友達ができるかな? 新しい先生と合うかな? と、子どもにとってすごく不安な時期ですよね。

小堺友美さん(以下、小堺) 生活のリズムも含めて身の回りの環境が変わるとき、子どもたちの気持ちは不安定になりやすいですね。私も2人の子育てを通じて、入園、入学、進級、引っ越し……と、節目のたびに子どもたちの気持ちが揺れるのを感じてきました。

 そういうときこそ、安心を育むタッチケアが助けになると思っています。ふれることでオキシトシンという愛情ホルモンの分泌が高まり、ストレスホルモンの分泌が抑えられる。さらに免疫力のアップや睡眠の質の改善にもつながることが分かっています。

山口 子どもにとって学校は自分の力で冒険して、チャレンジして頑張っていく場所です。だから家に帰ったら安心させてあげる、ストレスをケアしてあげるのが家庭の大事な役割。しっかりふれてあげることで安全安心な気持ちを持てると、「また明日から頑張ろう」という気持ちが芽生えてくる。その繰り返しの中で、子どもたちは成長していくのだと思います。

「学校は自分の力で冒険、挑戦する場所。だから家庭では“安全安心”が大事」と山口さん。
「学校は自分の力で冒険、挑戦する場所。だから家庭では“安全安心”が大事」と山口さん。
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小堺 タッチケアのいいところは、子どものためだけではなく、ふれる親自身も癒やされるということですよね。復職されるお母さんからは「子どもが風邪を引くと仕事に迷惑をかけてしまう」「自分のせいで子どもに大変な思いをさせてしまっているような罪悪感がある」「余裕がなくてイライラしてしまう自分が嫌になる」という不安や悩みもよく聞くのですが、そこにもタッチは効くんですよね。

山口 まさにそうです。タッチをすると、ふれられた側もふれた側もリラックスできて、ストレスケアになります。そして、脳内ではオキシトシンが分泌される。親子のタッチケアでの働きという意味では、オキシトシンには大きく分けて2つの作用があります。

 1つは親子の間の信頼関係を築くこと。子どもは未熟な状態で生まれて1人では生きていけませんよね。そこで、オキシトシンは誰かに頼って世話をしてもらうという信頼関係、愛着を形成することに深く関わっています。最初は親御さん、祖父母との親しい関係が築かれ、それが友人知人を信頼するということへ広がっていく。人とのつながりに作用しているのです。

 もう1つはストレス反応への作用。私たちはストレスを抱えるとコルチゾールが増えるなど、体にストレス反応が出ますが、オキシトシンはそれを抑えてくれます。タッチケアでお互いの体温を感じて、温かい幸福感にほっとリラックスできるのは、この作用の働きです。

「みんなと同じ安心感」が「比較の苦しみ」にならないために

小堺 でもそもそもなぜ私たちは環境の変化に敏感で、不安になり、ストレスを感じやすいのでしょうか。

山口 人間にはとても強い防衛本能があります。話は狩猟時代までさかのぼるのですが、当時はちょっとした環境の変化を敏感に察知できなければ、文字通りの意味で命の危険がありました。つまり、不安という感情は自分を守るために生み出されたんですね。しかも、日本人は世界で最も不安を感じやすい民族だといわれています。セロトニンという神経伝達物質に関わるセロトニントランスポーターという遺伝子があるんですが、日本人はその機能が弱いタイプが多いんですね。

小堺 世界一不安を感じやすい。どうしてなんでしょう?

山口 日本は地政学的に見て、地震や台風といった自然災害が非常に多い場所です。不安を強く感じる人ほど、津波などの災害時にいち早く逃げて、生き延びてきた。結果として不安が高い遺伝子を持った人が多くなった、と。さらに、みんなと同じ行動をしていると安心できるという国民性もそこから来ていると考えられています。

小堺 日本人とひとくくりにしてしまってはいけないかもしれませんが、私が4年ほどタイで暮らしてから帰国した後は、やっぱり生真面目さや誠実さを強く感じました。周りの人と歩調を合わせられることは日本の良さでもあるけれど、「一般的」や「普通」を強く求められると同調圧力のようにも感じて、ストレスになりますよね。

 特にこれだけ情報があふれている時代には、子育てにしても、働き方にしても、「こうすべき」「こうしなきゃ」という大きな声に影響を受けやすい。SNSで他の家庭と比べて自分はダメだと感じてしまったり、うちの子は大丈夫かなと不安になってしまったり……。

 私自身も会社員時代に2人の子どもが保育園に入り、復職した頃、同期の女性たちと比べて「仕事も子育ても中途半端な自分はダメだ」と落ち込んでいた時期がありました。

「日本には周りと歩調を合わせられる良さがある一方で、”大きな声”の影響を受けやすい」と小堺さん。
「日本には周りと歩調を合わせられる良さがある一方で、”大きな声”の影響を受けやすい」と小堺さん。
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山口 心理学では「社会的比較」と言いますが、SNSが発達するとこの傾向がどんどん強まっていきます。みんないいことばかり投稿するので、自分の方が下だと感じやすい。比較して上に感じることってあまりないですよね。だから、目の前の自分の子どもだけを見る。タッチしながら、その日の出来事をなんとなく語り合う。そんな態度がより大切な時間になってくるのだと思います。

タッチは「一生の宝」。自己肯定感の根っこを育てる

山口 子どもの頃にたくさんタッチをしていくと、オキシトシンを作る細胞の数が増えていきます。そういう脳に育ててあげると、大人になってもオキシトシンが多い状態を保つことができるわけです。すると、人を信頼しやすくなったり、ストレスに強くなったりということが一生の間続いていく。だから私はよく「タッチは一生の宝」と言っています。ただし、何歳までにタッチケアをしなければ手遅れということは絶対にありません。いつからでも効果はありますから、いっぱいふれてあげましょう。

小堺 タッチケアは自己肯定感を育むことともつながっていますよね。タッチで伝わる気持ちには評価がないんです。「あなたはこれができるからいい子」ではなく、「どんなあなたも大切だよ」を真っすぐに伝えられます。

 言葉だとこじれてしまう反抗期にも、家から出かけるときに「いってらっしゃい」と言いながらハイタッチをしたり、「おかえりなさい」と軽くハグをしたり、寝る前に頭を軽くポンポンとしたりすることで、「あなたはいつも変わらず大切な存在なんだよ」という気持ちが届きます。

「タッチケアに手遅れはない」と山口さん。「タッチで伝わる気持ちに評価はなく、存在を丸ごと大切にできる」と小堺さん。
「タッチケアに手遅れはない」と山口さん。「タッチで伝わる気持ちに評価はなく、存在を丸ごと大切にできる」と小堺さん。
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山口 人は親しい間柄の相手から抱きしめられると、自分がここに存在していることを認めてもらった感覚を持てます。これが自己肯定感の根っこ。特に子どもが小さい頃は言葉であれこれ話しかけるよりも、伝わります。まずは感情としての自己肯定感を体で育ててあげることが大事。挑戦する力、協調性、共感性、やり抜く力といった非認知能力も全部、安心感の土台の上に育つものです。

小堺 タッチケアは特別な道具もいらないし、短時間でできる。長時間しなければならないものではなくて、肩をポンとふれるのもタッチケア、ちゃんと目を見て話を聞くのもタッチケア。今日から始められるんです。

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構成/佐口賢作 写真/鈴木愛子

タッチケアとは、肌と肌のふれあいを通じて心身のリラックスを促し、深い安心感と癒やしを届けるケア方法です。特別な道具も場所も必要のない「ふれる」という行為は、実は人間にとって最も原始的で、かつ最高のコミュニケーションなのです。その効果は世界各国の研究で科学的にも証明されており、単なるスキンシップを超えた「心身を整える技術」として注目されています。日々の何気ないタッチを通じて、親子のふれあいをかけがえのない記憶、そしてお子さんの一生を支える心の宝物にしていきましょう。

小堺友美(著)、山口創(監修)/日経BP/1760円(税込み)